表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

緊急事態発生!

 週末、俺と美波は二人で東京駅前で雛を待っていた。

 そう。約束のデートである。

 はあ、やってきたよ。やってきましたよ。

 もうね、修羅場を覚悟しながら昨日は緊張……してたけど、快眠でした。

 ああ、けど、やっぱりやだなあ……。うっ、胃が痛くなってきた……。

 緊張で胃に痛みを感じた俺は、そこを押さえるが、それで緊張が解けることはなく、むしろ悪化している。


「廉兄さん、大丈夫ですか?」


 流石に行動が目立ってしまったのだろう。

 美波がこちらに心配していると言わんばかりに瞳を向ける。

 いかんいかん。大切な幼馴染に心配をかけてどうすんだ俺。

 俺は必死めいて笑顔を美波に向け、大丈夫だと言った。


「そうですか……」


 だが、美波の顔は晴れぬまま。

 うーん……。やっぱり、美波はそれだけじゃ心配は払拭されないか……。

 どうしたものかと考えている矢先のことだった。


「あのっ!廉兄さん!」

「ん?どうした?」

「私、胃薬買ってきますね!」

「え……?」 


 急にどうしたのだろう。

 もうすぐ雛が来ると言うのに、こんなところで別れたらはぐれてしまう。

 だから手を取って引き止めようとするが……。


「それじゃ、薬局、あそこにあるので行ってきますね!」

「いや、ちょっと待っ………て、早っ!」


 とんでもない速さで美波は走り去ってしまった。

 速すぎだろ……。50メートル走何秒だよ、あいつ。

 一瞬追いかけることも考えたが、雛を待つ人がいなくなってしまうので、なかなかここを離れられない。

 どうしようかと悩んでいると……。


「廉君〜!またせてごめ〜ん!」


 なんともいいタイミングで雛がやってきた。


「雛!丁度いい!行くぞ!」

「え?行くてどこへ?もしかして私たちだけの神の聖域かい?もう!廉君ったら!そういうことはまだ早いよ!けど廉君が望むならいくらでも……」

「そういう妄想はいいから、早く行くぞ!」

「え〜?もう、しょうがないなあ。……というか今、妄想って言わなかったかい?」

「言ったが?」

「……私の契約していながら生意気な!」


 契約って……。

 付き合ってるだけなのに、大袈裟だな……。

 それに、どうせ別れるんだし……。

 そんなことを考えていると、雛がニコニコしながら俺の顔を覗いてきた。


「で、どこへ行くの?」

「え?ああ、薬局だ」

「薬局?何でまた。ポーションでも買うの?」

「そんなものがあったら、この世界は幸せでいっぱいになるだろうな。いいから行くぞ!」

「ええ!?ちょっと、廉君!待ってえ!」


♢♢♢♢♢♢


 薬局に着いた俺たちは、まず店内で美波を探した。

 だが、1時間ぐらい探しても美波の姿は髪一本すら見つからない。


「こんなに探してるのにいないなんて……」

「廉君〜!」


 レジから雛が声を上げる。

 雛にも一応、美波の写真を見せて探してもらっていたので、声を上げたということは、美波を見つけたのだろうか。

 俺は期待を胸に、雛のいるレジへ向かう。


「雛!美波は!?」


 レジへ着くと、目に入ったのは雛とレジの店員さんだけだった。

 み、美波は……。


「その雪白美波さんは見つかってないよ」

「じゃあ、なんで呼んで……」


 見つかって無いなら呼ぶなよ……。

 なんとも言えない絶望感に駆られていると、雛は呆れたように口を開く。


「その美波さんは見つかって無いけど、手掛かりは見つけたよ」

「ホントに!?」


 嬉しさのあまり、身を乗り出して雛に顔を近づけてしまう俺に対して、雛はコクリと頷き、店員さんの方へと視線を向ける。

 恐らく、この店員さんが情報を持っていると言うことだろう。

 俺は雛から顔を遠ざけて、その店員さんに向き直る。


「美波……。胃薬を買って行った女の子はどこですか?」

「え、ええ。その子だったら、さっき店を出て行って、体のゴツい人たちについて行ったわ。やけに素直について行ったから、知り合いか何かかと……」

「ありがとうございました!」


