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結婚式の前日に婚約者が「他に愛する人がいる」と言いに来ました  作者: 四折 柊


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13.私の幸せな明るい未来(ヘレン)

 ヘレンは自分の部屋に閉じこもり扉に鍵をかけ、必死に説得を繰り返す両親やそれ以外の声を無視した。


 特にそれ以外の声の主、私の婚約者を名乗る40歳も年上の男爵の声に対しては耳を塞いだ。あの男はいつも私に向かってねっとりとした視線を向ける。気持ち悪くて仕方がない。私は器量もよくスタイルも抜群で色気がある。更に社交性に優れていると自負している。


 この男は父にとって大切な仕事相手だと聞いていたので、屋敷に来た時に愛想よく話し相手をしてやった。祖父のような年齢の男性なら尊敬のまなざしを向けておだてておけば気を良くするだろうと思い、終始笑顔で誉め続けた。ところが何を勘違いしたのかこの男は図々しくも私を気に入ったと求婚してきた。信じられなかった。身の程を弁えないこんな男は私に相応しくない。お金持ちではあるがとっくに成人している息子が爵位を継ぐ事が決まっていて、私にまったく旨味のない話だった。(普通ならすでに爵位を譲っている年齢だが権力に執着しているようだ)


 私の未来はパーカー侯爵夫人になると決めている。そう、私はロニーと結婚するつもりでいた。両想いなのにロニーは貴族の義務だとセリーナと結婚する意志を変えなかった。それならば愛人でもいいと伝えた。最初は愛人でもロニーは私を愛しているし、セリーナは気が弱いからゆくゆくは時間をかけてその立場を奪えばいい。


 そう思っていたがロニーは愛人の提案さえ拒みセリーナと結婚してしまった。それでも私は諦めるつもりはなかった。だってセリーナより私の方がロニーに相応しい。気の弱いセリーナでは侯爵夫人としての威厳など醸し出せないだろう。私なら華やかな雰囲気で場を楽しませ上手くやれると確信していた。

 それでも二人は結婚してしまったのでしばらくは様子を見ることにした。時機を見て再びロニーを逢瀬に誘うつもりでいた。ロニーに会いたいと訴えれば彼は私の誘いを無下にしないと知っている。


 ところがのんびり構えていたのがいけなかった。気付けば私は窮地に陥っていた。男爵はまだ現役で仕事をしている。私との結婚を機に隠居して領地で新婚生活を送る予定だと言っていた。大きな事業をしていて息子に全てを引継ぎ終えるのに二年かかるそうで、それまでは婚約期間だと聞かされていた。二年の猶予の間にロニーのもとに行けばいいと油断していた。

 それなのに急に結婚を早めると言い出した。領地から少しずつ引継ぎを行うことに変更したのだ。冗談ではない!!


 突如、私は一か月後には借金のカタに祖父と変わらない年齢の大嫌いな男のもとへ嫁がなければならなくなった。借金の返済の手段はなく両親は私を犠牲にすることに躊躇いを感じていない。そもそも父はこの男の友人の投資話に乗って多額の借金を抱えた。男爵とその友人がグルになって騙したとしか思えないが、証拠はないし気の弱い父は立ち向かう事もできない。


 私は焦燥に駆られセリーナに会いに行った。彼女がロニーと別れてくれれば私はロニーと結婚してパーカー侯爵家に入れる。私を売り飛ばそうとする両親のことなど、もうどうでもいい。私がセリーナに詰め寄ると意外なことに離婚を約束してくれた。


 セリーナは学園にいたときから変わらない。私の言うことを拒めない。人に嫌われることを恐れ人の顔色を窺っている所がある。言いくるめる自信はあったがあっさりと「離婚する」と言った。もしかしたら愛のない結婚生活に疲れたのかもしれない。離婚さえすればきっと近いうちにロニーが迎えに来てくれる。安堵の息を吐き私は屋敷に戻った。そして肌や髪の手入れに取りかかる。未来の侯爵夫人として相応しい美しさを心掛けロニーを待つことにした。


 数日後、ロニーが訪ねてきたと聞いて私は飛び上がって喜んだ。一旦客間で待っていてもらうように侍女にいいつけ、私はいつもより念入りに化粧をしてから客間に向かった。引き離された恋人同士の感動の再会は美しく装わなければならない。

 久しぶりに会ったロニーは憔悴していた。それほど私に会えなかったことが辛かったのだろう。


「ロニー、会いたかった! やっと迎えに――」


 言い終わる前にロニーはソファーから立ち上がると鋭い視線を私に向けた。

 いつもの愛おしさに溢れる熱量のあるものではない。私は訳が分からず、絶対零度のそれに思わず恐れを感じ竦んでしまった。





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