告白したら神殿に行こうと言われた! え? 結婚の手続き?!
「あの、好きです! 」
「うん。じゃあ、神殿に行こう」
「神殿? 」
「うん、結婚の手続きしないと」
「結婚? 」
「うん、俺の事好きなんだよね? じゃあ、結婚しよう」
今、私はイロイロいっぱいいっぱいで頭が真っ白になっている。
状況を整理しよう。
私は、私の好きな人、ルート殿下の側近のエミリオ・グーパー様に告白をした。
正直振られること前提で。
彼はルート殿下の側近であると同時に公爵家の次男でもある、しかも非常に美形。
難点といえばその冷たい眼差し、モテるが近寄ってくる女性をことごとく冷凍光線で追い払っている事ぐらいである。
でも、彼が優しいことを私は知っている。
何度か助けてもらったことがあるからだ。
私は彼がとても好きだ、だからせめて想いだけでも伝えようとなけなしの勇気を出して告白してみたのだが………。
「あ、あの、グーパー様………」
「エミリオ。エミリオって呼んで。結婚するんだから君もグーパーになる」
おぅ、何故か結婚することになっている。
え、待って、いや、嬉しい………けど! なんで結婚?!
「いえ、あの、グーパー様は私のことを知っていらっしゃったんでしょうか? 」
「知っているかだと? ………ふむ、名前はリリアージュ・ランダ、ランダ子爵家の次女。年齢は俺より二つ下の十九才、血液型はO型。好きな食べ物は甘いもの、特にチョコケーキを好む。嫌いな食べ物はりんご、あの食べるとシャクシャクなる音が苦手。仕事は王宮書庫の司書。趣味は読書と乗馬。それから………」
「あ!大丈夫です! 知っていたことがわかりました! 」
な、なんでそんな情報知っているの?
りんごのシャクシャクが苦手って家族ぐらいしか知らないよ!
「では、これから手続きに行こう」
「え?! あ、あの、結婚って、さすがに子爵家の者と公爵家のグーパー様の婚姻は難しいかと。それにそんなことをされたらグーパー様が公爵様に叱られてしまいます! 」
「ふむ、俺のことを心配してくれるのか………優しいな。しかし問題ない。俺は次男だし、家を継ぐことはない。生活のことは心配しなくても君のことも、生まれてくる子供のことも養える。子供は五人ぐらいでどうだろう? 君に似た子供なら何人いても良いんだが………」
え?
本当に待って!
なんでもう子供の話とか出ているの?!
え? 私何か壮大なドッキリに巻き込まれているの?!
「おい、エミリオ。お前こんなところで何をしているんだ? 」
誰かがグーパー様に声をかけてきた。
あれって………ルート殿下?!
「殿下………今人生の岐路に立たされているので邪魔しないでもらえますか? 」
ま、待って!
ルート殿下にそんなことを言わないでーーー!
「何言ってるんだ、お前………って、そこにいるのはもしかしてリリアージュ嬢か?! おい、ついにやったのか?! いや〜、長かったな〜」
「殿下、リリの名前を呼ばないで下さい」
グーパー様は何故私の愛称を呼んでいるのでしょうか?
「っち、相変わらずリリアー………じゃなくて、ランダ嬢の事については心が狭い」
ルート殿下だけでもいっぱいいっぱいなのに、そこへまた違う人の声がする。
「殿下………とグーパー様………それから、え?! もしかしてリリアージュ様ではないですか?! 」
現れたのはルート殿下の婚約者であるレティシア・ヒート様だ。
レティシア様とは学園に通っていた時同じクラスだった。
レティシア様は公爵家の御令嬢だが、子爵家の私にも優しく、時々自身の主催されるお茶会にも招待してくれていた。
「お、お久しぶりでございます、レティシア様」
「ええ、本当に久しぶりね。ところでここにグーパー様といるということはついにグーパー様の念願が叶ったのかしら?! 」
「余計なことは言わないで下さい、ヒート様」
そして、グーパー様はそんなレティシア様にも塩対応。
大丈夫? 本当に大丈夫?
