表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/37

第2話 夜中にダンジョンへ

「ちょ……え、本当にダンジョンだよな」


 家の床を破ったら地下室があり、とりあえず一番近くにあったモノに触れたら、ダンジョンに来た。

 ゼンは荒くなる呼吸を必死で抑え込もうとするが、心臓はバクバクと脈打つ。


 しゃがみ込み、指先で岩肌をなぞる。皮膚に少しこびりついた土がより現実味を増させる。

 遂に、ゼンは念願のダンジョンへと潜ることに成功したのだった。


 だが喜ぶのも束の間、ゼンの頭に大きな疑問が思い浮かぶ。


「でも、なんでダンジョンに入れるんだ?」


 ゼンは過去に幾度もダンジョンに入ろうと試みたが、入る直前に透明な壁のようなものに阻まれてきた。

 これが"世界に嫌われた者"に対する結果だ、と何度も思い知った。


 ――それなのに


「この方法なら、ダンジョンに潜れるのか……?」


 ゼンに芽生えた希望の光、どういった理屈でダンジョンに入れたのかは分からないが、この方法ならダンジョンに阻まれることはない。


「っていうか、どうやって戻るんだよ」


 ダンジョンに入れたのはいいが、戻れなければ意味はない。それに、無防備な状態でここにいれば、いつ魔物に遭遇するか分からない。


 ゼンはとりあえず、光を発した円形の立体物にもう一度触れようと考えた。

 よくよく見てみると、立体物の中には光線が砂時計の形を描いている。


「頼む、戻ってくれよ……!!」


 立体物に触れた、すると今度は光を発することなく、光景が瞬時に変わった。

 どうやら、地下室に戻ってこれたようだ。


 戻って来れた安堵から、ゼンはほっと一息吐く。


「ふぅ――、兎にも角にも調査が必要なのは確かだ。誰にも知られることなく、秘密裏に進めよう」


 今後の方針を定めたゼンは、そのまま大の字に倒れ込んだ。どっと疲れが押し寄せてきたのだ。

 明日も受付の仕事はあるので、上へ戻らないといけない。


「あぁ……もう、ダメだ……」


 重くなった瞼が完全に視界を遮り、ゼンは眠りの淵へ落ちていった。



 ◇◇◇



 翌日、6時ギリギリに目を覚ましたゼンは、気合いで上まで上がり、なんとか受付に間に合った。

 いつも通りの1日を過ごし、ギルドに報告書を届けたゼンは急いで家に戻ると、再び謎の地下室へ向かった。


 試しに壁にあった剣を手に取ってみたのだが、どれもかなり年季が入っており、とても綺麗と呼べる状態ではなかった。ローブや防具、その他の装備品も同様だった。


(……ずっと疑問だったことがある)


 迷宮受付の仕事は、決して高給取りではない。せいぜい一人が最低限暮らしていける程度のものだ。

 なのに、ロディ爺ちゃんとの暮らしは悪いものではなかった。どちらかと言うと、裕福な方だったかもしれない。


(何か他の仕事をしてお金を稼いでいたと思ってた……。それ……が、冒険者だった可能性は充分にある。この部屋を見れば一目瞭然だ)


