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第11話 200年前の教団

 途中、魔物との戦闘はあったがゼクスの魔眼で事前に察知できたため、障害となりえる事は起きなかった。

 こと戦闘に関して言えば、ゼクスではなくエマが先陣を切っていた。


 ゼクスの出番はほとんどなく、エマの放つ『雷』属性の魔法によって消滅した。

 本職は治癒術師と言っていたエマであったが、戦闘能力は高い。


 後衛と言えど、『戦乙女(ワルキューレ)』に所属しているという事実は伊達じゃない。

 エマは治癒魔法を扱えるようになる『光』属性と『雷』属性を有しており、魔術師としてのレベルも非常に高いことが伺えた。


 時間にして深夜2時。すでに一階層まで戻ってきていた二人は、ダンジョンの巨大な門を視界に捉える距離まで来ていた。


「どうやら、ようやくゴールのようね」

「そうだな。門が開くまで時間があるが、どうするつまりだ?」

「どうするも何も、開くまで待つわ。ゼクスも待つ?」

「いや、遠慮しておこう。少し用事があってな、ここで別れる」


 万が一にも転移砂時計を見られるわけにはいかないので、ゼクスは早めに別れておくことにした。


「この男は俺が責任を持ってギルドへ引き渡す、安心してくれ」

「ええ、任せるわ」

「それでは、失礼する」


 ややあっさりした別れ方だが、また出会うこともあるだろう。エマは逃げるように去って行ったゼクスの背中を一瞥すると、「変な人」そう呟いたのだった。



 ◇◇◇



 エマと別れたゼンは人目がつかない場所まで移動し、転移砂時計を発動した。

 ダンジョンから地下室に戻ってきたゼンは、仮面を取るとその場に腰を下ろした。


 ふと、横に視線を向けるとエレアノールがいた。


「あれ、いたのか」

「おかえりですの。今日は随分と長かったですね」

「まあ……ちょっと色々あってな」

「そうですの。それで、その男は何ですの?」


 ゼンの側に横たわる男に気付いたエレアノールが尋ねてくる。

 疲れもあり、長々と説明するのを面倒と感じたゼンは一言。


「人殺しをする悪いヤツ」


 と言った。それを聞いたエレアノールは目を爛々(らんらん)と輝かせ、舌なめずりしながら言う。


「なら、貰っていいですか?」

「……いやいや、ダメだから。コイツはギルドに引き渡すの」

「む――、ケチ」


 エレアノールは頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。

 また機嫌を損なわせたと思ったゼンは立ち上がると、エレアノールの肩に手を置いた。


「また、小遣い渡してやるから」

「……ふん、前回の3倍くれるなら許してあげますの」


 そう言い歩き出すエレアノールの表情は非常に柔らかなものだった。

 何だかんだでエレアノールの扱い方を覚えてきたゼンは、その方法を心の中にそっと刻み込んだ。



 ◇◇◇



 その翌日、ダンジョン受付を別の人に代わってもらったゼンは朝早くから冒険者ゼクスとなり、黒為冒険者(ブラッキィ)の男を連れてギルドへ向かった。


 エレアノールはまだ寝ており、気持ちよさにしていたのでそのままにしておいた。

 昼間と比べると人の数は多くはないが、朝となるとそれなりに人はいる。


 周囲の人間はゼクスを見ると揃って道を開けることから、(ちまた)では「ゼクスはどこかの国の王族なのではないか」と噂されている。


(……慣れないな。前回よりも奇異な目で見られてる気がする)