「もう、相変わらずグーパー様はリリアージュ様以外には雑な扱いをするわね。ところでそんなリリアージュ様がさっきから困った顔をしているわよ。あなたのことだから何か暴走しているのではないかしら? 」
はい、もう何が起こっているのかわかりません。
本当なら告白して、振ってもらい、これを機にお見合いでもしようと思っていたのですが。
いつの間にかグーパー様が私の手を握っている………というか気付かなかった私も相当動揺しているんだろうけど、まさかの恋人繋ぎなんですが!
なんで? どうして? ダメだ全然頭が働かない。
「おい、エミリオ、お前何さらっと手を繋いでいるんだ? ランダ嬢が慌てているぞ」
「何言ってるんですか、殿下。結婚する二人なんだから手ぐらい繋ぎますよ」
グーパー様がルート殿下がおかしいことを言ったみたいな感じで言い返しているけど、おかしいことを言っているのが自分だと気付いてもらえませんかね?
「え? 結婚? いや、だってお前昨日までそんな素振り見せなかっただろう? 」
「そりゃそうですよ、たった今リリから告白されて神殿に結婚の手続きに行くところなんですから」
グーパー様の言葉にルート殿下とレティシア様が固まった。
そして私のことを見てくる。
私はどうして良いのか分からず、たぶん涙目だ。
「あーーーー、あれだ、エミリオ、お前落ち着け。このままだと確実に拗れる」
「殿下、既に拗れていますわ。一先ず説明しないと………殿下、グーパー様を頼みます。私がリリアージュ様にいろいろ説明しますから」
「ああ、レティシアわかった。と言うわけでエミリオ、連行! 」
ルート殿下がそう言うと、近くにいた殿下の護衛が五人ほど集まりグーパー様を取り囲む。
「な、何をするんですか殿下! 今からリリと出かけるところなんですよ! おい、お前達離せ! どこへ連れて行くつもりだ! リリ! リリ! 」
グーパー様が私の名前を連呼しながら連れ去られた。
何でしょう、この怒涛の展開は。
私がその場で呆けていると、レティシア様が近付いて来た。
「リリアージュ様、大丈夫ですか? お気を確かに! 今からちょっと説明しますので場所を移動しますね。王城内に私の部屋があるのでそこでお茶でも飲んで気を落ち着けてお話ししましょう? 」
ふうーーー。
私は用意してもらった紅茶を飲んで、ようやく少し冷静になってきた。
そして、冷静になった結果、今の状態が正常ではないということが理解出来てきた。
………もう、やだ!
何で卒業以来交流の無かった未来の王妃様の部屋にいるの?!
紅茶飲んで落ち着いている場合じゃないよ〜。
「大丈夫? リリアージュ様? 」
目の前にいらっしゃるレティシア様が心配そうに話しかけて下さった。
「あ、はい。だ、大丈夫………だと思います」
「うん、大丈夫じゃないわね。とりあえず確認なんだけど、リリアージュ様はグーパー様のことをお慕いしているということで良いのよね? 」
「あ、あ、あの、私ごときがお慕いしているなんて、本当に申し訳ございません! あの、私、すぐに帰りますので! それで、領地に帰ってお見合いしますから! 」
私の言葉にレティシア様は焦り出した。
「え? ちょ、ちょっと待って! 落ち着いてちょうだい! グーパー様のこと好きなのよね? それで何でお見合いするって話になっちゃうの? 本当に落ち着いて、このままあなたが領地に帰ってお見合いなんてした日には魔王が爆誕するわ! 」
「え? 魔王ですか? 」
「ええ、そうよ。だから冷静になってちょうだい。えーっと何から話せば良いのかしら? まず、私と殿下とグーパー様が幼少の頃から付き合いがあることは知っていたかしら? 」
「はい、学園にいる時からお噂では聞いていました」
「そう………あのね、グーパー様は昔から本当に女性に対して冷たいの。私は辛うじて殿下の婚約者であり、昔からの付き合いだからなんとか話せているけど。だからね、そもそもグーパー様が自分から話しかける女性っていないのよ」
「確かにグーパー様は女性に冷たいかもしれませんが………でも本当は優しい方です。私も学園にいる時は何度も助けられました」
「そこよ! あの人が女性を助けるなんてあり得ないのよ! 自分の目の前で転んでも、落し物を落としても、重い物を持っていても、絶対に自分から助けないし、助けを求められても無視か、拒否のどちらかよ。それを優しいだなんて、現場を見ていなければ絶対に信じない話だったわ! 」
レティシア様が力説されている。
「あ、あの、でも、本当にグーパー様には助けていただきました。確かに噂では女性に冷たいと聞いてましたが、やはり優しい方だと思います」
「あ、うん、それリリアージュ様だけにだから」
うん?
