パーティーを始めよう
「あははは、簡単なことだったんだ。迷う必要なんてなかった。待つ必要なんかなかった」
ただ能力を使えば良かっただけ。能力に、捧げればよかっただけ。命を、怒りを、燃料のように。
ただ魔力を奪えば良かっただけ。村人から、自然から、この村にある魔力の全てを奪い尽くせば良かっただけ。
私は人を信じすぎていた。それが最初の間違いであり、今回の一番の過ち。信じられる者なんてこの世にいない。
もし私がそのことに早く気づけていれば何かが変わったのかも知れない。もし私に真実を見分けられる能力が、才能があればこんなことにならなかったのに。――今更考えても意味のないことだけど。
私はこれからのことが楽しみで自然と口角が上がった。
「さあ、私の、私だけが楽しいパーティーを、素敵な思い出を共有しよう?」
私は魔法、そして能力『干渉』を同時に使ってある術を発動させた。
今、私は私がやられたことを村の人々にやり返そうとしている。私の痛み、苦しみ、それらをすべての村人に疑似体験させるのだ。そして全てが終わったら村人ごとこの村を吹き飛ばす。
私は何度も殴られた。何度も罵倒された。そして、何度も腕を斬られた。足も何度も斬られた。刃向かったときや痛みで叫んだときは指を目の前で一本、一本切断された。
でもこの村はエリクサーの生産地。だからすぐに治された。
すぐに治されるといっても痛くないわけじゃない。とても痛かった。最初の頃は、自分の体が切断される生々しい音が耳にずっとこびりついていた。治っても痛みがまだそこに残っているようだった。
でも一番つらかったのはそれじゃなかった。親友だと思っていた子の罵倒と裏切りだった。信じていたものが、私の世界が、色をなくし、崩れていくようだった。私の人生を全否定されたようだった。私は、ただあの子と笑い合えたらそれで良かったのに。それだけで良かったのだ。
「ここはどこだ。どうして俺たちはこんなところに?!」
「おいしそうなケーキだね。お姉ちゃん」
「きれいなところ。まるでお姫様になったみたいだわ」
村人の反応は様々だった。驚く者、ただこのパーティーを楽しんでいる者、これを夢だと思っている者。私を含めた五人の人物以外、この事態を理解していない。五人以外は誰も私に気づいていない。
私のところへ真っ先に来たのは五人の内の一人、村長だった。村長はカタカタと震え、そしていつも私に懺悔するみたいにひざまずき、謝りだした。村長の声で村人が私に気づく。そして村長と私に驚きの表情を向けた。
「どうか、許してください。今までのことは、謝りますから。私の娘にはあなたをはめたことを謝らせますから。どうか、どうかこの通り」
村人たちは村長を、汚物を見るような目で見ていた。牢屋にいたとき、村人たちは私のことを忌々しそうに見ていた。そして見下していた。子供がおもちゃで遊ぶように楽しんでいた人達。そんな私に謝る村長を理解できなかったのだろう。そして今の状況が分からない愚かな人達。その証拠に私に暴言を吐く者が何人かいた。
「おい、お前、何牢屋から出ているんだよ。お前は罪人だ。さっさと牢屋に戻れ、クズがっ!!」
「そうだ、そうだ!!」
「罪人はやっぱり殺すべきだったのよ」
「性悪女!!」
ああ、その方が反っていい。容赦なく、復讐できる。
「何、笑ってるんだ! 気持ち悪い奴!!」
「なんで笑ってるかって? お前達の行動が滑稽だからだ」
今罵倒を上げた人達を見せしめに、擬似体験させようか。
私は罵倒をした人を壁へと吹き飛ばした。そして意識を失ったことをいいことに疑似体験の旅へと送った。
「静かになったな。それで? 村長は自分の娘が私をはめたことを知っていたんだな?」
村長は自分が先ほど墓穴を掘ったことに気づき、口を手で覆い隠す。先ほどより激しく体が揺れている。
「私は優しいからお前は見逃してやろう」
「本当――」
「とでも言うと思ったか?」
その一言で村長は失神し、失禁してしまった。
「皆さん、先ほど私が吹き飛ばした人達を見るといい。これからお前達もああなる」
壁へ吹き飛ばした人たちは、意識がないはずなのに叫び声を上げ、苦悶の表情を浮かべている。そして、腕を力強くつかんだり、耳をふさいだりしていた。
その後の村人達の行動は本当に醜かった。
恐怖でこのパーティー会場から自分以外の人達を押し倒し、我先に出ようとする者、子供を身代わりにさせようとする者など、本当に醜くてしょうがない。
自分の罪と向き合おうとしない者。自分の身だけがかわいく、躊躇なく家族や友人を切り捨て、自分だけ助かろうとする者。――そしていまだに自分が優位に立っていると信じて疑わない者。
男は出迎えるように私の前へ、手を広げて歩いてくる。
「ダメじゃないか、ユースティア。おいたは、ダメってあれほど教えただろう?」
この執着男、半狂乱状態からもう抜け出せたのか。でも今の私ならこいつに負けることはないはずだ。さっさと眠らせる。
「さようなら」
私はその男と村人に向かって魔法を放った。しかし、三人の人物は魔法で眠らなかった。一人目はアラン様。まあアラン様はかからないと思ったしかける気もなかった。残り二人は私をはめたあの子と今、目の前にいる執着男だ。
「なっ、なぜお前は眠らないんだっ!!」
「お前だなんて、誰に向かって言っているんだい、ユースティア?」
「眠れ、眠れ、眠れっ!!」
「そんなことをしても無意味だよ? だって、君も良く知っているじゃないか。僕が君より強いことは」
私は悔しさと怒りで自分の唇をかみしめ、手を血がにじむほどに強く握った。
私はここまでなのだろうか。あのとき、今までの感情を放り捨てて、過去の自分を、自分を救えるのは自分しかいないのに泣いている自分を切り捨てて、死んだように生きれば良かったのだろうか。
全てを諦観して、救いのない人生を歩めば良かったのだろうか。
男の手が私のところまで迫っている。もう、私は――――。
「君があの娘の共犯か。協力しているとは思わなかったけど――――お嬢さん、大丈夫かい?」
アラン様の声で私は目を開けた。開けると、アラン様があの男の腕を掴んでいた。とても強く。このまま力を入れ続けたら腕がちぎれるんじゃないかと思えるほどに。
「どうして私を……、私を助けてくれたの? アラン様はだって……」
見捨てることもできたのに。私が死んでも良かったはずだ。それに、助ける理由がない。
「だって、お嬢さんがまだ死にたくないっていう顔をしていた気がしたから。それに、ヒーローは遅れてやってくるっていうだろう?」
「そんな理由なわけないじゃないか。だってアラン様はそういうことしない人、じゃないか……」
「あはは、バレた? まあ、話は全てが終わった後にね」
「どうしてだい? どうして君はこの男と話しているの? 話していい男は僕だけだよ? この男がいるから君は僕の元に来ないのかな? だったら早く僕の元にこれるように殺さないと……」
男はそう言うと、アラン様に攻撃をしかけてきた。アラン様は私のことを戦闘に巻き込むまいと戦闘の場をどんどん遠くへと移動していった。
そして私は先ほどまで傍観を決め込んでいた彼女と対面することになった。