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第12話 『帝』の称号を持つ団長

 ゼクスがガルシアとの話を終え一階へ戻ると、何やら騒がしかった。ギルドは基本騒がしいのだが、また違った騒々しさがあった。


 中央のテーブル辺りに人が集中していて、大きな人だかりが出来ている。


(なんだろう? 有名な冒険者でもいるのかな)


 自分には関係ないと思っているゼクスは楽観的だ。受付の仕事もあるため、速く帰ろうとしていた矢先の出来事だった。

 人だかりを避けて出て行こうとしたゼクスの肩を掴む者がいた。


 ゼクスは自然な流れで振り向き、あっと息を呑んだ。


(――ッ、綺麗な人だな……)


 腰まで伸びた髪は派手ではないブロンド色だが艶があり、手入れを欠かしていないことが分かる。瞳は透き通っていて、見つめていると吸い込まれてしまいそうになる。


 危うく自身も吸い込まれそうになるのを堪え、冒険者ゼクスとして言葉を発する。


「あなたのような美人が、何の御用でしょうか? 俺には見覚えがないのだが」

「失礼、私は『戦乙女(ワルキューレ)』の団長クレセリアです。あなたがゼクス殿でしょうか?」


 そう聞いてきたのは、『妖精女王(ティターニャ)』の異名を持つクレセリアだった。

 天使のような声だ。凛とした声の中にも貴族のような気品さが感じられる。


(あぁ……心地よい声。こんな声で子守唄歌ってもらえたら、すぐに寝られる自信がある。いやぁ、ダメだダメだ。ここは厳格に……)