「あのね、本当は本人から言えば良いのはわかっているのだけれど、その本人が説明しないですぐに神殿行って結婚するって言い張っているから、これ以上面倒なことになる前に私から説明するわね。………あと、再度確認するけどリリアージュ様はグーパー様のこと好きですよね? 何があっても好きですよね? 」
「え?あ、は、はい………」
「信じてますわよ、リリアージュ様。では、まず、グーパー様がリリアージュ様のことを知ったのは学園に入る前です。あ、いろいろ聞きたいとは思いますが質問は最後にお願いします。私と殿下も一緒にいたのだけど、初めて人が恋に落ちる現場を見たわ。それがグーパー様だから余計にびっくりしたのよ。それで、学園に入ってリリアージュ様の名前も知って、グーパー様はますますあなたに惹かれて………あの人、卒業パーティーの時にあなたにプロポーズするつもりだったのよ。だけどその前に事件が………そう、あなたが同じクラスの子爵家の方に告白されていた現場をグーパー様が見てしまったの! あの日は大変だったわ。本当に………あなたがすぐに断ってくれていたからあの子爵家の方無事だったけど、そうじゃなかったら………うん、良かったわ」
レティシア様がお茶を一口、そしてまた話し始める。
「で、ここからが問題なんだけど………あのね、本当に引かないでね。………ふう、グーパー様、あなたに関することで何でもはじめの一人になりたいの。だからあなたが初めて告白されているのを見て絶望していたわ………もうあなたに告白する初めての人になれないって。で、そこからあの方おかしい方へ考えが行ってしまったのよ。告白してもらう方ではじめの人になればいいって。あなたのことが好きなのにずっとあなたに告白されるのを待っていたの。まあ、ただ待っているだけじゃなくてイロイロやっていたようだけどね。と言うわけでリリアージュ様に告白されて暴走してしまったのよ。………いや、本当に嫌わないであげて! あなたに嫌われたらあの方………きっと私と殿下に八つ当たりしてくるわ! 気持ち悪いのはわかるわ、でもね、リリアージュ様のことを好きなのは本当だから! 」
レティシア様がものすごい勢いで言い切った。
それを聞いた私は………なんだろう、すごく複雑な気分だ。
グーパー様が私のことを好ましく思ってくれていたことは嬉しい、だけど………告白を待っていたことがどうしても何かモヤモヤする。
たぶんこれは、告白してほしかったという微妙な乙女心………とは言え、実際に告白されたら身分の差を考えてしまい非常に悩んでいたはず。
スッパリ振られて前を向こう! という私の願いは叶わない?
アレ? もしかして告白しなかった方が良かったのかな?
「………告白しない方が良かったですかね? 」
「いやーーーーーーー!! やっぱりあんな変態嫌よね?! で、でも、アレで実家は公爵家だし、殿下の側近だし、それに顔もイイわよ! ちょっとリリアージュ様に執着しているけど、逆にリリアージュ様以外の女性は芋やかぼちゃとでも思っているわ! だ、だからお願い! アレを見捨てないでちょうだい!! 」
レティシア様が私を拝んでくる。
何で次期王妃様に拝まれているんだろう?
ああ、きっとこれは全部夢だ。
ドドドドドドーーーーー!!
遠くから何かがやって来る音がする。
バターーーン!!
「リリーーーーーーーーー!! 」
部屋の扉が開いたと思ったらグーパー様が飛び込んで来た。
その後すぐに息を切らせた殿下が続く。
「すまん、抑えきれなかった」
申し訳なさそうに殿下が謝ってきた。
グーパー様は座っている私のところへやって来て、その場で膝をつき私の手を握った。
「リリ! 俺と結婚してくれるよな? 告白しなかった方が良かっただなんて言わないでくれ! 俺、仕事も頑張るし、リリのこと大切にする! あ、あと、あーーーーー何をアピールすればリリは俺と結婚してくれる? 俺、リリが望むなら何でも出来るよ」
「あー、すまん。部屋でレティシアとランダ嬢の話を魔道具で聞かせていたんだ。告白しなければ良かったの言葉にエミリオが暴走した」
普段顔色を変えないグーパー様が、今は悲壮な表情をしている。
私はなんて言うのが良いのだろう?
