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第13話 ダンジョン第十階層の探索

 

「――あなた方が贔屓にしている鍛治職人を紹介してもらいたい」


 ゼクスの回答に対しクレセリアは少し拍子抜けしている様子だ。もっと過激な要求をされると思っていたのだろうか。

 ポカンとしている団長クレセリアは、コホンとわざとらしく声を出し空気を変えた。


「ほんとにそれでいいのかしら?」

「……? そう言われても、それしか思い浮かばないな。それに、俺は渋られると思っていたぞ」

「まあ、渋るも何も紹介するだけならねえ……。鍛治職人も私たちの専属ってわけじゃないし。もちろん、お抱えの鍛治職人を持つクランもあるわよ」


(そういうものなのか……。それなりのクランなら、専属がいると思ってたんだけど……)


 ゼクスの想像とは違った回答だったため、少し戸惑ってしまった。

 だが、そういうことならゼクスの望む結果へ導きやすいだろう。


「――なら、紹介してくれるということでいいのか?」

「ええ、構わないわ。あの人も客が増えれば嬉しいでしょうし」


 そんな会話が行われ、話は纏まった。その後クレセリアは『戦乙女(ワルキューレ)』が贔屓にしている鍛冶職人の詳細をゼクスへ伝えた。

 話によると、その鍛冶職人は山を一つ越えた職人区画にいるらしく、様々な職人の大抵がその区画に店を構えている。


「とりあえず紹介状を書くから、時間がある時にでも行ってみて」

「分かった。紹介感謝する」

「いえいえ、どういたしまして」


 何てことない風に首を振るクレセリアの姿を見て、ゼクスはふとこんなことを思っていた。


(いつか、この人みたいな冒険者になりたいな)