 そんな扱いを受けながら、ゼクスはギルドの扉を潜った。中に入ると途端に異様な雰囲気になる。

 外での対応と同じく、ゼクスが通ろうとすると道が開かれ、一直線にカウンターまで来た。


「おはようございます。どういったご用件でしょうか?」

黒為冒険者(ブラッキィ)と思しき男を捕らえた。引き渡すのはギルドで良かったか?」

「……えっと、その担がれてる方が……そうだと?」

「ああ、ダンジョン内で襲われた。目撃者もいる」


 ゼクスの発言からしばらく目をパチクリさせていた受付嬢は、ハッとすると、


「少々お待ちください――!!」


 そう言いながら、カウンター奥へ消えていった。

 ゼクスはその後戻ってきた受付嬢に、三日後ギルドに来るよう言われた。男はと言うと、ギルド所属の屈強な大男達に連れられていった。


 時間は過ぎ、三日後――


 ゼンは再びゼクスになると、ギルドへ赴いた。今回は待たされることはなく、すでに受付嬢が待っており、そのまま二度目となるギルドマスターの執務室へ通された。


 中に入ると、少しやつれた顔のガルシア・ガーランドがソファに深々と座っていた。

 ゼクスは仮面を外しゼンに戻ると、ガルシアを労わる言葉をかけた。


「ご苦労様です、ギルドマスター殿」

「……はぁ、全くこの三日間ほとんど寝れてないわ」

「そんなに重要な情報を持った男だったんですか?」

「まあ、とにかく座れ。話はそれからだ」


 ガルシアに促されるまま、ゼンはソファに腰かけた。

 するとガルシアは指をパチンと打ち鳴らし、防音の結界を張った。


「――よし、それでは結果を話すとしよう。まず、ゼンが連行してきた男だが、黒為冒険者(ブラッキィ)で間違いなかった。『戦乙女(ワルキューレ)』のエマからも、証言を取れた」

「そうだったんですね。とりあえずは良かったです」

「……それにしてもだ、驚いたぞ。冒険者を初めてまもなくで、黒為冒険者(ブラッキィ)と遭遇とは」


 ガルシアが呆れたように、そして感心したかのように言う。ゼンはただただ苦笑するしかない。


「ハハハ……。それで、男の正体とかは判明したんですか?」

「……判明はしてない。ただ、何か大きさ力が働いていることは分かった。男の所持品からは何も出なかったが、胸の部分にある紋章を見つけた」

「紋章ですか?」

「ああ、それがこれだ」


 ガルシアは手元の紙を引っ張り出し、ゼンの前へと置く。そこには、『己の尾を噛んで環となった蛇』の紋章が書かれていた。


 ガルシアはその紋章に見覚えはあるかどうか、問うた。


「見覚えはあるか?」

「ないですよこんなの……」

「そうか……まあ、あっても何もないが……一応、あらゆる文献を調べたところ。――合致するものがあった」


(全部調べてたのか……。それは時間が削られるよな)


 ゼンは心の中でもう一度ガルシアを労うと、話を途切らせないよう話を続ける。


「その合致したものって……」

「これだ」


 ガルシアはあらかじめ開いていた書物のページをゼンにも見えるよう差し出す。


「……邪竜の復活を目論んだ組織、ウロボロス教団について」

「そうだ。ここを見てくれ」


 ガルシアがページの右隅を指差し、ゼンの視線も自然とそこへと移る。

 ゼンはそれを見て、思わず声を上げた。


「これって、男の胸にあった紋章と一緒の……」

「うむ。遥か昔、この大陸に封印されたとされる『死』と『破壊』を司る邪竜デーストルークティオー。こやつを復活させようとした組織があったらしい。この文献によると、約200年前のことだ。その当時の組織、『ウロボロス教団』のシンボルとして掲げられていたのが、この紋章だ」

「……つまり、200年の時を超えて再び教団が復活したってことですか?」


 説明に熱心に耳を傾け、聞き終えたゼンの質問に対し、ガルシアは一層低く唸る。


「ぅぅむ……そこについては、まだ何とも言えん。情報が少なすぎる」

「ですよね。すいません、深入りしてしまって」

「いや、構わん。手掛かりとなる男を捕らえたのはゼン、君だ。君には真相を知る権利がある」


 どうにも大層な話になってきて、ゼンの頭はこれまたパンク寸前だ。黒為冒険者(ブラッキィ)だと思って捕らえた男が実は、200年前に存在した教団を復活させた一味かもしれないのだ。


 書物に目を落とし黙るゼンを見て、ガルシアが声をかけた。


「大丈夫か?」

「……はい、整理するのに少し時間がいるかもですけど」

「無理もない。我々でさえも頭を抱えているんだ。君が背負い込む必要はない。――とにかくだ。復活したにせよ、してないにせよ、これで終わるとは思えん。他にも紋章を刻んだ者は複数いるだろう。くれぐれも、気を付けてほしい」

「ありがとうございます。また何か分かれば連絡ください、俺も何かあれば伝えるんで」

「悪いな、そのように頼む。とりあえず今日は解散としよう、大事な表の仕事を休ませちゃいかんからな」


 二人は互いに笑顔を見せると、最後に軽く言葉を交わして解散した。

 何やら不穏な動きに巻き込まれたゼンであったが、今日も別のことで頭を使うことになるとは、夢にも思わなかった。


 ゼンが執務室にいる間、ギルドの一階では群衆によるどよめきが起こっていた。


「お、おい……あれって……」

「ああ……冒険者クラン『戦乙女(ワルキューレ)』の団長、クレセリアだ」




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