 俺はそう言うと同時にダッシュで店を出ていた。


「ちょっと、廉君!契約者を置いていくなあああ!」


 雛がいつものように鬼の形相で追いかける。

 それを見て店員さんは……。


「何……。あの子ら……」


 と、呟いた。


♢♢♢♢♢♢


「ちょっと、廉君!いきなり走り出してどうしたのさ!」


 全力で走って追いついた雛が俺にそう聞いてくる。


「ゴツい人たちについて行ったらしいけど、素直だったみたいだし、ホントに知り合いかもよ?」


 確かに、雛の言うことはごもっともだ。

 確かに美波が素直についていくなら、本当に知り合いかもしれない。

 だけど……。


「だけど、俺の勘が美波を今すぐ見つけろって言ってるんだ!」

「っ!」


 美波は俺の大切な幼馴染だ。

 だから、俺がきちんと守ってあげなくちゃいけない。

 じゃあ、大丈夫かと妥協していたら、もしかしたら手遅れになる場合もある。

 それだけは絶対に避けなければならない。

 だから、全力で走っていたが、急に雛が止まった。


「……」

「雛?どうしたんだ?」

「分かったよ」

「え?」


 雛はその一言だけを言うと、急に目を瞑って集中しているような仕草をしだした。

 いや……、『ような』じゃない。ちゃんと集中している。

 雛から湧き出るオーラが普段と全然違うことに驚きを隠せないでいると、雛が再び目を開いた。


「聞こえた……」

「え……?」

「こっち!」

「ちょ、雛!?」


 雛が急に走り出し、俺もそれについて行く。

 一体、何がどうなっているんだ!


「おい、雛!どうしたんだよ!」

「美波さんを見つけた!」

「マジか……」

「マジ!これは……念の為、警察も呼んでおいた方がいいかもね」


 そう言ってスマホを取り出す雛。

 と、その瞬間。


「イヤ!離してください!」

「コラっ!さっさと入れっ!」


 美波が知らない男性にトラックへと押し込まれていた。


「美波!」


 俺はそれを見て、何も考えずに走り出していた。

 それに呼応し、逃げるように走り出すトラック。

 俺は必死に、足が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい走った。

 だが、道端にあった石に足を引っ掛けてしまい、盛大に転んでしまう。


「廉君!」


 雛が後ろから心配の言葉を投げるが、俺には聞こえなかった。

 ましてや転んでしまって発生した痛みも感じなかった。


「待て!美波を返せええ!」


 俺は肺が破裂するんじゃないかと思うくらいの大声で叫んだ。

 だが、トラックは反応もなく、そのまま走り去って行く。

 俺は再び走ろうとしたが、足に力が入らなくて、そのまま倒れそうになる。

 だが、雛が俺をしっかりと抱き留めた。


「雛……」

「廉君、一旦戻ろう」

「ダメだ。トラックを見失ってしまう」

「大丈夫。車体ナンバー、撮ったし、GPSも付けておいた」

「いつの間に……」

「神なんでね」


 フフンと得意げに鼻を鳴らす自称”神”。

 俺は思わず笑ってしまい、雛の頭を撫でる。


「……さて、これからどうするか……」


 美波を追いかけるのは無謀だ。

 あっちは組織で活動している可能性が高い。

 追いついても多勢に無勢で終わる。

 そもそもあいつらは何なんだ!美波を連れ去って何がしたいんだ!


「奴隷商」

「え?」

「アイツらは、奴隷を売り払い、儲けている連中だ」


 バカな。

 今の社会でそのような組織があるのか。

 とてもじゃないが、信じられない。


「そんな組織があるわけ……」

「けど、トラックに乗っていたあの二人、奴隷商の目印があった」

「どこに?」

「ヤツらは仲間と見分けるために手にチップを埋め込むんだ。その跡が、二人にあった」

「…………」


 よく見過ぎていて、もはや言葉が出ない。


「さて、それじゃあ、相手も分かったところで、行こうか」

「行くってどこへ?」


 俺がそう聞くと、雛はニコリと笑った。


「無論、警察署だよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