僅かなひと時を
美波が奴隷商に攫われてから一週間が経った。
事態の変化は緩やかで、まだ行動を起こして………。
『間も無く奴隷商日本支部への突入作戦を開始する。一人残らず捕まえろ!』
「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
『うるせええええええ!!気付かれるだろうがああああ!!』
「「「「「…………はい」」」」」
行動を起こしていた。現在進行形で。
この様になったのには理由がある。
事は2日前––––。
「明日の朝、奴隷商への突入作戦を開始します」
「……は?」
思わず出た疑問の言葉。
いきなり過ぎて脳が全然追いつかないんだが……。
俺はとりあえず、紅羽の話を聞くことにした。
「時間は明日の3時半。場所は羽田空港から徒歩10分程度で着く廃墟の地下です」
「……随分と事細やかに言ってくれるな。何か意図でも?」
思わず聞いた質問に紅羽は「いえ……」と否定の言葉をあげる。
じゃあ、何で俺にこんな情報を開示したんだよ。
「……意図はありませんが、要求ならあります」
「要求……?」
思わず紅羽の言ったことを反芻する。
「ええ。というか、命令と言った方がいいかもしれません」
紅羽はため息を一つつくと、それを口にした。
「明日の突入作戦、廉先輩にも同行して頂きます」
「……は?」
いや、なんでだよ。
俺が行っても一ミリも戦力にならないだろ。
「……一応聞くが、何で?」
「さあ?上からの命令なので、私にはさっぱりわかりません……って、『うわぁ、コイツ使えね〜』みたいな目で私を見るのやめて下さい!」
ーーーーーーーーーと、いう訳で、こうしている訳だ。
…………うん、自分でも訳が分かんない。
「廉先輩、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。紅羽は随分と落ち着いてるな」
「踏んでる場数が違いますからね」
えっへん!という擬音語が似合うくらいのドヤ顔をこちらに向けてくる紅羽。
今回の作戦において、紅羽が俺の護衛をしてくれるということらしい。
実にありがたい事だが、女性、それも年下の子に守られる男って……。
尊厳が無い様な気がする……。
ちなみに、雛は別の班なのだそうな。
上の方に「廉君と一緒の班がいい〜!」と駄々をこねた様だが、最後まで可決されなかった。
聞いてるこっちが恥ずかしかったです……。ホント、ウチの子がスミマセンっ!
心の中で謝罪をしていると、耳につけているインカムからザザッと音が入る。
『間も無く突入する。F班、そちらはどうだ』
「こちらF班。いつでも実行可能です」
インカムから発せられた声に紅羽が応答する。
おお、カッけえ……!
と、俺の目線に気付いた紅羽はフンっと鼻を鳴らす。……こういう所が残念なんだよなぁ。
それからしばらく待っていると、途中で紅羽が話しかけてきた。
「そういえばずっと気になってたんですけど、廉先輩が背負ってるそれ、何ですか?」
紅羽がそれと指差したのは、俺が背負っている、布で覆われた細長い物体だった。
「ああ、これ?この中は木刀だよ。ウチに沢山あるから、一本借りてきた」
「ふぅん……。ちなみに折ったら?」
「弁償五万円」
「高っ!」
「冗談だよ……」
冗談だと言ったものの、紅羽は俺の木刀を見るたびにビクビクしてる。
大丈夫だから。折っても弁償させないから。
『突入開始のカウントダウンをする!全員、配置に付け!』
そんな茶番を繰り広げていると、インカムから間も無く突入するときた。
さて、緊張ほぐしもここまでだな。
「カウントダウン開始。5……、4……、3……、2……、1……」
俺と紅羽は互いに顔を見つめ合って頷く。
美波、必ず助けてやるからな。
『突入開始!』
「おおおおおおおおおおおお!!」
こうして、奴隷商への突入作戦が開始された。
異能力者
ーーーー脳内に埋め込まれたチップで高速演算を行い、あらゆる事象を可能にする。
異能の種類によっては、天変地異を引き起こすものもあったりする。
チップがどの様に脳に埋め込まれるのかは不明。