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【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね  作者: 祈璃


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 ◇◆◇◆◇



 レースがあしらわれた純白のウェディングドレスに、それをいっそう華やかに飾り立てる生花。淡い色のバラは美しく、愛らしく、それでいて上品だった。

 サンドラの唇からほうと感嘆の息が漏れる。


「なんて美しいのかしら……」

「そんなの知ってるわよ。いいから、早く髪のセットを済ませてちょうだい」

「あ、すみません」


 言って、サンドラはそそくさと櫛を手に持ち、鏡台の前に座るマチルダの紫色の髪をとかしはじめた。といっても、普段から念入りに手入れされているマチルダの髪はすでにさらさらだ。

 サンドラは大小の髪留めでマチルダの髪を留め分け、それを器用に編み込んでいく。


「悪いわね。髪のセットはどうしてもあんたに頼みたくて」

「お安いご用ですよ」


 サンドラは鼻歌まじりにマチルダの髪のセットを続けた。本当は自分ではなくちゃんとしたプロの手を借りた方が良いのではないかとも思うが、マチルダが自分を頼ってくれたことは純粋にうれしかった。


 今日は晴れの日。

 王城でマチルダと第三王子ダニエルの結婚式がこれから行われる。

 この結婚式に、サンドラもマチルダの友人として招かれた。あくまで参列者としてであり、髪のセットはそのおまけのようなものだ。しかし、マチルダに『あんた以外だと髪型がしっくりこないのよね』と言われれば、彼女のことが大好きなサンドラは張り切ってしまう。


 学院で出会ってから約三年。

 いまだにサンドラとマチルダの交流は続いている。卒業後、なにかにつけてマチルダがサンドラを自身の屋敷に招いてくれたのだ。

 その理由は、『美味しいお菓子をもらったけどひとりじゃ味気ないから』や『退屈だから』といった素直じゃないものばかりだったが、マチルダが彼女なりにサンドラを好いてくれていることは、この三年の交流でサンドラにもわかっていた。


「ここをピンで留めて……この辺りにお花を着けて…………これでどうですか?」


 サンドラは手を離し、向かいの鏡の中のマチルダを覗き込む。

 マチルダは首を左右に動かし、様々な角度から自分の髪型を確認すると、鏡越しにサンドラと目を合わせてニッと笑った。


「さすがね。完璧」

「ありがとうございます!」


 サンドラはほくほくとした表情で微笑む。

 なんだかんだで、憧れのマチルダに喜んでもらえることが一番うれしいかもしれない。身だしなみのことに関しては、マチルダがサンドラの師だ。師に褒められて喜ばない教え子はいないだろう。


「ドレス、ダニエル殿下にはもうお見せになったんですか?」

「まだよ。こういうのは本番までのお楽しみにしときたいじゃない」

「ですね。とても綺麗なので、きっとお喜びになられますよ。もちろん、マチルダ様はいつもお美しいですけどね」

「ありがと」


 少し照れくさそうに笑い、マチルダはサンドラを振り返る。


「……あんたはどうなの?」

「私?」

「そう。あの従兄弟との結婚はいつなの?」

「い、いつと言われましても……まだ結婚するかもわかりませんし……」

「まだそんなこと言ってるの? ほんと往生際が悪いわね……もう貴族学院を卒業して二年以上も経つんだから、いい加減腹括りなさいよ。あんなにあんたのこと大切にしてくれる人なんて、他にいないでしょ」


 窘めるようなマチルダの言葉に、サンドラは俯いてもじもじとする。


「それはそうなんですが、なかなか踏ん切りがつかないというか……」

「あんたがそうやって躊躇してるうちに、社交界では変な噂が流れてんのよ。あんたがまだエイデンに気があるんじゃないかとか、あんたとエイデンが復縁するんじゃないかとか」

「えっ!?」


 寝耳に水の話に、サンドラは目を丸くする。

 エイデンがまだ結婚どころか新しい婚約者を見つけてすらいないことは、サンドラも風の噂で知っていた。

 それは別に、サンドラとの婚約解消の件でエイデンの株が落ちたから……というわけでもないのだろう。ひとつの悪評が本人の口から流れても、『それでもエイデンと結婚したい』という令嬢たちは何人もいた。


 婚約を解消したサンドラがいうのもなんだが、確かにエイデンはサンドラ以外には魅力的な男だと思う。

 そんなエイデンが、いまだ新しい婚約者すら見つけていない理由はサンドラにもわからない。けれども、なんとなくエイデンはサンドラが誰かと婚約……または結婚するまで、誰とも婚約する気はないのではないかと思えた。


(……でも、まさか私の知らないところでそんな変な噂が流れてるなんて……)


 サンドラは苦笑する。

 エイデンと復縁なんて、いまさらありえない。学院を卒業してから顔も見ていないし、彼との思い出を振り返って胸に湧き上がるのは途方もない懐かしさだけで、愛おしさや恋しさはない。


「──ま、そんなこと言ってるのは一部の噂好きの令嬢だけだけどね」

「……マチルダ様、なら紛らわしいことを言わないでください」

「あら、そんな噂話をしてる人間が数人いるのは事実よ。でも大半の連中は、あんたとユーリスがいつ結婚するのかって盛り上がってるわね」

「そんなことで盛り上がられても……」


 サンドラが拗ねたように唇を尖らせると、マチルダは愉快そうにケラケラと笑った。

 そこで、控え室のドアがこんこんとノックされる音が響く。


「もうすぐお時間ですが、準備は終わりましたでしょうか?」

「ええ。……サンドラ、今日はありがとね。後はこっちで準備するから、あんたは参列席の方に」

「はい」


 頷いたサンドラはドレスの裾を軽く持ちあげて、控室を後にしようとする。

 しかし、「サンドラ」とマチルダに呼び止められ、再び足を止めた。

 不思議そうな顔をして振り返ったサンドラの耳元で、マチルダが柔らかな声で囁く。


「サンドラ、さっきは急かすようなこと言ったけど、あんたはあんたの好きに生きなさい。あんたはもう『真面目だけが取り柄の、地味で従順な女』なんかじゃないんだから」

「……はい!」

「じゃあ、また後でね」


 サンドラはマチルダとそう囁きあった後、今度こそ本当に控室を後にした。

 控室の扉が閉まる直前、振り返ったサンドラはもう一度マチルダの花嫁姿を目に映す。

 ベールを被って目を伏せたマチルダは、今までサンドラが見た花嫁の中で一番綺麗で華やかだった。

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