第30話 その後とクラン結成
――あれから一週間が経過した。
ゼンが目覚めたのはつい昨日のことで、約6日間眠り続けていた。
今回の件に関しては、冒険者ギルドにより徹底した情報秘匿がなされた。
珍しく『異狩騎士団』も積極的に協力姿勢を見せたため、あまり広がらずに事が済んだ。
重傷を負ったクレセリアとエマは無事回復し、死の心配はない。
だが、死者は出た。『戦乙女』が8名、『異狩騎士団』側は11名の死者を出してしまった。
そして今日、今回の件に関しての話し合いが行われる。時刻は夜20時、場所はギルドマスターの執務室だ。
ゼンはエレアノールに肩を借りながら向かった。
出席者は、ガルシア。クレセリア、エマ、セリア。ゼン、そしてエレアノールだ。
エレアノールに関しては仮面を付けた状態で、ゼンのダンジョン仲間だと伝えられている。
ゼンとエレアノールが入室すると、すでに全員が揃っていた。
ゼンはゼクスとしてではなく、受付のゼンとしてやって来ている。この際、もう正体を隠すつもりはないと判断した。ガルシアも協力してくれるため、ゼンは決断した。
「……よし、揃ったな。早速始めよう」
ガルシアが進行役となり、話し合いを始める旨を伝えた。
初めはエマによる謝罪から始まり、その他の者達へ感謝を伝えていた。
そこからつつがなく話し合いは進み、本題となりうる議題へ入る。
ガルシアが緊張の面持ちで机に資料を置くと、口を開いた。
「……まあ、資料に書かれていることが全てだが、直接口で伝えさせてもらう。――クレセリアが連れ帰って来たルードという男だが……あれはもう、人間ではなかった」
ガルシアから放たれた言葉に、全員が一斉に息を呑む。
あの場に実際にいた者は知っている。ルードは途中から、人が変わったように可笑しくなったことを。
重苦しい雰囲気のまま、ガルシアは話しを続ける。
「正確には、外見は人間のそれだ。何ら可笑しなところはない。……だが、内部は別だ。臓器には虫のような異物が巣食い、所々に機械化も見られた。君達が言っていた魔導機腕もそのせいだろう。魔導機などの研究チームの見解だと、あれは急拵えらしい。その証拠に、本来魔導機などに虫は使われない。つまりだ、ルードは変化する数時間前に身体を改造されたことになる」
そのガルシアの言葉に、ゼンとエレアノールが顔を見合わせる。
ゼンは自分達が遭遇した奇怪な出来事について話した。『異狩騎士団』の遺体の数が一人足りなかった件だ。
「うぅむ……それなら、その変装したと思われる団員にやられた可能性が高い、か……」
「可能性はあると思います」
「……確かに、黒為冒険者ならやりかねないわね」
概ね、全員の意見は一致したようだ。
今回、黒為冒険者と思われる輩は姿を見せなかったが、ルードの件もあり、単独での可能性は著しく減った。
ゼンは、自分が気になっていたことをガルシアに質問する。
「あと、例の教団の紋章はあったんですか?」
「ウロボロス教団のことか……」
「はい」
「それに関しては、何もなかった。ルードの遺体で可笑しな所は、先程話したことだけだ」
元々は『異狩騎士団』所属のルードだ。スパイとして潜入していたなら、紋章が刻まれていてもおかしくない。
だが、ルードは紛れもなく『異狩騎士団』の騎士である。
新たな情報が得られはしたが、大きな進展があったかと言われると、それもない。
黒為冒険者とウロボロス教団に関しては、我慢強く調べていくしかない、とガルシアは結論づけた。
ルードの議題が終了したところで、今回の裏の本題について話し合いが行われようとしていた。
「……それでは、今回集まってもらった本題について話そう」
ガルシアは複雑な心境なのか、声のトーンが低くなる。
さらに、渦中の人物に対して視線が注がれる。
――『戦乙女』のエマは、沈痛な表情で顔を曇らせる。
それもそのはず、今回の件はエマの失踪から始まったものだ。その結果として、死者まで出た。責任を感じないわけがない。
再びガルシアが話し始めようとした時、クレセリアから待ったがかかる。
「ギルドマスター、その前にいいかしら?」
「ん、何だ?」
「ここに来る前にゼクス、いえ――ゼンくんと話したんだけど……エマの処遇に関しては決定したの」
「何!? どういうことだ……」
クレセリアの発言にガルシアは目を見開く。ガルシアが直接関わることではないが、やはり気になる所ではあるのだろう。
「決定と言っても、選択肢はかなり絞られるぞ。すでに知っているとは思うが……『国』から異端者認定されれば、それが取消しされることはない。それが、冤罪であったとしてもだ。――彼女はこれから、追われる身となる。それを踏まえての決定か?」
ガルシアがクレセリアを問う目付きは鋭い。
彼の言う通り、異端者認定されればそれまでだ。『国』が判断を覆すことはない。
