第22話 異端者を狩る『異狩騎士団』
場所はギルドの応接室。防音の結界が張られており、扉の前には『ギルドマスター』ガルシア・ガーランドの護衛と秘書が両脇に立っている。
現在中にいるのは、ガルシアにゼクス、『戦乙女』団長クレセリア、セリアそして副団長のメリアだ。
今日の19時頃に起こった件についての緊急の話し合いが行われていた。
ゼクスはガルシアとクレセリアたっての希望で同席している。
最初に口を開いたのは、ガルシアだった。
「……まずいことになった。クレセリア、これをどう見る?」
「……まだ、瀬戸際ではないと思ってるわ。エマが異端者認定された事については、本人に聞いてみなければ分からない。――あと、ギルドマスター。昼の件はすいませんでした、私の管理不足で……」
「そのことについてはいい。彼女達は当たり前のことをしたまでだ。まあ、怪我人が出なかったのは暁光だ」
白昼堂々行われた戦闘――『戦乙女』の団員と『異狩騎士団』団員の小競り合いについては、クレセリアの指示ではない。
追われているエマを守るために、独断で戦闘が行われた。褒められた行為ではないが、妥当性はあるため穏便に済んだ。
重苦しい空気の中、今度はゼクスが話す。
「それで、これからどうするつもりなんだ? この件について、ギルドは介入できないだろう?」
「……だな。冒険者同士の争いならまだしも、異端者や黒為冒険者が絡む場合、原則立ち入る真似はできない。それに、今回は『異狩騎士団』が動いてる。我々が彼らに干渉することはできても、彼らは聞かないだろう。異狩の背後にいるのは、『国』だからな」
ガルシアが話した内容を受け、ゼクスの視線がクレセリアへ向けられる。
そして、クレセリアは毅然とした態度で言った。
「……これは私の私情も入っているけど、揃えられるだけの戦力を整えて、明日朝すぐにダンジョンへ潜るつもりよ」
「……戦う気か?」
「基本的に避ける方向でいくつもりだけど……万が一の時は、そのつもりだわ。逃げた先がダンジョンだから、『異狩騎士団』より先にエマを見つけて保護できればいいと思ってるわ。途中出くわした時はその時ね」
「どうやら本気のようだな。そのつもりなら、止めはせん。――それで、ゼクスよ。君はどうする?」
今度はゼクスに全員の視線が注がれる。ゼクスは一旦全員を見渡し、自らの考えを話す。
「少なからず俺も責任を感じている。乗り掛かった船だ、俺も協力させてもらう。『異狩騎士団』とやらも『戦乙女』が介入してくる事は想定済みだろう。そこに、俺という異物が混じればパニックになるだろう。その隙にエマを保護することもできる」
「……いいのかしら?」
「いいも何も、決めるのは俺だろう」
「……そうね。それならこちらからもお願いするわ」
クレセリアの言葉にゼクスは力強く頷いた。
こうして話は纏まり、解散かと思われたがここでクレセリアが待ったをかける。
「ちょっといいかしら? ゼクスくんもいるし『異狩騎士団』について、話しておきたいんだけど」
そこに、副団長のメリアが付け加える。
「そう言えば、私もよく知らないですね。団長は詳しいんですか?」
「ええ、少し知り合いがいてね」
「……それならお願いしよう」
ゼクスがそう言うと、クレセリアは一呼吸置いて話し出した。
「まず『異狩騎士団』と遭遇した場合、気を付けるべき人物をについて話しておくわ。一番厄介でかつ、団長として統べる者――私と同じ『帝』の称号を持ちながら、『絶対者』の異名も持つ、ノア・フリュークス。次に副団長のレオナルド・レーツェ、団長のノアを信奉する信者みたいな男ね。最後に史上最年少16歳で入団した傑物、ルード。このルードに関しては情報があまりないから、未知数な存在ね」
「……ノア・フリュークスか、確かに厄介な相手だ」
ガルシアが何かを思い出すようにしながら呟く。それを聞き、ゼクスが言葉を紡ぐ。
「その『絶対者』というのは?」
「……そうね。端的に言うと、万能なヤツかしらね。剣術も一流、魔法に関しても火・風・水・雷・光の五属性に適正がある。特に『光』属性の適正は高くて、移動速度はトップクラスよ。総合力なら誰にも負けない、異端者を必ず捕縛する様から、『絶対者』と呼ばれてるわ」
「俺も一度戦ったことがあるが、あれは正真正銘の化け物だ」
「ゼクスくんに忠告しとくわね。ノアに出くわしたら、戦闘は避けて逃げなさい」
「俺では勝てないか……?」
「ええ、無理ね。ノアと対等に戦えるのは、同じ『帝』の称号を持つ私だけよ。……まあ、勝てるかどうかは別問題だけどね」
クレセリアにはっきりと断言されたことで、悔しい気持ちが湧き上がるゼクスだが、忠告を聞かないほど馬鹿ではない。
(……今回の目的はあくまでもエマさんの保護だ。今の実力で『帝』に勝てるとつけ上がる真似はしない)
ゼクスは本来の目的をはき違えることはせず、自分の役割をしっかりと果たすことにした。
その後、一行は解散し、それぞれの帰路へ着いた。
ゼクスは少し遅れてダンジョンへ潜ると皆には伝えていたが、夜ダンジョンへ潜れるゼクスはその有利を最大限生かす。
(準備を整えたら、すぐにでもダンジョンへ潜ろう)
家へ帰ったゼンは、エレアノールに事の次第を伝えた。協力を得られるならば、彼女ほど頼りになる存在はいない。
「……それで、どうだ?」
「一緒に来て欲しいなら、素直にそう言えばいいですのに……」
エレアノールに核心を突かれ、黙ってしまうゼン。少々恥ずかしながらも、素直に言うことにした。
「一緒に来てくれるか?」
「……はい、どこまでもついて行きますの。――それに、話を聞く限りかなりの強敵のようですし、楽しみですの」
「ありがとな、エレアノール。それで……悪いんだが、今回はこの仮面を付けてくれないか?」
そう言い、ゼンはいつも自分がしている仮面とは違う物を差し出す。
「これを?」
「ああ。俺もいつものやつじゃなくて、それと同じのを付ける。異狩騎士団に正体がバレるわけにはいかないからな」
「そういうことなら、了解しましたの。もう行くんですか?」
「少し休んでから行く。……ちょっと準備したいこともあるしな」
エレアノールは何のことか分からなかったが、深くは追及しなかった。
複数が入り乱れる戦いの幕が上がるのは、時間の問題であった。
◇◇◇
約1時間後、ゼンはエレアノールを伴いダンジョンへ転移した。
転移してすぐ、ゼンはエレアノールに方針について話す。
「地道な作業になるけど、一階層ずつ探索していく。こっちには魔眼があるから、エマさんや『異狩騎士団』を先に発見できると思う」
「そのエマという者より先に騎士団を発見した場合は、どうしますの?」
「……状況によって変わるだろうけど、基本戦闘はしない。どうしても避けられない場合は、戦力を鑑みて決める。――まあ、エレアノールがいれば大抵は無力化できるだろうけど……油断ならない相手もいるからな」
「例の団長ですか……」
エレアノールは考え事をしているのか、そう呟く。
ゼンの頭にも、ノアとエレアノールならどちらが強いのかが気がかりだ。
仮にノアの方が上の場合、ゼン側が全滅することもあり得る。
クレセリアからも、無闇な殺生はしない性格と聞いているので、話ができるとは考えている。
あまり深く考えすぎては目の前が疎かになるので、ゼンは余計な考えを振り払い、歩き出したのだった。




