一時の別れ
「起きろ、起きて」
ユースティアの声でアランは目をこする。
太陽が昇ろうとしていた。普通だったら起きるのには少しばかり早い時間。アランはまだ寝ぼけているのか、ユースティアを再び抱き枕にして目をつぶる。それをユースティアが受け入れるわけもなく……。
「いいから、起きろ。早く戻らないと村人に怪しまれるぞ!」
寝起きが悪いのかアランはなかなか起きなかった。だからユースティアは魔法で水をアランにかぶせた。
「冷たっ!!」
「やっと起きたか」
「水かけることないじゃんか。ああ、お嬢さんまで濡れちゃってるじゃん。風邪ひくよ? まだ朝は冷えるんだからさ」
「早く、戻れ」
アランは魔法で水に濡れた自分とユースティアの体を乾かそうとしたがやめた。上にお湯を魔法で出現させる。ユースティアはアランが魔法を使ったことに気づき、上を見る。
「お前、まさか」
「そのまさかだ」
アランはいたずらを思いついた子供のように、にやりと口角を上げた。
お湯が二人にバシャバシャと降り注ぐ。降り注いだのはどのくらいか。バケツ一個分どころではない。ユースティアたちの周りが水浸しになる。
「あはは、結構汚れてるな、俺たち」
「悪かったな、二年も牢屋に入っていたもので」
「でもスッキリしたろ? あとは風呂にゆっくり入るんだな」
暖かい風が二人を包み、濡れた体を乾燥させる。
「……ありがとう」
「どういたしまして。――俺は戻るから。お嬢さんはあの変態男につかまらないように逃げるんだな」
「ああ、いろいろお世話になったな」
こうして二人は別れた。二人はすぐに会うことになるのだが。
「アラン様、例の物が準備できました」
アランが宿の自室に戻り、刀を磨いていたときだった。村長の娘が部屋のドアをノックしたのは。
「分かった。取りに行く。あなたは先に自分の家に戻っていい」
「あの、私のこと名前で呼んでくれませんか?」
「聞こえなかったか? 俺は戻れと言った。それと、名前を呼ぶことを許した覚えはない」
「ごめんなさい」
ドア越しでも分かる程の不機嫌さ。村長の娘はびくりと肩を揺らし、宿の外に出た。
爪をかみ、今にも地団駄をふみそうな勢いの彼女。かわいい顔が憤激に歪む。
「何よ、何よ、何よ。私がああ言っているのにっ!! どうして私のこと振り向いてくれないの? 私よりきれいな子はもうこの村に私しかいないはずなのに!! ――もしかしてあの子に会った? でもどうやって? だってあの子の元には変態男がいるはずよね?」
いつもなら彼女が一人で歩いているだけで甘い香りに誘われた虫のように寄ってくる村の人たちはいつもと違う様子の彼女を遠目で見ていた。
「もしかして変態男はあの子に手を出していなくてきれいなままなのかしら? それにあの子の存在はあの人に言っていないはず!! 違うわよね。違うわ。きっとまだ私のかわいさに気づいていないだけよ」
彼女は無理矢理自分を納得させた。そしていつものように私かわいいでしょ? とアピールするがごとく堂々と村の中を歩く。
村の人もいつもの彼女に戻ったと安心し、彼女の元へ寄ってくる。それがより彼女の気分を良くした。
アランはそれを窓越しから見ていた。
「お嬢さんはあんな小物にやられたのか。案外かわいいところもあるんだな。――あの娘、無意識に能力を使っているな。俺が能力を使えなくしてやってもいいが。どうすっかな」
アランはただ王子としての役目でこの村に来ていると言えば来ているのだが、ある物を代わりに取りに来ただけだった。気ままに旅をしている最中に王様に頼まれた、つまり仕事の範疇ではなく、この村がどうなろうと知ったことではないのだ。
それに、おそらくお嬢さんは村を滅ばす気だ。あの目、憎悪が宿っていた。話したのは少しだけだが性格的にもおそらく。
「これは様子見かな」
アランは刀を鞘にしまうと能力を発動した。そして一匹の金鳥が姿を現した。
「お嬢さんの様子見、してきてくれないか?」
アランは手を合わせて姿を現した金鳥に懇願した。金鳥は一瞬、嫌そうな顔をする。そして、片方の翼を、指を指すようにアランに向けた。
「お前は私を小間使いと何かと勘違いしていないか? 私がやる義理はないな」
「そこをなんとか頼むよ。この村が滅びるなら滅びるで、王様に報告しないといけないだろ?」
「お前、調子いいな。まあいい、今回は王に免じてやってやろう。王には仮があるからな。――お前は何もするなよ」
念を押すように言うと窓から姿を消し、飛んでいった。