「私は、グーパー様をお慕いしておりますが正直結婚となると………。私は告白してスッパリ振られて領地に戻るつもりでしたので、突然結婚と言われても難しいと思います」
私は今の自分の考えを言ってしまった。
告白しておいて何様だと思うけど、やっぱり結婚は身分的にも無理だよ。
ここは良い思い出としてそっと胸に秘めておくのが良いのではないだろうか。
と、私は勝手に自己完結してしまっていたのだが、目の前のグーパー様が今にも泣きそうな顔をしているではないか!
「そ、そんなこと言わないでくれ。俺、リリと住む家も用意しているし、両親にもリリと結婚するって言ってあるんだ。それからリリの両親にもリリと将来必ず結婚するから安心してほしいと言ってある。身分の問題なんて些細な問題だよ。うちの親戚の養子に入ってから結婚すれば大丈夫だし、俺は別にそのまま子爵家から嫁に来てもらって大丈夫だ。ただ、リリが居てくれれば良いんだよ。俺、リリがいなくなったら生きていけない」
イロイロ埋められている。
この人はどうしてここまでするのに肝心の一言をくれないのだろう?
「………どうして、ここまでしてくれるのに私が欲しい言葉はくれないのでしょうか? そんなに言いたくないのでしょうか? 」
「え、リリ? 」
「私は………ただ『好き』という言葉が欲しかっただけなのに。私が告白されてしまったから、もうグーパー様は私にその言葉をくれないのですね? 」
「い、いや、それは………」
グーパー様が困った顔をしている。
そんなに言いたくないのか。
その時レティシア様がボソッと呟いた。
「くだらないプライドで自分の好きな人に捨てられるなんてバカな人」
その言葉にグーパー様が激しく動揺した。
レティシア様の言葉を聞き、私の表情を見て焦っている。
「リリ! いや、リリアージュ嬢! 俺はずっと前から君のことが…………君のことが好きだ! 大好きだ! 愛している! 何よりも大切なんだ。………そうだよ、ずっと言いたかったんだ。君のことを見るたびに、思っていた。早く好きだと、愛していると伝えたいって。なんで俺は変なことにこだわっていたんだ。君のことを見ているだけで幸せだったんだ………だけど直接接したらもっと多く望んでしまっていた。もっと見たい、もっと話したい、もっと会いたい、君の一番になりたいって。なのに君に一番目に告白するっていう立場を取られて、俺は目が曇ってしまった。君のことが好きなら初めからそう伝えれば良かったんだ。ごめん、俺、バカだ」
一気に気持ちを教えてくれたグーパー様は私の手を両手で握り、その手におでこをくっつけている。
「ありがとうございます。ようやくグーパー様の気持ちが聞けて嬉しいです」
「リリ! じゃあ、神殿に………」
「神殿には行きませんよ」
「な、何故? 」
「いくら好きでもいきなり結婚は難しいです。それに、せっかくなら恋人として過ごしてみたいです」
「! リリ! なんて可愛いことを言うんだ?! そ、そうだな、俺たちは両想いだから恋人だよな? ああ、これからは一緒に過ごそう! 」
喜んでいるグーパー様の後ろでレティシア様が私を拝んでいる。
いえ、良いんです、こちらこそすみません。
それからの私たちは今までの期間を埋めるようにデートをしている。
正直グーパー様のご両親がどう思っているかかなり心配だったけど、初めてあった時頭を下げられた。
こんな重い息子ですまない、どうかこれを末永くよろしく頼むと。
ホッとしたような、これで本当に良いのか悩みどころだった。
「リリ、今日は神殿に行くか? 」
「今日も行きませんよ」
「そうか………そうだな、もう少しだな」
なんだかんだで毎日聞いてくるグーパー様。
もうちょっとだけ恋人気分を味わいたいです。