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私にかまわないでください  作者: 雨夜澪良
零章 旅人との出会い
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彼女は誰?

「どうしてあなたは牢屋から出てきたの?」


「私には何の罪もない。なら私が牢屋から出るのは当然だろう?」


 彼女の表情は俯いて分からなかった。でも前みたいに私に対しての激情は感じられなかった。ただ淡々と確認するように問う。


「なら今、あなたが起こしていることは何かしら?」


「……」


 なんて言えばいいのか分からない。今私がしている行為は確かに罪だという自覚はある。だからそう言われると言い返せない。


 でも、彼女に言われる筋合いはないのだ。今、話している彼女は私が親友だと思っていた彼女ではないのだから。彼女の皮を被った別の何かなのだから。


「――お前は誰だ? お前は私が親友だと思っていた彼女ではない。……彼女を殺したのか?」


「人聞きの悪いこと言わないで欲しいわ。私は彼女にもらっただけ。彼女は自分の醜さに苦しんでいた。罪悪感で潰されそうになっていた。そして心が壊れる寸前だった。だから感謝こそされても殺人者扱いされる言われはないわ」


 彼女の皮を被った何かはうふふと無邪気に笑う。自分が何をしたか分かっていない。彼女は本気で自分がしたことが悪いことをしたなんてみじんも思っていないのだ。


「……彼女を返せ」


「よく聞こえなかったわ。もう一度言ってくれるかしら?」


「彼女を返せ!!」


 私は自分の手で彼女を惨たらしく殺すつもりだった。


 でも、私の中でふつふつと燃え上がるこの感情は本当に怒り?


 ――彼女を自分の手で殺せなかったことへの?


 ――そうだ。私の手で殺したかった。


 ――彼女が冒涜されたことへの?


 ――否。彼女が逃げたことへの怒り。自分が引き起こしたことへの責任を放棄したから。


 ――本当にそう思う?


 ――本当は……


 自分への嫌悪と怒りだ。彼女を分かってあげられなかった。分かってあげられていたらこんな結末は迎えなかっただろう。私は、最後まで理想を夢見ていたかった。彼女はまだ生きていて今までのことは嘘だったと。人は美しく尊いのだと信じたかった。そうであって欲しかった。人は自分が悪いことをしたら素直に罪を認め、謝れると思っていた。


 だけどそれは傲慢だった。自分のことしか考えていなかったといわれてもしょうがないことだったのかもしれない。今でもきっとそれは変わらないし、変えられない。でも理想を夢見るのは今日で本当にお終い。彼女にはけじめをつけてもらう。


「彼女はもう死んだの。だから返せと言われても困るわ?」


「なら、お前の墓場はここだ」


 私には剣なんていう上等な武器は持っていない。彼女には魔法の効果が薄かった。頼れるものは自分の肉体のみ。


 拳をたたき込む。そして回し蹴りを放つ。


 彼女は魔法を持って受け止めようとするけれど私の今もなお続く能力のせいで完全には防げない。壁の方へと吹き飛ばされる。


 今も魔力を回収し続けている。体が燃えるように熱い。どんどん命が消費され続けているのが分かる。もう、長くはない。だから、短期決戦で全てを終わらせる。


「ごほっ」


 手で口を押さえる。手には真っ赤な鮮血。もう、体も崩壊してきた。


 壁の方へと走る。早く、彼女を自分の手で殺さなければ。早く、村をなくさなければ。


「!!」


 見張られる彼女の瞳。私は寸でのところで手を緩め、顔面をはたいた。そしてもう片方の手で首をつかんだ。


「苦っし……」


 彼女の顔が歪む。そして抵抗するように私の手を引っ掻いた。


「終わりだ。私はあなたという存在を今ここで殺すっ!!」


 近距離での最大火力、一点集中の魔法の攻撃。これは彼女であっても躱せない。


 彼女の胸部が貫かれ、心臓が塵も残さず消滅するはずの攻撃。しかし、何かに守られているように効かない。これは……、アラン様の仕業かっ!!