つまり、エマは『異狩騎士団』、ひいては『国』から追われることになる。
「ええ。個人的にツテがあって、ノアに事情は話したの。彼は冷酷だけれども、話を全く聞かない男じゃない。
その上での彼の回答は――『たとえそれが冤罪だったとしても、俺には口を挟む権利はない。国が判断した異端者をただ捕えるだけだ。悪いが、俺にもどうすることはできない。……だが、今回の件は少し強引な気もする。可能な範囲で俺も調べておく』――そう言ってたわ」
「彼がそんなことを……にわかには信じられんが……」
「――その上で、エマは『戦乙女』から永久追放するわ」
「……妥当な判断、か」
クレセリアが下した決断を聞いて、ガルシアはそう呟いた。
仲間を思うなら、ここような決断には至らないだろう。
だが、今回の件では死者が出ている。クレセリアにとっても非情な判断のはずだ。
静寂の中を切り裂くように、エマから言葉が漏れる。
「……仕方のないことです。私のせいでッ、みんなが……『戦乙女』にいたら、また巻き込むことになる。だから……ッ」
「だから、ゼンくんの仲間に入れてもらうことになったの」
「!? しょ、正気か……?」
目玉が飛び出んばかりに瞳孔を開かせたガルシアは、首を捻りゼンの方を向く。
「はい、俺も納得してますし。自分で言うのも何ですけど、一番安全だと思います。あと、俺もエマさんが入ってくれれば、ダンジョン踏破が進むと思って……」
これは、あながち間違いではない。これから身を隠すならば、ゼン家の地下室はうってつけだ。
さらに、万が一の場合は転移砂時計でダンジョンへ逃げることもできる。
理想的とまではいかないが、エマの安全を考えると、これも妥当な判断だと言える。
ガルシアはあまり気の進まない様子だが、各々が決定したことに口を挟むつもりはないようだ。
「……というわけで、お世話になります。ゼン殿……」
エマにゼン殿と呼ばれ、むず痒くなったゼンは呼び捨てで構わないと告げる。
そして、エマはこれに応じた。
この時を以て、エマは『戦乙女』を追放される。立ち上がった
団長のクレセリアが、エマに正式に告げる。
「――エマ。現時刻を以て、あなたを『戦乙女』から追放します。そして、二度とその敷居を跨ぐことのないように」
「……はい。――団長、今までお世話になりました……っ。これを、返却いたします……」
声を震えさせながら最後の挨拶を終えたエマは、『戦乙女』としての冒険者証を返却する。
『戦乙女』団長としての仕事を終えたクレセリアは、今度は一人の友人としてエマを抱き締める。
「エマ……不甲斐ない団長でごめんね。……こんな私を許してちょうだい。元気でね……」
その様子を見て、セリアも泣きながら抱きついてくる。
「……ぇ、エマ姉……大好き。守ってくれてありがとう……っ、絶対死なないでね。また必ず会いにいくから」
「ぅん、うんっ……待ってる。私こそごめんね、セリアも団長の言う事を聞いて、いい子にね」
「……はいっ」
団長のクレセリアが二人を囲むように抱きしめ、その後も三人は『戦乙女』としての最後の時を全うした。
こうして、ゼン・エレアノール・エマの三人となり、遂に冒険者クランを立ち上げることになる。
◇◇◇
さらに時は過ぎ、一週間後のとある夜――ゼン、エレアノール、エマは机を囲み真剣な表情で顔を見合わせていた。
「――それじゃ、クラン名を決めましょう」
すっかり馴染んだエマが、そう話を切り出す。いたって真剣な様子のエマに対し、ゼンとエレアノールはむすっとした表情をしている。
「急ぎすぎじゃね?」
ゼンの一言に、エマの額に青筋が浮かぶ。
「あの、ねぇッ……あなた達はもうちょっと真剣に――」
「――私も急ぎ過ぎではないかと?」
「いや、エレアノールまで……」
「だって、貴女……今日来たばっかりじゃないですの?」
「うっ、それは……」
この一週間、エマは準備などを行なっており、ゼン達と本格的に合流したのは今夜だ。
とはいえ、危機感や緊張感というものを全く持ってない二人に、エマは強く進言する。
「とりあえず!! クラン名だけでも決めて、明日にはギルドへ申請しに行くから!!」
「まぁ……それもそうだな。エマも来たことだし、クラン名だけでも決めるか」
ちなみに年齢はエマの方がやや上だが、同じ仲間になったので、敬語などはあえて不要ということになった。そのため、ゼンもエマと、呼び捨てにしている。
「となると、クラン名は……」
「「う〜〜ん……」」
互いに唸りながら考えること数十分後――ゼンが答えを出した。
「よし、決めた。俺たちはこれから、冒険者クラン『真夜中の頂』だ」
――新たに結成された全員仮面の冒険者クラン『真夜中の頂』として、ゼン達は新たな道を進む。
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