いる太郎
アリスが皇に告白されたから二ヶ月がすぎた。
この二ヶ月間本当に皇からアリスに接触する事はなく、もとより交番が学校近くにある為たまにパトロールする姿を見かける事はあったが目があったとしても会釈をされるだけでそれ以上何か言葉を交わすこともなかった。跪かれて愛を伝えられた公園もすっかり桜が散ってしまい青々とした葉がつく頃になっていた。
「ごめん、アリス!今日一緒に帰れない!」
昼休み、四時間目の授業の終わりに教師から呼び出された夢が教室に帰ってくるとそのまま両手を合わせてアリスに頭を下げた。
「提出物提出するの忘れてて放課後残って出さなきゃいけなくて……。」
「あぁ、この前の。」
三日前ほどの授業で提出物を出す時に夢が持ってくるのを忘れてその場で教師に明日提出しますと言っていたのを思い出す。しかし今日までその提出物をだすのを忘れていたためこの呼び出しになってしまったと。
「えーん、心配だよぅ!」
「そんなに心配しなくても結局あれから何もなかったじゃん。」
夢はあれから毎日放課後一緒に帰宅してくれる、最初の頃ははりきって朝も来ていたが低血圧の夢は朝私の家まで来るのに早起きするのが原因で具合を悪くしてしまったので朝の登校は別々でという事に落ち着いた。
でもでもぉとぐずりながら私に抱きつく夢の頭を撫でる、こんなに心配してくれる友達がいて幸せだなぁと思いながら机にかけてあるカバンからイルカの形のストラップを外して夢に見せた。
「それにこれもあるから大丈夫だよ。」
「いる太郎……。」
夢からお揃いでもらったストラップ、もとい防犯ブザー。夢曰く私のイルカがいる太郎で、夢のイルカがいる二郎らしい。
「いる太郎、アリスの事ちゃんと守ってあげてね。」
両手でいる太郎を優しく包むとその手を額に押し付けてぶつぶつと念を送り込む。暫くして解放されたいる太郎も心なしか気疲れした顔をしていた。防犯ブザーに対する期待がちょっとばかり重たい気がする。
「本当になんかあったらそれならしてよ!約束だからね!」
「絶対。約束。大丈夫!夢も提出頑張ってね。」
「ありがとうアリスぅ〜!」
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「何あれ、いる太郎とかだっさ。」
「仲良しアピールうざいよね。」
アリス達から少し離れた席に座っていた須藤が言うとそれも葛西も乗った。
わざわざ絡みにいったとしても面白くないとわかっている二人だったがそれでも嫌いな相手が楽しそうにしているのはのには少なからずの嫌悪感が湧いてきた。この二人自体も何故こんなにもアリスが嫌悪対象になっているのか、きっかけとなったのかははっきりと覚えていないがアリスのあの目立つ白髪はどうにも気にいらない。
「……今日さ、真次いないならちょっかい出して見ない?」
「うける、須藤悪い顔してるよ。」
「いいじゃん。だって実際ムカつくんだし。」
携帯の画面を触りながら横目でイルカの形をしたストラップで遊んでいる二人を見る。よくわからないがあれだけはしゃいでいるのを見るに二人の大切な物なのは伺える。
「良いこと思いついちゃった。」
「なになに?」
須藤が思いついた"良いこと"を葛西に耳打ちする。
それを聞いた葛西はにやにやと悪い笑みを浮かべ「それ良いじゃん。」と手を叩き同意した。