「あはは、これで僕もさらに強くなれる。お前なんかに負けはしない」


「……」


 男が取り出した例の品を見てアランの目が静かに見開かれる。


 アランは王様に例の品がどういう形状の物かとそれが古代の魔導具であるとしか聞いていない。しかし、あの娘と話したことであれがなんなのかをなんとなく察した。だからこそ、男が何を得るのか予測がつかない。万全を期する必要がある。


能力発動『守護神』


 この能力は名前の通り主を守護する。そして主が守護したいものを守護するものだ。言わば最強の盾とも言える能力である。


 アランは今この場にいる全員を守る対象に選んだ。


「これじゃない!! こんな能力役に立たない。もっと能力をよこせ。能力をよこせえぇぇぇ!!」


 これは、……まずいかも知れない。――あの魔導具を斬る!!


 アランは剣を鞘に納めた。そして踏み込み、構える。


 アランは目を見開き、地面を蹴った瞬間抜刀する。そして男の手にある魔導具を真っ二つに男の腕ごと切り伏せる。


「あぁぁぁぁ、痛い、痛い、痛いっ!! 僕の腕があぁぁぁ!! 能力で回復を!!」


 男は切り離せれた腕をつかむとそのまま能力でくっつけた。


「斬られる前に得たこの能力で僕は、僕は」


 男の声が二重に部屋に響き渡る。まるで二人が同時に同じことを話しているように。


「遅かったか……」


「なんだ、降参か!! 降参してもお前は殺すけどねえ!!」


 男が能力で両方の手に火の球を発現させ、アランに向かって撃ちまくる。それをアランは刀でねじ伏せ、男の方へとゆっくりと歩みを進める。


「降参? するわけないじゃん。だって君はすでに負けている」


「何を言っている?! 今、押されているのはお前だ!! 僕は強い、強いんだっ!!」


 男は激高し、怒りのままにあらゆる能力を発動させる。しかし、アランにはどれも意味がない。アランの歩みは止まらない。


「なぜ人は能力を最大三つまでしか持てないと思う?」


「そんなの知るかっ!! なぜだ、なぜ、効かないっ!! お前さえいなければ、お前さえここに来なければっ!!」


「それ以上持つと、器が耐えられないからさ。耐えられなくなった器は次第に自我をなくし、能力に完全に乗っ取られる。つまり別人になると言うことさ」


「そんなはずはないっ!! だったらあの女はどうして耐えられたっ!!」


「耐えられていないさ。すでに乗っ取られているじゃないか。能力はおそらく『魔導具師』といったところかな」


「嘘だ。現に僕も耐えられているではないか!!」


 首をかしげ、なお近づいてくるアランに怖じ気づき、男は後ろに後ずさる。


「気づいてないの? 君は乗っ取られるどころか崩壊が始まっている。特に今顕著に表れているのは声だね。二重になっている。――あの娘よりも君の器は格下だったというわけだ」


「やめっ」


「やめるも何も、もうすでに斬っちゃったけど? 俺ってば、やさしいなあ」


「へっ?」


 男の間抜けの声が上がる。男の視線の先、アランの手にはいつの間にか男の心臓が握られていた。そして魔法が発動し、男の心臓が爆発したと同時に男の体は真っ二つに割れた。


「ばいばい。変態さん♪」

【補足】


『能力』


 この世界には能力というものがある。そしてその能力は最大3つまで得られる。3つなのはその人の防衛本能が働くため。

 しかし、自分の能力がなんなのかは発動するまで分からない。発動しないで人生を終える人もいる。捉え方としてはその人の才能と思ってくれればほぼほぼOK




『古代の魔導具』


 名前の通り古代の魔導具。今では失われた効果を示すものが多く、その効果は大抵強力。使い方が分かっていない物も多々ある。


 今回使われた魔導具はその人の能力の数を強制的に増やすもの。その人の防衛本能をなくし、無理矢理3つ以上の能力を発現させることも可能。

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