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第18話 『月』の軍と『太陽』の軍、そして新刀

 昔、昔――大陸が出来、そこに何時(いつ)しかダンジョンが生まれた。

 やがて、大陸には人が誕生し『国』を作った。『国』はダンジョンを神聖視し、人々もダンジョンを畏怖と憧憬の存在として認めていた。


 現在のように『国』は一つに統一されてはおらず、幾つかに分かれ戦いを繰り広げていた。

 何十年、何百年続くか見通しがたたないような争いにも、意外な形で決着がやって来た。


 どこからか現れた謎の軍団――『月』の軍と『太陽』の軍。

 軍を構成する兵士全員が仮面をつけ、その仮面にはそれぞれの軍の象徴となる紋様が刻まれていた。


 この二つの軍が協力する形ですべての『国』は滅び、一度は統一された。

 しかし、『月』と『太陽』二つの相反する軍は次第に敵対を始め、終いには再び大戦が起こった。


 拮抗する両軍は100年争いを続けたが、終結の時はやってこなかった。

 そんな時、意図せず第三の勢力が介入してきた。第三の勢力は単体であったが、両軍に引けを取らない強さを持っていた。


 ――『死』と『破壊』を司る邪竜デーストルークティオー


『月』と『太陽』、そして『邪竜』の三すくみの戦いはさらに苛烈を極めた。

 だがここでも、決着はやって来た。世界の終焉が来る、とまで呼ばれた争いを止めたのは一人の男だった。


 その名も『カエサル』精霊を操り、神に見初められし者。


 まず『カエサル』は邪竜を大陸そのものに封印した。残った『月』の軍と『太陽』の軍は滅ぼされることはなく、『カエサル』の命と引き換えにその争いの記憶を失った。


 残された人々は『カエサル』を英雄と呼び、崇め奉られた。

 また、『カエサル』はその偉業から『調停者』とも呼ばれている。


 ざっとそんなところをヴァルフは語った。


「――とまあ、こんな話じゃ。どうじゃ?」

「……話を聞く限りだと、その『月』の軍と『太陽』の軍の紋様が俺の仮面にある、ということか」

「そうなるの。まあ他にも、ダンジョンや地中からそれらの紋様が刻まれた遺物(レリック)なんかは発掘されとる。――ただ、お前さんの仮面みたいに両方の紋様が刻まれたモノをワシは知らん」