 まだ出会ってから数時間だが、ゼンはクレセリアに惹かれていた。惹かれていた、と言っても恋愛的な感情ではなく、憧れという言葉が最も近いだろう。

 団員という仲間に慕われ、『(カエサル)』の称号に見合った強さも併せ持つ。その美貌も相まって、さらに輝いているように見える。


 ゼンは思った。――クレセリアのようなカリスマ性の持ち主が、ダンジョン最下層の景色を見るに相応しいのだろう、と。


 クレセリアから見てボーッとしているようなゼクスを気にかけ、彼女は声をかけた。


「――ねえ、大丈夫かしら? 疲れちゃった?」

「……い、いやすまない。大丈夫だ。俺はそろそろお暇させていただこう」

「あら、残念……。ま、そうね。今生の別れってわけでもないし」

「それでは、世話になった」


 互いに挨拶を済ませたゼクスは『戦乙女(ワルキューレ)』の三人に見送られ、帰路に着いたのだった。



 ◇◇◇



戦乙女(ワルキューレ)』団長クレセリアとの対談から一週間、ゼンは以前よりも生き生きとした様子でダンジョン階層踏破を進めていた。

 結果的に、一週間で第八階層、第九階層を踏破し第十階層にまで足を踏み入れていた。


 工業区画にいる鍛冶職人――名をヴォルフという、は礼節を重んじる人格者らしく、手土産を持っていかなければ、会ってもくれない。

 また、工業区画までの馬車は週に一回しか出ず、完全予約制であるため時間がかかる事は珍しくない。


 すぐに予約をしたゼンであったが、取れたのは2週間後の馬車であったため、少々時間がある。その間に第十階層までは踏破しておきたいとゼンは思った。


 今日も今日とて、ゼンは受付の仕事を終えると夜のダンジョンへ転移した。本日は、エレアノールも同行している。何でも。


「月に一度は魔物の血を摂取しておきたいのです」

「それって、人間の血じゃダメなのか?」

「別に、そんなことはないですの。何なら、人間の血液の方が栄養豊富で身体にいいですの」


 吸血鬼(ヴァンパイア)は基本、食事を必要としない。高位の吸血鬼であれば、月に一回の摂取で十分なほどだ。

 それでも、美味しい食べ物には目がないようで、エレアノールは血液よりも食事を楽しみとしている節がある。


「ふ~ん、そんなもんなのか」

「あら、貴方の血を吸わせてくれますの?」

「……別にいいけど。魔法の件では助かったし、お小遣いだけってのもどうかと思ってたし」


 ゼンの答えが意外だったのか、エレアノールは一瞬動きを止めたがすぐに歩き出した。

 そして、早歩きでゼンを追い抜くと言った。


「――なら、お言葉に甘えて毎月の楽しみにさせていただきますの」

「……おう」


 頷いたゼンは歩く速度を早め、先を行くエレアノールに追いついた。

 それから少し足場の悪い岩場に突入したので、速度を落としながら進む。


 さらに、段差のある岩場から跳躍し着地したところで、ゼンがピタリと動くのをやめた。左眼の魔眼に魔力反応があったのだ。


 ゼンは小声でエレアノールに言う。


「……少し行ったところに、ヴァンプバットがいた。音に反応して、急速に接近して吸血攻撃を仕掛けてくる魔物だ」

「ふふ、どうやらだいぶ魔眼の使い方が上達したようですね」

「まあな。魔物大全の魔物は全て暗記してるから、姿形がある程度分かれば判別できる」

「頼りになりますの、それでどうしますの?」

「……光属性の魔法が使えるなら、弱点をついて簡単に倒せるんだけど……。あいにく俺に『光』の適正はないからな。あんまり推奨されないだろうけど、こっちは居場所を把握してるからな。――強行突破する」


 強行突破する、と宣言した通りゼンは刀の柄に手を置きながら《火射(ファイアショット)》の構えを取り動き出した。

 魔眼の反応を頼りに腰を低く接近し、《火射(ファイアショット)》の射程距離限界の位置から狙い撃つ。


 放たれた炎の弾に撃ち落とされたヴァンプバットは力無く落下し地面に激突する。

 発生した音に反応して、バサバサと翼をはためかせながら飛び掛かってきたヴァンプバットはゼンの刀の前に斬られ伏した。


 全5匹のヴァンプバットを難なく討伐したゼンは、優雅に歩いてくるエレアノールに先を急ぐことを伝える。


「おい、そんなにのそのそ歩いてたら陽が昇っちゃうよ。少し急ぐぞ」

「ふん、人を亀みたいに言わないの」


 遠回しに亀みたいと言われたように感じたエレアノールは途端に不機嫌になる。


(こういうところは、まだまだ子供っぽいんだよな……。まあ、時間はまだあるしアイツに合わせるか)


 今日中に第十階層を踏破する必要などないため、ゼンはエレアノールに歩幅を合わせることにした。

 途中、ゴブリンやリザードマンなどとの戦闘はあったが、ゼンの刀の前に倒れていった。


 そして、ゼンとエレアノールは分かれ道にやってきていた。


 ダンジョンは一本道が多いが、下は行けば行くほどこうした分かれ道に遭遇することは多々ある。ゼンにとっては初めての選択だ。


「さて、どっちに行くか……」


 ゼンは頭をかきながら呟く。

 エレアノールは分かれた道を交互に見ながら、興奮した様子で言う。


「左の道へ行きますのっ」

「えっと……ちなみにその根拠は?」

「そんなの、(わたくし)の勘に決まってますの」


 何となく分かりきっていたのもあり、ゼンは分かりやすく肩を落とす。


「そんなことだろうと思ったよ。――よし」


 切り替えたゼンは、魔眼にさらなる魔力を集中させた。覗き見ることで、最適な道を見つけようという魂胆だ。

 今までよりも多くの魔力をどんどん魔眼に注ぎ込んでいく。


 ――途端、ズキリと痛みが左眼に走る。


「ぐっ……」


 痛みを堪えながら、ゼンは魔眼でさらに先へと迫る。


(もう少し、もう少しだけ……ぐぅッ、流石にもう……)


 そう思った時、右の道で極大の魔力反応があった。未だかつてないほどの大きさ、禍々しい魔力はそれだけでゼンにプレッシャーをかける。


「――ッ」


 息を呑んだゼンは左眼を閉じ、視界を遮断した。心臓を鷲掴みされているような感覚がゼンを襲った。

 冷や汗をかき、顔が真っ青なゼンを心配したエレアノールが腰に手を当て支える。


「大丈夫ですの? ()()は貴方にはまだ早いですの。大人しく左の道へ行きましょう」

「……あ、あれは何なんだ?」

「おそらく、二本角のミノタウロスですの」

「ミノタウロス……」


 ミノタウロスは強力な魔物だ。群れで行動することはなく、単独で彷徨い弱者を狩る。角の数によって単純な強さが測れる。

 ダンジョン踏破を進めていくにあたって、出来れば遭遇したくない魔物だ。


 ようやく落ち着きを取り戻したゼンはエレアノールに一言お礼を言うと、左の道へと歩みを進めた。







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