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私にかまわないでください  作者: 雨夜澪良
零章 旅人との出会い
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崩壊

「アランっ!!」


 アランの元へと行き、胸ぐらを掴み、締め上げる。


「なぜ、私の邪魔をしたっ!! お前は、私の邪魔をするつもりはないんじゃなかったのかっ!!」


 ユースティアは激昂のあまり、アランに詰め寄った。しかし見上げると、アランは自分とは対照的に無表情、冷淡な目つきで見下ろしていた。


「別に、何をしようが勝手だろ? 俺は任務を遂行しただけだ」


「違う。そうじゃない。私は男を殺したことを言っているんじゃないっ!! あと少しで彼女を殺せそうだったのにどうしてっ!!」


 どうして止めたのだ、とユースティアの喉元から出ることはなかった。まるで周りの空気が一瞬でなくなったような感覚に陥る。


「あっ、あっ」


 息ができない。呼吸が上手くできない。


 ユースティアは膝から崩れ落ち、自分の首を押さえた。それでも!! とユースティアは負けじと下からアランをにらみつける。


「やっぱりお嬢さんは強いよ。でもね、君は一度も人を殺したことないだろう?」


 降参と言わんばかりにアランはため息をつき、両腕を上げた。しかし、ユースティアは息を整えるのに必死で見えていなかった。


「はあ、はあ、はあ」


 ユースティアは荒れた息を懸命に整えようと酸素を必死に取り込む。それでも本調子には戻らなかった。


「――それがなんだ。私に人を殺せないとでも?」


 キッとアランをにらみつける。それでもアランにひるんだ様子はない。


「いいや、お嬢さんなら殺せるさ。でも、傷つかないわけじゃない」


 ユースティアの頭をなでようと手を伸ばすがユースティア自身によって払われる。


「もう、傷ついてるっ!! ならあと少し傷が付いたところで変わらないっ!!」


「……彼女が死んだことは分かっているんだろう? 今の彼女を殺したところで君は救われないし、何の価値もない。ゴミにすらなりはしない。――殺すなら彼女本人だろ?」


 ユースティアの目が大きく見開かれる。目の前の人物は何を、何を言っているのだろうか。理解できない。言っていることが矛盾している。本当に言っているとしても、死者はよみがえらない。


「確かにあの娘は死んだ。だが、乗っ取られ自我をなくした魂はまだここにある」


 アランの手にあるのは先ほど爆発させたはずの古代の魔導具とそっくりの魔導具。ユースティアから見たら何が何だか分からないただの魔導具であった。


「ああ、これ? これはね、さっきのとは違うよ。あの娘が作った古代の魔導具に似せた模造品」


「模造品……」


「そうそう。この中にお嬢さんが殺したい娘の魂が入ってる。お嬢さんも目をこらせば分かると思うよ。これあげるよ。俺はいらないし」


 ポイッとゴミを捨てるように模造品を投げる。それをユースティアはあわてて手に取った。


「本当に?」


「本当だよ? 俺は嘘をついたことないんだよね~」


 確かに邪魔はされていない、のか? この際そんなことはさじなのかもしれない。だって、今彼女を殺せるのだから。


「やめて、やめて、殺さないで。お願い!! 私のことは殺してもいいから!!」


 彼女の皮を被った女はいつの間にか私の元にきていた。そして攻撃を加えるわけもなくユースティアの服の裾を掴み、泣き崩れていた。


「放せ。お前も、彼女を殺した後に殺してやる」


 ユースティアはもう力が入らない膝を奮い立たせ立ち上げる。そして感情のない赤い瞳に化け物を一瞬映し、模造品を見上げる。


「やめてっ!! 彼女は苦しんでた。壊れそうだった。だから私が彼女に言ったの。あなたをいじめるのはあなたの特権だって。だから、あなたは正しいと私が彼女を正当化させたの。だから、彼女を悪くないの!!」


「嘘つき。あなたはさっきから嘘ばっかり」


「何を、根拠に言っているの?」


 化け物が動揺し、挙動不審になる。しかしユースティアは彼女に視線を向けない。それは向ける価値もないと言っているのと同じだった。化け物の額に筋が浮かぶ。


「彼女はそんなことを思うような人じゃなかった。彼女は自分が一番じゃないと嫌な人だった。だからあなたが生前作った魔導具で考えなしに能力を増やした。その結果が、あなたという化け物に乗っ取られたってだけ。彼女は世間一般的に嫌われるタイプだった」