 ゼクスは今、猛烈にロディ会いたいと思っていた。死んでるのでそんなことは不可能だが、全てロディの家の地下室にあったものだ。


 ロディなら何か知っていても不思議ではない。


「悪いが、俺は本当に何も知らない」

「そう落ち込むことでもないわ。こういった歴史の論争は平行線を辿るばかりじゃからな」

「……うむ」


 ゼクス――ゼンの胸にはまた一つ、しこりが出来ることになったのだった。



 ◇◇◇



 ヴァルフからの歴史語りの後、ゼクスは刀について詳細を話し合った。

 ミスリルを合わせた合金を使用したもので、魔法との親和性が非常に高くなる刀身を希望した。


 刀の斬れ味を以てしても、斬れないものはある。そこに魔法を合わせることで、斬れ味が増す。

 また、単純な耐久力向上にも一役買ってくれるのが、ミスリル鉱石だ。


 ミスリル100%ではないため、価格やミスリル鉱石の量などを抑えられる。


「……久しぶりに難しい注文を受けたぶん、腕が鳴るわい」

「時間と料金はどれくらいかかりそうか?」

「そうじゃの……時間は、三日じゃな。それで完成させたる、料金は……白金貨3枚ほどかの」

「――ッ。ち、ちなみにそれは後払いは可能だろうか?」


 白金貨3枚という想像のさらに上をいく値段を聞き、ゼクスは息を詰まらせる。咄嗟に支払いについて質問してしまった。


「何じゃ、手持ちがないんか?」

「あ、ああ……あっても足りなかったと思うが。そもそもの相場も分からん」

「……そんなんで、何で冒険者やっとるんじゃ」

「うっ……ごもっともで」


 ヴァルフに痛いところを突かれ、しなだれるゼクス。ヴァルフはそんなゼクスを見て、豪快に笑う。


「ハッハッハッ、おもろいヤツじゃな。別に金は後払いで構わんわ」

「いいのか……?」

「もしお前さんが払わんかったら、クレセリアに取り立てに行かせるわい」

「確かに、それなら払わざるを得ないな」


 ヴァルフにはクレセリアという切り札があることをゼクスは思い出し、納得した。

 その後さらに刀身や柄の長さ、ミスリル鉱石の割合など詳細を話し合い、ゼクスは三日後ここを訪れることとなった。


 エリックとは別れたが、冒険者について色々と聞きたいらしく、ゼクスと再び会う約束を取り付けていた。



 ◇◇◇



 ――三日後、ゼクスはヴァルフの下へ向かっていた。この三日間、ゼクスは鍛冶区画以外の区画を回っていた。


 以前話していたように、エレアノールの冒険者計画のため必要なものをここで調達できないかと考えていた。

 かなり高くつくが、ゼクスはエレアノールの外出のため馬車を特注することを決めた。エレアノールが倒したミノタウロスの魔石はかなり高く売れるはずだ。


 そんな考えがあってか、ゼクスは日常区画を熱心に観察していた。日常区画は一番人が多く、職人も多いためたくさん出店されている。


 ゼクスは一度戻ったら、すぐに工業区画行の馬車を予約しようと思った。


(あんまり待たせると、エレアノールに怒られそうだからな)


 ヴァルフの家へ着いたゼクスは中へ入る、


「ヴァルフ殿、刀を受けとりにきたゼクスだ」

「おお、来たか。出来とるぞ、納得のいくもんができたわい。ほれ、こっちにこい」


 ヴァルフに手招きされ、ゼクスは足の踏み場を慎重に見極めながら奥へ進んでいく。

 奥は立派な鍛冶工房になっていた。どうしたら生活空間とここまで差が出るのか、ゼクスには分からない。


 珍しそうに周囲を眺めているゼクスに、ヴァルフは声をかける。


「初めてか?」

「ああ、武器を注文したのが初めてなもんでな」

「なら、少し見ていったらええ。次に欲しいのが見つかるかもしれんぞ」

「そうさせてもらおう」


 それからたっぷり一時間程度、工房を観察したゼクスは遂に刀と対面を果たす。


「……こいつが、ミスリルとの合金で作った『魔銀刀』じゃ。魔法との親和性は充分じゃ」

「これが……触ってもいいか?」

「何を聞いとんじゃ……これはお前さんの得物じゃろ」


 思わず聞いてしまったゼクスに対し、ヴァルフは心底呆れた表情で言う。

 気まずい雰囲気のゼクスは、恐る恐るといった様子で魔銀刀を手に取る。


 鞘から抜き、銀色の輝きを放つ刀身を見て、ゼクスは見惚れてしまう。


(……きれいな銀色だ、一切の濁りがない。当たり前なんだろうけど、これは凄いな。それに、手が柄にフィットしてる。ヴァルフさんが手形を取る、と言い出した時は驚いたけど……こういうことだったのか)


 ヴァルフの職人としてのこだわりを実感したゼクスは、素直に感謝の意を伝える。


「ヴァルフ殿、感謝する。これは凄まじい名刀だ。これを握れる俺は運がいい」

「ハハ、そう言ってくれんのが何よりじゃ。しかし……お前さんの持ってきたミスリルは純度の高いもんじゃったな。穴場でも見つけたか?」

「うぅむ……穴場かどうかは分からないが、メタルスライムの生息地を見つけてな」

「おおっ、そりゃ運がええな。メタルスライムの喰う鉱石や金属は他と違って純度が高い。ワシも鍛えていて楽しかったわい」


 こうしてゼクスは念願のミスリルを使った刀を手に入れた。早くダンジョンで試してみたいとも思った。

 ゼクスは運良く明日の馬車に乗ることが出来るので、その便で帰ることになる。


「それでは、また後日来る。代金はその時に」

「おお、待っとるぞ」


 ヴァルフに別れを告げたゼクスは、あまり見ることの出来なかった魔導区画へ足を運んだのだった。














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