 もちろん、冒険者以外のことをしていた可能性も否めないが、ゼンには冒険者だとしか思えない。


 ダンジョンが唯一無人の巣窟となる深夜の時間帯なら、誰にも怪しまれずにダンジョンに潜ることができる。


「この()を使わないわけにはいかないよな……。最下層には何があるのか……見てみたい、この目で……ッ」


 固く拳を握ったゼンは覚悟を決めた。



 ◇◇◇



 突然だが、冒険者には役割がある。


 剣や槍などの近接戦闘用の武器を使って戦う――前衛。


 弓や魔法などを用いて遠距離から攻撃をして戦う――後衛。


 主にこの二つがある。稀に魔法などを近距離用として使いながら戦う者もいるが、相当な腕前がないと成り立ちはしない。


 ゼンは今日も今日とて地下室に籠り、冒険者としての生活をスタートさせるべく、考えを巡らせていた。

 まず、どうやって戦うのか。基本的にソロの冒険者であれば、剣を武器にしていることが多い。


 魔法となれば、詠唱が必要になる。詠唱を短縮することもできるが、威力が数段落ちる。

 ソロ冒険者が魔法を使う余裕があるか、と問われると答えは微妙なものになる。


「やっぱり、剣だよな……」


 主武器を剣としたゼンは、早速自分に合う剣を探すことにした。探すといっても、今いる地下室から使えそうな剣を見繕うだけだ。


 ベテランともなれば、オーダーメイドの武器を拵えてもらうことも可能だが、現在のゼンにそんなお金はない。


 そして、あれからさらに分かったことがある。


 ダンジョン内と地下室を行き来できる円形の立体物であるが、かなり便利なものだと分かった。

 一往復すると、中の砂時計が動き反転する。さらに、カウントのようなものが減っていく。


 カウントは5まであり、おそらくそれが0になれば、行き来は出来なくなると思われる。

 危なくなれば、地下室に戻ることができる。自らの鍛錬において、こんなに有用なものはない。


 ゼンはこれをフル活用することにした。


「――まずは一人で戦えるレベルまで鍛え上げる」


 宣言通り、この日からゼンの鍛錬の日々が幕を開けた。



 ◇◇◇



 あれから2ヶ月、凹凸の激しい岩場に青く光る鉱石が辺りを照らす中、4体のゴブリンに囲まれたゼンが剣を構えていた。


「――今日も魔石をいただくぞ。《身体強化》」


 体内に巡る魔力を知覚し、魔力による身体の強化を行う基本技法。

 ダンジョンを生業とする冒険者であれば、全員が使えるものだ。


 現在のように四方を敵に囲まれている状況なら、手は一つ――敵より速く動く。

 低く構え、一思いに地面を蹴る。


 ゼンとは体格差のあるゴブリンであれば、力で押し込むことも可能だが、それではただの脳筋だ。

 僅か一歩で一体のゴブリンに接近したゼンは、狙いを棍棒の持つ腕に定める。


(――まずは敵を無力化する)


「ふぅッ」


 斜め上段から振り下ろされた剣は勢いよく棍棒を打つ。垂れ下がった棍棒――僅かに出来た隙を見逃さず、ゼンは右足で手首を蹴る。


 衝撃によって棍棒を落としたゴブリンは表情を歪めながらも、憎悪の籠った視線でゼンを睨みつける。

 ゼンは気にする素振りを見せず、下がった剣をさらに同じ方向へ振り上げる。


 同じ道を辿った剣筋は、ゴブリンの首を一刀で斬り落とす。後ろに意識を向ければ、三体のゴブリンが迫ってきている。

 ゼンは正面から迎え撃とうとせず、側方の岩壁に向かい走り出した。


 ゴブリン達はそれに釣られてゼンの背中を追う。この時点で四方を囲んでいたゴブリンの優位は無くなっていた。

 ゼンは岩壁に一歩出す、そして勢いよく蹴りつけ、後ろ向きに空中で一回転すると、ゴブリンの背後にゼンが立った。


 瞬時にゼン優位の立ち位置になると、剣を横に一閃させた。ゴブリンの背中が斬られ、紫色の血が噴き出す。


 一体ずつ串刺しにし、ゼンの勝利で幕を閉じた。


 生命活動を停止した魔物は、真っ黒な煙となって雲散霧消した。ダンジョン内の魔物は全て、死を迎えるとこうなる。そこに落ちるのが魔石だ。


 この魔石が主な収益源となる。他にも希少な鉱石や遺物(レリック)などもあるが、大半を占めるのは魔石だ。

 ゼンは魔石を拾い上げ、腰に下げた袋に詰める。戦闘を終えたゼンは呟いた。


「とりあえず、今日はこれくらいかな」


 ゼンがダンジョンへ挑戦できるのは、あくまで夜中のみだ。日中は受付をし、夜中はダンジョンへ潜る。そんな生活をしていれば、いつかは体が限界を迎える。


 そのため、ゼンはほどほどで切り上げることにした。


 行き来ができる円形の立体物――名付けて転移砂時計を発動したゼンは地下室へ戻った。

 戻ったゼンは魔石をさらに大きな袋へと入れる。そこには今まで貯めた魔石があり、かなりの数になる。


「ある程度は集めたけど、どうにかしないとな……」


 集めた魔石を置いておいても意味はない。換金してこそ意味がある。

 だが、この換金がゼンにとって目下の課題であった。


「どうやって換金するか。何かいい方法があればいいんだけど……」


 こうしてゼンは、頭を悩ませることになる。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