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第4話 愛とは


「愛……!!」


 わかりやすく夢が動揺した。

 何しろ此方は二人とも花も恥じらう女子校育ちの子供が二人。成人男性の真剣な「愛」という言葉にどうしても恥ずかしくなって緊張してしまった。


「あの……。」

「何でしょう。」


 固まってしまい言葉が出なくなってしまった夢の代わりに今度は私が前に出た。現金なものでこの男は私が前に出る明らかに柔らかい空気に変わる。こちらは緊張で心臓がこんなにもうるさいというのに。


「皇さんが本当に私を愛していたとしても私の気持ちはどうなりますか。」

「姫の?」


 皇の瞳が揺れる。


「私は貴方の事を何も知りません。姫だとか愛しているとか言われても怖い以外の気持ちがでてこないんです。だから、」

「申し訳御座いませんでした!」


 私の言葉を遮って皇は被っていた制帽を脱ぐと深々と私に向かって頭を下げた。

 文句を言って見たはいいものの、正直こんなにあっさりと謝罪されると想像していなかった私は「へ。」と間抜けな声が漏れた。


「亜久里アリスさん、貴女に不快な思いをさせるつもりは微塵もありませんでした。言い訳のしようがございません。貴女の側にいたいと願っただけなのです。もし私を許せないとおっしゃるのならばこのままこの交番で自首する覚悟もできています。」


 突然のとんでもない提案に思わず夢を振り替える。夢も気まずそうに顔を横に振った。あまりにも思考回路が極端すぎる。確かに迷惑だし、個人情報をしっていたり、姫だとか発言する奇行はどうにかしてほしい。それは事実だ。しかし、今朝出会ったばかりの女子高生に自分を訴えるかどうかを決めて欲しいなんてあまりにも重たい。


「とりあえずこれ以上アリスにつきまとわないで!次は本当に許さないから!」


 ぐるぐると嫌な二択を頭に浮かべ百面相していた私の手を夢は強引に取ると捨て台詞をぶつけて駆け出した。それに引っ張られた私は何も言えないまま一緒に駆け出す。

 走っている時に一度だけ後ろを振り向いた夢が険しい顔をしたのに私が気づく事はなかった。



<hr>



 交番の前から逃げた後、念のためアリスを家まで送り届けた。

 アリスの両親は多忙で、アリスが高校生になってからは年に数回しか家族が揃わないほどだというのは知っていたのでうちに暫く止まるのはどうかと提案したが「夢の家族に迷惑かけるのは申し訳ないから。」と断られてしまった。


「大丈夫かなぁ。まぁ、でもなんか想像してたほど悪い人じゃなかったしな。」


 たわいもないアリスとの会話が表示されているメッセージアプリの画面を見つめながらあの警察官の男を思い出す。

 普通にしていればどこに出しても恥ずかしくないくらいに背も高く顔もかっこよかった。学生時代だって女の子には困らなさそう雰囲気ではあるのになんてアリスに告白したんだろうか。


「やっぱちょっと頭が変なのかな。でも変なのに警察官なんてなれるものなのかな。」


 あぐらをかいて腕を組みうーんと唸って考えてみるが警察官のなり方なんてしらないのでわかるはずもなくため息をつきながらそのままベッドに倒れた。

 夢はまだ初恋というものを経験したことがない。恋愛知識なんてせいぜい少女漫画や小説、テレビドラマぐらいの物だ。甘くて切なくて、天にも昇る様で周りが見えなくなってしまう感情それが恋。好きな人を思って嬉しくも悲しくもなり表情がころころ変わる様な。しかし。


「あの顔、恋してる人の顔なのかな。」


 最後に振り返った時に見たあの男の顔はただただ冷たたかった。アリスが立ち去ってしまう悲しさ、職を失うかもしれないという不安、ましてや私みたいな子供に捨て台詞を吐かれたことによる苛立ち。どれにも当てはまるとは思えない、静かに座った瞳が夢には頭から離れなかった。


「まぁ、次はないよね。多分。」


 これ以上何かが起きた場合では自分達には対処しきれない、アリスの個人情報を知っていた理由は謎のままだがどうしようもない。念のため防犯ブザーを通販で注文した後、アリスに「明日は迎えに行くね。」とメッセージを入れて眠りについた。

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