 時々割って入ってくるゼンの本音に騙されないよう、ゼクスは己を律する。出来るだけ目を見ないように、あごの辺りまで目線を落とす。


「そうだが」

「それは良かった。ご迷惑でなければ、少しお時間よろしいかしら? エマの件なんだけど――」


 クレセリアは「エマの件なんだけど」のところだけ、周りに聞こえないよう、ゼクスの耳元まで顔を近付けて言った。

 ゼクスは間近で囁かれた艶かしい声に抗うことが出来ずに、二つ返事で了承した。


「……はい、喜んで」



 ◇◇◇



 クレセリアに連れられギルドを出たゼクスは15分程歩き、とある建物にやって来た。

 真っ白に塗られた外装はとても美しく、クレセリアの美貌にぴったりの建物だ。


「ここよ。さ、入って入って」

「……う、うむ」


 門番らしき女性に半目を向けられながら、門を通り抜けたゼクスは建物の中へ入った。

 中は派手すぎず、適度な調度品が置かれていた。


 ゼクスはそのまま二階へ上がると、応接室のような部屋に通された。室内にはすでに二人いて、そのどちらもゼクスの見知った人物だった。


 二人のうちの一人である銀髪の女性エマは、申し訳なさそうな表情で挨拶した。


「……お久しぶりです。ゼクス殿」

「……ああ、元気そうで何よりだ」


 微妙な空気が流れる中、エマが背後に隠れていた少女の背中を押し、ゼクスに挨拶するよう促す。


「ほら、セリア。挨拶して」

「……うん。ゼクス殿、先の出来事ではお世話になりました。おかげで何事もなく生活できてます。本当にありがとうございました」


 定型的な文でかつ棒読み。子供でももう少し感情が乗って抑揚が感じられるのだが、セリアと呼ばれた少女にはそれが全くない。


「どういたしまして、無事で何よりです」


 セリアにつられ、ゼクスも素のままで返してしまう。

 常識的にいえば失礼にあたるセリアの態度を、二人の美女が注意する。


「こら、いつも他人様に挨拶する時は感情を込めるよう言ってるでしょ」

「……ごめんなさい。でも――」


 素直に謝ったセリアは体をゼクスの方へ向け、指差し宣言した。


「もし、エマ姉とクレセリア様を狙おうっていうなら容赦はしない」

「「セリアッ」」


 エマとクレセリアが二人同時に声を上げた。エマはセリアの頭にゲンコツを落とし、ペコペコ頭を下げている。鋭い眼光で睨まれたゼクスは誓った。


「分かった。肝に銘じておこう」

「……ならいい」


 ゼクスの誓いを確認したセリアは、そそくさとエマの背後へ隠れてしまった。

 唖然とした様子のクレセリアも丁寧に頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。


「申し訳ありません……うちの団員が」

「いや、仲間思いで良い子だと思う。とにかく、頭を上げてくれ」


 ゼクスにそう言われたクレセリアは渋々頭を上げると、団員の教育について徹底しようと決めた。

 その後、軽い世間話をし、やっとこさ本題についての話し合いがとなった。


「――それで、今回来てもらった件なんだけど」

「その前に、俺から一ついいか?」

「ええ、構わないわ。何かしら?」


 ゼクスはすぅーと息を吸うと、顔をエマの方へ向け最大の疑問について問うた。


「契約魔法にサインしたはずなのに、なぜクレセリア団長にバレてるんだ?」

「うっ……それはですね――」


 エマ曰く、最初はゼクスの事については黙っていたそうだ。何とか自力で戻ったと話していた。

 しかし、ギルドに黒為冒険者(ブラッキィ)の男の証言をしたことで、ギルド経由でクレセリアに伝わったのだという。


 問い詰められたが、契約魔法があるので話せない。なのに、クレセリアが契約魔法を解除してしまったらしい。

 冷静に聞いていたゼクスだが、「契約魔法を解除」とかいうパワーワードを耳にし、話を止める。


「――ちょ、ちょっと待ってくれ。何やら聞き慣れないワードが聞こえたんだが……」

「それについては、私から話しましょう」


 待ったをかけたゼクスの疑問を解消しようと名乗り出たのはクレセリアだった。当の本人から話してくれるなら、文句もない。


「まず、ゼクス殿。あなたは契約魔法を万能なものだと思い込んでるわ。契約違反の場合の罰も身体的苦痛を与えるものじゃなかったし、私くらいなら解除できてしまうわ」

「……確かに、罰は苦痛を伴わないものだったが。そんな滅茶苦茶なことが……」

「いい? ゼクス殿、魔法は完璧じゃないの。どんな魔法にも対抗方法がある。まあ流石に、罰が死とかなら私も躊躇したけどね」


 クレセリアに諭されたゼクスは未だ半信半疑ながらも、実際にエマが話しても罰が発動したいなかった。その事実から、本当に解除したのだろう。


 ちなみにゼクスが定めた罰は、ゼクスの下へ連絡がいくという簡易なものだった。身体的苦痛を伴う罰だと、サインしてもらえないおそれがあった。


 強制的にサインさせることもできるが、そんな恫喝じみた真似はゼンには出来ない。出来るだけ穏やかなダンジョンライフを送りたいのがゼンの本音だ。


「……さすが、『(カエサル)』の称号を持つ者だな」

「うふ、お褒めにあずかり光栄よ」


 ゼクスが言った『(カエサル)』とは、特に優れた冒険者に与えられる称号のことだ。大陸でこの称号を持ち得るのは、わずか七人しかいない。大陸の統一を成し遂げた英雄カエサルの名を取り、名付けられた。


 そのことから『(カエサル)』の称号を持つ七人を総称して、【七臣下(セプテムバサルス)】と呼ぶ。


 ゼクスは不意に微笑んだクレセリアの笑みにドキッとしてしまう。これまた不屈の精神で耐えるが、普通の男であればすでに堕とされているだろう。


(普段からカーラさんやエレアノールを見てるからかな……)


「でも、安心してちょうだい。あなたのことを口外するつもりは一切ないから。七臣下(セプテムバサルス)として、戦乙女(ワルキューレ)団長として誓うわ。だから、契約魔法は無しにして欲しいの。どうかしら?」


(どうかしら?って、あんた自由に解除できんじゃん!?)


 ゼンは心の中で盛大に突っ込んだ。結論として、このままこの提案を受け入れることにした。口約束ではあるが、その人物が相応の地位にいるのは大きい。


「……了解した。あなたを信じることにする」

「ありがと。あと……お礼というより、エマ達の借りを返そうと思うんだけど、何かできることはないかしら? あ、何なら()()()()()にする?」

「――ッ。(な、何言ってんだこの人……冗談なのか本気なのか分からん!!)」

「だ、団長!?」

「……やっぱり殺す」


 魔性の女っぽい雰囲気を醸し出し、とんでもないことを言うクレセリアにゼンは振り回される。それはエマやセリアも同じで、セリアに至っては殺意の籠った目でゼンを睨んでいる。


「ふふ、冗談よ。ちょっとからかってみただけよ、あなた達も本気になりすぎよ」

「……。(魔性だ、この人は男を弄ぶ魔性の女だッ)」

「で、どうかしら?」

「そうだな……。それなら一つある」

「お、何かな?」


 ゼンは少し速いかと考えながらも、人脈として作っておくのは悪くないと思った。そのため、こんな答えを出した。


「――あなた方が贔屓にしている鍛治職人を紹介してもらいたい」



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