伊藤麻里恵
それから川島の話をしばらく聞いて、太田たちは本部に戻り伊藤麻里恵について調べた。
……伊藤麻里恵
元々は都内のD高校に通う普通の学生だったが、同級生の小川太一という半グレ集団でクスリをばら撒く悪い男に引っかかり、徐々にその身を持ち崩しやがては中毒に苦しんで自殺をしたという少女であった。
8年前、この伊藤麻里恵の自殺事件により重い腰を上げた警察組織によりダークキッドが一斉摘発されることになった。
麻里恵の記録を読んでいくうちに太田も小林もやり切れない気持ちになった。
「太田警部…… この子の自殺が一連の殺人事件に繋がっているのでしょうか?」
太田は眉を顰め考える時間を置きながら首を横に振る。
「……まだわからない でも遺族や身辺を洗ってみる必要はありそうだ
小林くん、伊藤麻里恵とご遺族について調査してくれるか?」
「はい、わかりました」
1時間ほど後、小林が資料を手に戻る。
「警部、伊藤麻里恵の遺族についてわかりました。まずは資料を」
「ああ、ご苦労様」
小林から手渡された資料を読みながら太田は徐々に顔を顰めていく。
「……伊藤麻里恵さん享年17 彼女の自殺によってダークキッドが一斉摘発されることになり、この組織は壊滅しました」
「なるほど、報道規制がかかっているがダークキッドにとって壊滅の原因となった事件だな」
無表情のまま小林は自分の手元の資料もパラパラとめくっていく。
「報告書をお読みすすめください」
そこには伊藤麻里恵が小川太一というダークキッドの幹部に引っ掛かりドラッグに溺れその身を持ち崩し自殺に追い込まれていく過程が書かれていた。
太田は小さくため息を吐きながら呟く。
「……伊藤麻里恵さんの遺族が怒りを抱いても無理はない状況だな」
そして小林は資料の伊藤麻里恵の家系図を指さす。
「伊藤麻里恵さんのご両親は亡くなられていますが、中学生の時にその両親が離婚し彼女は母親に引き取られ生き別れの兄がいます」
「なるほど。お兄さんの所在はわかっているのか?」
「はい、こちらを」
そして小林の開いたページを読み進める。
畑中克典現在28歳、現在バーを兼ねた飲食店を経営する妻畑中容子と共に店で共同経営者として働く。
妹が亡くなった8年前は20歳で大学生だったが事件の数ヶ月後に大学を辞めている。
太田はじっと資料を見つめて考えをまとめると小林へと向き合う。
「彼に会ってみる必要はありそうだな……」
静かな表情で小林は頷き同意する。
「はい私もそう思います」