幼馴染ばかり優先していたら婚約者に捨てられた男…の、話を聞いて自分を顧みても遅かったお話と、その婚約者のその後のお話
こんな話を聞いた。
婚約者より異性の幼馴染との時間を優先した男が振られて婚約が破談になったらしい。
男は婿入りする予定だったそうで、今から別の良い婿入り先は見つからない。婚約者の家と実家の仲も最悪になり、親から相当恨まれたという。
その後婚約者の家に払った慰謝料分を取り戻すため、お金持ちのマダムに売り払われるような形の政略結婚を親に押し付けられたとか。
その話を聞いて、背筋が凍った。
「お、俺は…大丈夫だよな…」
俺も同じような状況にある。…自覚はある。
俺には婚約者がいる。将来女公爵様になる予定の女だ。俺はその婿になる予定だ。
ところがその女、爵位と顔とスタイルが抜群だからといって少し生意気なのだ。女のくせにいつも堂々としていて、俺を立てることもしない。
一方で俺の従妹は従順でとても可愛らしい。俺を立ててくれるし、褒めてくれるし、顔だって良い方だ。
だからちょっと、婚約者への当てつけも込めて従妹をわざとあの女の前で溺愛してみせた。
「で、でも、そんな、そんなことで婚約破棄なんて…さすがに」
ないよな?そんなことされたら俺はどうなる?
「…と、とりあえず寝よう」
今は考えていても仕方がない。そうだ、明日は久しぶりにあの女にプレゼントでも贈ってやろう。いつもあの女に使えと両親から渡されたお金で従妹にプレゼントを渡していたから、きっと感動するだろう。
そう考えると前向きになって、ぐっすり眠れた。
のだが。
朝早くから、両親が俺の部屋に怒鳴り込んできた。
「バカ息子!これはどういうことだ!?」
「ち、父上?母上?」
「貴方は一体どういうつもりですか!?」
胸ぐらを掴まれ揺さぶられる。苦しい。
「お、落ち着いてください…」
「これが落ち着いていられるか!公爵家から婚約破棄の通達と絶縁状が届いた!公爵家の援助が今後受けられなくなる!どうしてくれる!?」
「えっ!?」
そ、そんな!本当に婚約破棄されるなんて!
「お前、従妹であるあの頭の軽い女と浮気していたらしいな!ふざけるなよ、あの女になんの旨みがある!?お嬢様を大人しく大事にしていれば良かったものを!おのれぇ!!!お前のせいでこの伯爵家はもう終わりだ!おのれ、おのれぇ!」
父から殴り飛ばされ、馬乗りになられ、殴り続けられる。終わる頃には顔中腫れ上がって、歯も欠けていた。母は俺への恨み言を言いながらしくしくと泣くばかり。
俺はただ、少しあの女より上に立ちたかっただけなのに。
クソ野郎と婚約破棄して、今私は自由の身!どうせ公爵家を継ぐのは私で、婿入りしたいと願う男性は山ほどいる。その中で一番婿に相応しい人を選べば良いだけ。問題はない。
お父様は、どんな相手でもあのクソ野郎よりはマシだろうと私に相手を選ばせてくれるらしい。きっと素敵なお婿さんを選んで、お父様を喜ばせなくちゃ!
クソ野郎の実家は、うちの援助を受けられなくなったことで家計が火の車に。爵位と領地を国に返上して、今は平民として慎ましく暮らしているとか。うちへの慰謝料で借金もすごいらしいし、頑張って欲しいと思う。
クソ野郎自身は、ご自慢だったご尊顔が大変残念なことになって、今は単身炭鉱で働いているとか。実家の両親にお金は全部吸い取られ、ただ働き同然らしい。
様式美だ、陳腐だけれど敢えて言わせて欲しい。
「ざまぁみなさい!これが貴方のしたことの結果よ!」
炭鉱で寮生活の彼には届かない声だけれど。
ああ、スッキリした!
ということで、婿探しの続きをする。
「うーん。どの釣書の男性も、爵位も顔も充分なのよね。だからこそ悩むわ…」
あとは本人の能力、くらいかしら?
「…あら?」
一人、毛色の違う人を見つけた。
「この国で獣人の貴族なんて、珍しい…あ、もしかしてあの辺境伯家の子かしら」
なんでも、辺境伯が大層な色狂いで色んな人種の子供達がたくさんいるとか。
「…ちょっと気になるわ、一度会ってみましょう。色狂いなのは父親に似てないといいけど…」
そうして、私は彼と会うことにした。
「…貴女こそ僕の運命の番です!結婚してください!」
出会って開口一番に、そう乞われた。運命の番。
「ええっと…」
「獣人には、必ず運命の人がいるんです!その相手と出会える確率は奇跡にも近い!お願いです、どうか僕を選んでください!」
熱烈なプロポーズ。その瞳には恋の情熱。…どうやら、本気らしい。顔もいいし、一途そうだし、実家の爵位も申し分ないし、大切にしてくれそうだし、婿に来ても問題はなさそう。…うん、いいかも!
「では、まずは婚約してゆっくりとお互いのことを知りながら親睦を深めていきましょうか。結婚は、順調にいけば一年後くらいに準備を進めましょう」
「いいんですか!?ありがとうございます、嬉しいです!」
「虎の獣人のはずなのに、犬みたい…」
「え?」
「なんでもありませんわ。さあ、まずは一回目のデートをしましょうか」
私がそう言えば、彼は尻尾をピンと伸ばして。
「どこへでもお供します!」
優良物件、ゲットしたかも。