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第14話 第十階層『門番』

 分かれ道では左へ進んだゼンとエレアノールは、確実に十階層『門番』へ近付いていた。

 ゼンは今でこそ魔眼を当たり前のように使いこなしているが、本来魔眼など手に入れられるものではない。


 踏破を目指して安全に進むことができるのは、とんでもなく有用な力だ。使うごとに、ゼンはその有用性を実感していた。


(ほんと便利だな魔眼は……斥候役のメンバーがいらないんだもんな)


 そう考えていたゼンに、エレアノールがふと横から話しかけてきた。


「そう言えば、貴方にご相談したいことがあったんですの」

「ん? 相談?」

「はい、(わたくし)も"仕事"というものをやってみたいんですの。ほら、貴方だって受付? なる仕事をやっているではないですの」

「仕事ねぇ……急にどうしたんだ?」


 今まで仕事に興味を抱かなかったエレアノールの変化に、ゼンが疑問を抱く。


「別に、特に意味はないですの。何となく気になっただけですの」

「ふむ……」


 ゼンは顎に手を当て考える。


吸血鬼(ヴァンパイア)のエレアノールが出来る仕事なんて限られてるよな。日中の外出は、って――)


「ていうかさ、日中絶対に外へ出ちゃダメなのか?」

「いえ、絶対ではないですの。日光さえ遮れれば問題ないですの」

「それなら……出来ないことはないんだろうけど」


 そんなことを言いながら、ゼンは頭でイメージを働かせる。


(特注の馬車みたいなのがあれば、外の移動はできそうだよな……)


 窓の部分には黒のカーテンを使い、万が一に備えて光を遮るものがあれば問題ないだろう。


「今は何とも言えないから、ちょっと待っててくれ。エレアノールも冒険者として活動できるなら、そっちの方がいいだろうし」

「冒険者ですか……悪くないですの。それなら、貴方にお任せしますの」

「ああ」


 一旦保留としつつ、この話はゼンが全面的に預かることになった。

 そんなこんなで探索を進めていた結果、ゼンは第十階層『門番』が支配する領域を己の目で捉えることに成功した。



 ◇◇◇



 不自然に作られた円形の闘技場のような場所。これまでの階層と違い、明らかに『門番』と分かる。1メートルほどの溝が、始まりと終わりを表している。


 この溝を超えてしまえば、瞬時に戦闘が始まるのだろう。一番重要な『門番』となる魔物は――


「――フルメタルリザードマン」


 ゼンが真剣な表情で呟いた。

 敵は僅か一体、だがその一体の質は非常に高い。鎧とは違い、リザードマンの特徴とも言うべき(うろこ)が固い金属で出来ている。


 メタルスライムと同じ理屈で、ダンジョン内の鉱石などを取り込んだ結果だと言える。

 フルメタルリザードマンに弱点という弱点はない。鱗が硬すぎるため、並大抵の刃では通らない。それは当然、今のゼンにも当てはまる。


 フルメタルリザードマンの倒し方としては幾つかある。

 まず、単純に鱗を斬り裂く。剣術を極めた者や、刀身に雷や炎を纏わせ殺傷力を底上げした刀剣などを持つ者である。


 次にかなり強引な方法だが、力で圧死を狙う。土魔法などで耐えきれないほどの圧力を加え圧死させる。残念だが、今のゼンでは高階梯の土魔法は扱えない。


 主な対処法はそんなところだ。


(……今の俺じゃ、出来ることはたかが知れてる。けど、倒せない相手じゃない。フルメタルリザードマンの鱗は強力だけど、それに唯一守られていない部分がある。――眼だ、視界を確保するため眼だけは鱗で覆われてない)


 ゼンの言う通り、眼だけは通常の刃でも通る。何なら、指で潰すことも可能であろう。

 頭の中で情報を整理したゼンはエレアノールに一言かけ、始まりと終わりの溝を超えた。


 超えた瞬間、フルメタルリザードマンの両眼が怪しく赤色に光る。人間の血だろうか、血痕のついた斧を片手に持ち、もう片方に盾を持つ。


 鱗に覆われた尻尾を何度も地面に叩きつけ、挑戦者を歓迎している様にも見える。


「……一騎打ちか。いいさ、相手にとって不足なし。――俺を更なる高みへ連れて行ってくれ」

「フルルルル……ッ」


 ゼンの言葉に反応し、フルメタルリザードマンも鳴き声を上げる。

 ゼンは《身体強化》を発動し刀を抜くと、落ち着いた様子で正眼に構える。そして時を待たずして、全速力で地面を駆ける。


 突発的に始まった戦闘は、序盤から混迷を極めた。刀と斧がぶつかり合う金属音が絶え間なく響き、フルメタルリザードマンの尻尾が地面を打つ。


 ゼンも空いた手を上手く使い、《火射(ファイアショット)》を放つが、間一髪のところで回避されるか、分厚い鱗に擦り傷をつける程度。


(硬い……断とうとしても、何重にも重なった硬鱗(こうりん)が刃を(ことごと)く阻む……ッ。想定してはいたけど、骨が折れそうだな)


