助けてと言ってほしい
「放せ。私に構うな。どうして私に構うのだ。アラン様は私がいようがいまいが関係ないだろ」
ユースティアは精一杯の力で突き放すようにアランの肩を押す。だがアランはびくともしなかった。
大人と子供でも身体強化の強い方が勝つ。ユースティアは素の力は弱くとも身体強化で一般成人男性の身体強化をしたときの力ほどの力で押していた。それなのにびくともしない。
その答えは明白。
この男は普通より強いということだ。
「いいから。大人しくしていろ。今ちゃんと外してやるから」
その言葉を聞き、ユースティアの動きが止まる。止まったのを確認したアランはユースティアにまわしていた手を放した。そして両手でやさしく腕を握る。
「なんだ? 俺がお嬢さんを助けようとしていると思ったのか?」
「なっ!!」
心のどこかでアランが助けに来ていると思っていたユースティアは自分の思い違いを恥ずかしく思い顔を赤く染める。
「まあ、見たところお嬢さんは十四歳ぐらいか。なら王子様が助けに来るのを一度は夢に見るよな」
ユースティアは図星をつかれ、怒りと恥ずかしさでぷるぷると体を震わせた。
アランはそんなユースティアに気づかず、腕にはめられた手錠を魔法で完全に手から切断する。そして手錠が地面へと落下した。
「あとは足だな」とアランは呟くと、ユースティアの足の傷に触れないようにやさしく触る。そして自分の元にユースティアの足を運び、手の手錠を放したときの魔法で足の枷も外した。
「これでよし。またな、お嬢さん」
アランはやることはやったという顔をして村人のいる方向へと歩いて行く。ユースティアはそんなアランの服の裾を握り、引っ張った。まだ話は終わっていないとばかりに。
「アラン様? 私に何か言うことあるんじゃないか?」
ぽかんと口を開け、不思議そうな顔をしながら、ユースティアの顔を見る。
しばらくすると意図が分かったかのような表情を浮かべた。ユースティアはそんなアランのことをいぶかしげな顔で見つめる。
「素敵なお嬢さん、どうか私と踊ってくれませんか?」
「なんでそうなる?!」
「だって、お姫様みたいなことしてみたいのかなって思って?」
「なぜ、疑問形なんだっ!! それに私はお姫様みたいなことをしたいわけじゃない。お姫様なんて所詮籠の中の鳥じゃないか。そんなのごめんだ」
「それ、お嬢さんに特大ブーメランじゃん」
アランはクスクスと笑う。
「今は違うもん。私はもう自由だもん」
ユースティアは自分でもよく分からない気持ちになって、大きな赤い目がうるむ。今にも涙が落ちそうだった。
アランはあわててユースティアに抱きつき背中をなでる。
「泣くなって。さっき笑われたから仕返ししようとしただけだ。からかって悪かったな。ほらよしよし」
「うわあああん!」
ユースティアはアランに抱きつかれ、やさしくされたことで今まで我慢していた涙が流れた。
アランは村人に気づかれるとまずいと思い、ユースティアをお姫様抱っこするやいなや声の届かない、この森の奥深くへと入っていった。
「泣き疲れて寝たみたいだな」
しばらくすると、ユースティアは泣き疲れ、アランの腕の中で目を腫らしながら眠った。
ユースティアをよく見ると、目は腫れただけではなくクマがあった。きっと逃げる機会を探るために神経を研ぎ澄ませ、それがかえって眠れなくなる原因になったことは大いに想像できた。
そして体中の傷は毎日のように痛めつけられた結果か。
魔法も能力も本来の実力よりも誤魔化していたみたいだったし、ろくに回復魔法を自分にかけられなかったのだろう。かけたらかえって村人のストレス発散のはけ口になっただろうから。
アランは木に寄りかかると、ユースティアを優しくなでた。
「助けてって言われれば助けるのに」
アランは助けてと言われない限り、よほどのことではないと助けない。そんなことをすれば相手の自尊心を傷つけ、より一層相手の傷を増やすことになると思っているからだ。
「これから、この子はどう生きるんだろうね」
村人の環に入れない子。そういう子はきっとどこに行ったって受け入れてもらえない。一人で生きるすべを手に入れる必要がある。
アランはそんなことを考えている内に眠くなり、しばしの間まどろむことにした。