「どうして私がこの魔導具を作ったって知って、いるの?」


 化け物の瞳が見開かれる。そして声は震えていた。化け物自身にもなぜか分からなかった。


「さあ、どうしてだろうな?」


 ユースティアは無表情のまま、首をかしげた。その様に、化け物の体が戦慄く。これは恐怖? 目の前にいるのは銀髪の少女。自分からしたらまだまだ幼い少女。それなのに顔からどんどん血の気が引いていく。顔面が蒼白になっていく。


「どうしてあなたのような存在がここにいるのっ!! 私の邪魔をしないでよっ!!」


 自分を抱きしめるように震え上がる化け物。


「すべて自分の好奇心を満たすため。そのためならば嘘をいとわない。そんなのは勝手によそでやればいい。だが、私は私の邪魔をする者、全てを排除する」


 模造品を空中に投げ、片方の手で腕を支え、もう片方の腕を掲げる。そして先ほど化け物にやろうと思った魔法を模造品に向けて打ち上げる。


「やめっ!!」


「さようなら。次は会うことがないように」


「貴様っ!!」


 化け物は自分の実験材料を壊されたことによる怒りでユースティアに飛びかかってきた。


「お前も、すぐに地獄へ送ってやる」


 我を忘れて怒りに支配された人ほど動きが分かりやすい人はいない。ユースティアは化け物の動きを躱し、アランの元へと誘導する。そして――――。


「がはっ」


 化け物の顔が驚愕の顔に変わった。心臓から血しぶきを上げ、前に倒れようとする化け物をユースティアは最小限の動きで躱す。


「もうお嬢さん、刀を使うならそう言ってくれればいいのに。絶対今の仕返しでしょ?」


 アランはユースティアから刀を受け取り、鞘へと戻す。


「……そうだな。あとは村人を殺すだけだ」


「そんなヘロヘロで大丈夫なの?」


 アランはあっけらかんとした顔でユースティアを心配する。でも、心配された当の本人は耳を貸さない。


 魔法を発動させる。


 やっと、これで全てが終わるのだ。この場で生き残るのはきっとアランだけだ。


「さようなら、アラン様」


「お嬢さんは意地でもアルって呼んでくれないんだね。アランって呼び捨てはしてくれたけど。――そう呼ばれて見たかったのに」


「はは、アルらしい最後だな。一緒にいて楽しかったぞ」


 アランの青い瞳が大きく見開かれる。ユースティアが心からの笑みで、年相応の笑みで微笑んだからだ。


 魔法が完全に発動し、ユースティアのパーティー会場が端から崩壊する。そして村人がその割れ目からどんどん落ちていく。


 ああ、そういうことかとアランは納得する。このパーティー会場が最後だったのだ。もうすでにパーティーが始まった時点でそれ以外の村は消え去っていたのだ。そして村人は自分の死が分からないまま死ぬ。


「お嬢さんはきっと……。擬似体験はお嬢さん自身がやられた全てをやり返すのではなく、あくまで村人自身がしたことのみを体験させるものだったんだね」


 一番分かりやすいのは村長だ。村長は今どこか安心感に満ちた顔をしている。おそらく罪悪感が緩和されたのだ。


「お嬢さんをこのまま死なせたくなくなったや。お嬢さんは死ぬ気だろうけど、あんな笑顔を見せられたんじゃあね。最後に愛称で呼ぶのもずるいし。俺、好きになっちゃうよ。お嬢さんはこういうの嫌いなんだろうけど」


 もう、崩壊が終わる。アランは手を伸ばし、ユースティアの腕をつかむ。己の腕の中で意識のない少女。でもまだ息はある。


「ごめんな、お嬢さん。俺のわがままに付き合ってくれ」


 この日、二人を残して一つの村が地図から消え去った。

【念のため補足】


 村の娘は怪しい男に古代の魔導具をもらいました。

 ですが、村人にチヤホヤされていた彼女は怪しい人物だと思っておらず、貢物という認識でした。


 そして、彼女がその魔導具で最初に発現した能力が『魔導具師』です。


 しかし、強力な能力であったため、徐々に自我を乗っ取られていきました。


 『魔導具師』の能力の人格になると、『魔導具師』は彼女の魂を実験に使おうと画策し、古代の魔導具に似せた魔導具を作り、彼女の魂をそこに移し替えました。


 その後、ユースティアの強さに目をつけていた『魔導具師』は、執着男を利用し、ユースティアを弱らせようと企みます。


 ですが、その企みもアランが来たことでできなくなってしまいます。そこで考えたのがアランに執着男をぶつけることです。その間にユースティアを手に入れ逃げようと企みます。


 執着男とアランの実力差を把握していた『魔導具師』は執着男に古代の魔導具の情報を全て教えず、暴走させることで短時間でも差を埋められると考えましたが、アランが『魔導具師』が思うより強くやられてしまいましたとさ。ちゃんちゃん。

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