「フルルルルッ!!」


 突然フルメタルリザードマンが雄叫びをあげた。しなる尻尾を振り回し、ゼンの足元を狙う。

 ゼンは片足で跳躍し尻尾を避けるが、空中に逃げたところを狙って斧が振り下ろされる。


 ゼンは咄嗟に刀で受けるが、空中であるため支える場所がなく、激しい衝撃と共に地面に叩きつけられる。


「かはっ」


 フルメタルリザードマンは追い討ちをかけるべく、短く息を吐いたゼンに飛びかかってきた。


「……!! やばいッ」


 直感でそう感じたゼンは、《身体強化》で強化された両脚で蹴りつけタイミングを外す。

 ゼンはその僅かな隙に立ち上がり、体勢を立て直す。想像していたよりも身軽に動くリザードマンにゼンは翻弄されていた。


(正面からの戦闘じゃ勝ち目がない。眼を狙おうにも動いているからピンポイントで突き刺さない。やっぱり動きを封じなきゃダメだ)


 フルメタルリザードマンの動きを幾ばくか封じることが出来れば、ゼンの突き攻撃で確実に眼を潰すことができる。


(今の俺が出来る動きを封じる手立てだと……『土』属性魔法しかない。そうなると、詠唱のための時間が必要になる。くそ……こんなことなら、エレアノールに詠唱短縮の方法を教わっとけば良かったな)


 後悔したゼンであるが、今後悔したところで意味はない。現状で出せる全てを使ってフルメタルリザードマンに勝つ、ゼンの頭にはそれしかない。


(上手くいくか分からんが……やるだけやってやる)


 ゼンはフルメタルリザードマンから離れ周囲をただ走り回る。刀を鞘にしまい、両手で《火射(ファイアショット)》の構えをとると、地面に向けて無差別に発射した。


 ドドドドドドドド、と次々に炎弾が地面に当たり、土煙を巻き上がらせる。

 一発なら大したことはないが、何百発もあれば煙幕が出来上がる。


 土煙に加え炎弾による煙も合わさり、辺りが煙で充満する。


「ゴホ、ゴホッ」


(よし、今のうちに――)


 長時間は保たない、煙で視界があやふやになっている間にゼンは詠唱を済ませるつもりのようだ。


「――大地の神よ(テッラデウス)我が声に(エゴウォークス)応え(レスポンデーレ)我が敵を(エゴイニミクス)還らぬ土から(ノンレベーテル)這い出る(セルペリー)愚者の(ブラッティウム)硬腕にて(フィクトゥール)捕縛せよ(キャプティス)・《隷属手の舞踊(スレイブハンドダンス)》」


 ――『土』属性の四階梯魔法。


 ボコボコボコ、とフルメタルリザードマンの足元の地面が盛り上がる。続いて爛れたような土で出来た手が地上に顔を出す。

 幾多もの土腕はフルメタルリザードマンに絡みつくように、密着し動きを封じる。


 ガッシリと地面に縫い付けられたフルメタルリザードマンは格好の的となる。

 ゼンは詠唱を済ませた直後に走り出しており、刀を握り引き絞っている。


 フルメタルリザードマンの眼に照準を合わせ、突きを繰り出した。鱗に覆われていない眼は簡単に貫かれ、フルメタルリザードマンは絶叫をあげる。


「フルルルルルルルッ!!」


 あっという間に両眼を潰され視界を奪われたフルメタルリザードマンは眼を押さえながらのたうち回る。


「上手くいった……後は倒れるまで待つだけだ」


 ゼンはフルメタルリザードマンが弱り切るまで、待つことにした。鱗は健在であり、刀で斬ろうにも斬れないからだ。

 戦闘が終了したのを見計らい、エレアノールが近づいて来た。


「見事でした、魔法の練度も日に日にあがってますの。この調子なら、次の段階へ進めそうですの」

「それは何よりだ。にしても、身体がちょっと重いな」

「魔力を使い過ぎでは? 魔眼は思ってるより魔力を消耗しますか、ら――」


 ――ズウウウンッ!! ……ビキ、ビキビキ……


 エレアノールが異変にすぐさま反応し、顔を強張らせる。ゼンも警戒態勢を取っており、油断なく音の発生源を見つめている。


 だんだんと音が近くなってきて、体全体に響いてくる。


「……来ますの」


 エレアノールが呟いた直後、第十一階層へ繋がる門が粉砕された。破片が飛び散り、激しく煙が舞う。

 門の奥、暗闇からは「フシュー」と息を吐く音が聞こえ、ドンドンと足音も大きくなってくる。


 ――両眼が赤く血走ったようで、頭部からは二本の角を生やしている。


 ゼンが驚愕で目を見開きながら、呆然と呟いた。


「……二本角の、ミノタウロス」


 冒険者を蹂躙する猛魔の牛が、第十階層に突如出現した。




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