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異能力者

 何だかんだありつつも、一旦は落ち着き、俺たちは椅子に座って先程の奴隷商について話していた。


「奴隷商ですか……」


 紅羽は至って冷静に話を聞いている。

 恐らくはそういったことに慣れているのだろう。


「ああ。美波……俺の幼馴染がそいつらに攫われたんだ」

「なるほど……」


 紅羽は苦しいと言わんばかりの表情を見せる。


「……どうにかならないのか?」

「どうにかならない訳では無いのですが……」

「……?」


 思わず首を傾げる。

 紅羽は何かを言い淀むばかりだ。

 何か言いずらいことでもあるのだろうか。


「……私から言うよ」

「雛?」


 突然、雛が口を開く。

 何か問題でもあるのだろうか。


「廉君、私がどうして奴隷商の目印を知っていたのか不思議に思わなかった?」

「え?特殊災害対策特別捜査官だからだろ?」


 雛は首を横に振る。


「ううん。違うよ。特殊災害対策特別捜査官、通称、SSS(トライエス)でも、私だけしかその目印を知らない」

「じゃあ、何で知ってるんだよ……」


 こんな風に言われたら、無論、興味が湧いてしまう。

 なのでそう聞いたら、意外な言葉が返ってきた。


「答えは単純。私はかつて、奴隷だったんだよ」

「……は?」


 一瞬、自分の耳を疑った。

 雛がかつて奴隷だったことがとても受け入れ難かった。

 だが、雛は容赦なく事実を突きつけてくる。


「奴隷商にもいい人はいる。私はそういった善良な人間に助けてもらってここにいる」

「そうなのか……」


 いや、まあ、現実味のない話だが、今は信じるしかないだろう。


「それでですね、神崎さん……。その雪白さんが攫われた理由なんですが……」

「攫われた理由?」


 理由なんてあるの?


「単純に可愛い女の子だったからじゃないの?」

「いえ、奴隷商は、基本的に脳内コンピュータを持っている、いわば、異能力者を狙うんです」

「異能力者……?」


 初めて聞く概念だ。

 この世界に、そんな人がいるんだな……って、ちょっと待て。


「おい、美波は普通の人間だぞ。異能力者なんかじゃない」

「単純に、力が覚醒してないだけだと思いますよ」


 なるほど。

 それなら納得がいく。

 美波は確かに、人よりも何かしらの特別な感じはあった。

 例えば、小6の時に100メートル走の世界記録を更新させたり、数検を1歳未満で一級を取っていたりしていた。

 その時点では、「やっぱ才能の違いだな」と思っていたが、今、よくよく考えてみればおかしいことだ。

 …………うん、気付かなかった俺が思いっきりアホだっただけかもしれない。


「……ん?待てよ……。異能力者だけを狙うってことは……」


 奴隷商は雛を捕まえていた訳だから……。


「察しがいいね。そう、私も異能力者だよ」


 雛はそう言って笑って見せた。


♢♢♢♢♢♢


「……ここ、は……?」


 私が目を覚ますと、見慣れない風景が目に映る。

 ここは一体どこだろう?

 確か廉兄さんと一緒に出かけて、それで……。


「……っ!」


 腕が動かない……っ!いや、動かないんじゃなくて縛られているんだ。

 必死に手首を動かしても拘束が外れる気配はない。

 と、その瞬間、ガタンと床が揺れた。

 揺れたと言うことは、ここは車の中と予想ができる。

 ならば運転手が私を攫ったという解釈が自然だろう。

 私は縛られていない足を探るように動かす。

 結構広い……。つまりトラックの荷台だろう。

 まあ、そんなことが分かったところで、私に出来ることは限られているんだけど。


「……結構私、冷静だ」


 ふと、思ったことが口から溢れる。

 いやまあ、冷静でいれば正しい判断が出来るから、それに越したことはないんだけど、普通の女の子なら「きゃー!怖い!助けてー!」と情けなく泣き叫ぶことが精一杯だ。

 それに比べて私は至って冷静。

 肝が据わってるってことなんだなあ……。

 もう少し女の子らしくしろって廉兄さんに言われてるし、そこらへん意識したほうがいいのかも。

 と、本来その場で考えるべきではない事を考える私なのだった。


♢♢♢♢♢♢


「お前が、異能力者……?」


 俺はあまりの驚きに口が閉じない一方、雛は不敵に笑っている。


「そ、雛先輩は異能力者です。かと言う私も異能力者で……」

「紅羽、お前はちゃんと頭の出来たやつだと思ってたのに……」

「わお、ナチュラルにディスってきますねこの人……。いいですか、廉さん」


 紅羽は一段と真面目な面構えとなって、こちらに顔をずいっと近づけてきた。

 ちょ、顔近くない?


「この世界には異能力者が世界人口の約一割にも満たない程度の人数しかいません。だからこそ、その希少性は非常に魅力的です」

「なるほどなるほど……。あっ、続けて続けて〜」

「……っ!」


 あれ、今、紅羽のこめかみあたりに青筋が見えたような……。

 ま、まあ、気のせいだろ。

 紅羽はため息をこれでもかと思うほど大きく吐き、再び解説を始める。


「異能力者は脳内にチップが埋め込まれていて、そのチップによってあらゆる演算が身体中に巡って異能が使えるって事です」

「つまり……?」

「異能力者はコンピュータの超能力バージョンとでも思ってください」

「おお、分かりやすい……!」


 俺は紅羽に拍手を送る。


「……廉さん」

「何だ」

「…………全てを知ってるくせに完全に聴衆側に回っている、あのバカ先輩を殴ってもいいですか……っ!」


 そう、先程の「続けて続けて〜」や「分かりやすい……」と言っていたのは雛である。

 俺も正直言って、何だこいつ、と思ってた。


「まあ、まて。紅羽、雛はバカなんだからしょうがないんだ」

「……そうですね。雛先輩はバカですから。廉さん……、いや廉先輩」

「……何だ」

「……今度、相談乗ってください……」

「…………俺で良ければいくらでも」

「ううっ!廉先輩〜!」


 紅羽、どんだけストレス溜まってたんや……。

 ちなみに次の日……。


「あ、おはよー。紅羽ちゃん」

「おはようございます。雛パイセン」

「うんうん……ん?今、パイセンって……」

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