第34話 波乱の幕開け
――ついに、建国記念祭が始まった。各都市では屋台などが多く並び、それはゼン達のいるダンジョン都市も変わらない。
メインイベントの遺物争奪戦は、初日から開催される。
各セクション毎で、三日間連続開催され、ラスト争奪戦はセクションCが終了してから三日後に行われる。
三日間はダンジョンに籠りっきりのため、単純な強さだけでなく、一種のサバイバル能力も必要となる。
遺物争奪戦のルールは以下の通りだ。
①魔導具の使用は可とする。(ただし、事前に申請登録したモノに限る)
②三日後終了時点で、より多くの遺物を獲得していた参加者上位3クランを、ラスト争奪戦へ参加とする。
③争奪戦の中での一切のことに関して、自己責任とする。尚、途中棄権は可とする。その場合、以降の遺物争奪戦への参加権を永久に放棄する。
④積極的な殺しは慎むこと。黒為冒険者と疑わしき場合、強制的に棄権とする。(従わない場合は、武力行使も辞さない)
⑤獲得した遺物に関しては、終了時点で手に入れていた者達のものとする。(売却を希望する場合は、終了後に申し出ること)
⑥ダンジョン内での異変があった場合、その危険度に応じて相応の措置を取る。(あまりに危険と判断した場合は、中止とする)
参加者は、以上6つのルールを遵守する必要がある。
ゼン達『真夜中の頂』は、現クランハウスであるゼンのボロ家(エマがそう呼んでいる)にいた。
机の上には、参加者に配られる通信用の魔導具が置かれている。こちらからの声は届かない、運営側からの一方通行だ。
まもなく、運営側からの事前挨拶の説明がある。その中で、今回の賞金や、優勝賞品が発表される。
「一体いくらなのかな……」
「私は自分の部屋が欲しいですの」
「あくまで去年だから参考程度にしかならないけど、去年は白金貨100枚だったわね」
「ひゃ、100枚……だとッ」
想像を絶する額に驚きを隠せないゼン。頭の中では白金貨が渦巻いており、すでにお金のことしか頭にないようだ。
「それはどれくらいの額ですの?」
「そうね……私達三人が自部屋を一つ持てる程の家なら――5つは変えるわね。各都市に別荘が複数持てる感じかしら」
「……へぇ、それはさぞかし楽しみですね」
「…………みんな、絶対勝つぞォォォオオオ!!」
今までに見せたこともないような興奮具合で叫ぶゼン。
女性二人は若干顔が引き攣っている。ゼンのやる気はかつてない程燃え上がっていた。
(白金貨100枚に、ゲットした遺物も……やっばっ、俺超金持ちじゃん)
ゼンはいい意味で、普通の欲望を持っていた。金が特に好きという訳ではないが、人並みにそういう願望は持っている。
そんな風に雑談していると、机の通信魔導具に反応があった。
『――ザ、ザザ――ぇえ……皆さん、聞こえておりますでしょうか。遺物争奪戦の運営担当でございます。ただいまより、事前挨拶と説明をさせていただきます』
「お、始まったな。ここで賞金とかが発表されるんだよな?」
「ええ、でも賞金に関しては期待してていいと思うわよ。年々額が上がってるから」
「ほーー、それは期待できそうだな」
年々上がっている、という言葉を聞き、さらに興奮していくゼン。
『えー、まずは遺物争奪戦の運営代表であります。生ける伝説!! 孤高の単独冒険者、イレイザー様からの挨拶です!!』
『あ――、う―ん。まあ、死なないように頑張ってくれ』
『え……あ、ありがとうございました。それでは、遺物争奪戦の説明をさせていただきます。ルールは公開しているもので、問題ありません。続いて、優勝賞金のご紹介です!! ――今年の額はさらに増額!! なんと、白金貨110枚です!! さらに、優勝賞品は古代の遺物です。国の宝物庫に眠っていたものを進呈していただきました。盛り上がること間違いなしの遺物争奪戦!! 優勝目指して頑張ってください!!』
「うおおおおおお!!」
担当のアナウンスを聞き、ゼンの興奮は最高潮だ。叫び声が止まらない。
初となる国の宝物庫からの賞品、それも古代遺物だ。とんでもない代物に違いない。
「ちょっと、興奮するのは分かるけど……耳障りよ」
エマは落ち着いた様子でそう言うが、鼻はひくひくしている。
「やるしかない、何が何でも優勝するぞ。と言うわけで……エレアノール。これを渡しておく」
「ん、何ですの?」
ゼンは懐から転移砂時計を取り出し、エレアノールに差し出す。
「なぜこれを私に?」
「俺とエレアノールは夜に潜る予定だったけど、エレアノールだけでも始まってすぐに潜ってくれ。俺は表――受付の仕事もあるし、剣術大会にも参加する。まあ、一番の理由は『五煙の餓狼』に目を付けられてるからだが……」
ゼンが話した『五煙の餓狼』という言葉に、エマはぴくりと反応する。
「……あんた、何やってるの?『五煙の餓狼』って実力者クランじゃない。そんなのに目を付けられるなんて……セクション勝ち抜くのすら難しくなりそうね……」
エマは呆れているのか、あまり強く問い正すことはない。
そういうことなら、エレアノールに転移砂時計を渡すのは当然だ。
「そういうことなら、分かりましたの。でも貴方、何で剣術大会などに?」
「え? だって、優勝したら賞金もらえるじゃん」
「呆れましたの……貴方、そこまでしてお金を」
「そう言うなよ、クランのためを思ってだなぁ……」
「はいはい。そこまでにして、ゼンあなた……剣術大会に出るんなら、予選の受付そろそろじゃない?」
「え、あ……悪いっ、ちょっと行ってくる」
ゼンは慌てて準備をすると、颯爽と家を出ていった。
◇◇◇
家を飛び出したゼンは冒険者ゼクスとなると、国立剣術大会の予選が行われる闘技場へ向かった。
予選で勝ち残った二人が、最終週、王都で行われる本戦に出場できる。
闘技場内で受付を済ませたゼクスは、一回戦が翌日に決まった。
予選は陽が出ている日中に行われるため、ゼクスは夜ダンジョンに潜り、遺物争奪戦に参加する。
受付を済ませたゼクスはすぐに、現クランハウスの家へ帰った。
帰るとエレアノールとエマの二人が揃って何かに目を落としていた。
「それ、何読んでんだ?」
「クランハウスのカタログですの」
エレアノールはそっけなく答えると、すぐさま意識をカタログへ移す。
(こいつら……人に散々言っておきながら、まだ一攫千金すらできてないのに)
ゼンがそんなことを思っていると、エマが「そうそう」と溢しながら言葉を続ける。
「今日から始まってる遺物争奪戦セクションAの速報が出たわ」
「速報?」
「そ。常に状況が把握できるわけじゃないし、数時間毎にダンジョン内にいる騎士達から速報が届くの。それが、全体に公開されたものよ」
「へ――。で、どうなってるんだ?」
ゼンは楽な感じで聞いたのだが、エマから返ってきた内容は想像以上に重いものだった。
遺物争奪戦を甘いものだと思っていると、痛い目を見る。参加しない冒険者が多いのも納得の理由。
「――すでに、死人が出たそうよ」
「!! 死人って……全体でも数人程度だって聞いてたけど……」
「そうね。例年通りならね」
「……」
ゼンは険しい表情をすると、押し黙る。
ダンジョン内で行われることなので、起こり得ることではある。戦いの中で、運悪く命を落とすものだっているだろう。
さらに、今年は黒為冒険者のこともあるため、余計に気を付ける必要がある。
ゼンと同じくエマも険しい表情で言った。
「――今年の遺物争奪戦は、荒れるわよ……」
『真夜中の頂』が参戦するセクションBの開始まで、あと三日――。