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事情聴取 川島英明の話

都内の外れのとあるビルは川島英明かわしまひであきの父親の持ち物であり、彼は地下にあるバーの経営を任されている。

太田と小林はバーの入り口付近にもたれかかって立つ派手な身なりの女に警察手帳を見せて来訪の意を告げる。


「アポを取っていた警視庁の太田です」


愛想の悪いその女は興味なさそうに太田たちを見つめると手すりに持たれ入り口に向かって顎をしゃくる。


「……入んなよ」


太田と小林が地下への階段を降りて扉を開け薄暗い店内に入ると奥のカウンターに腰掛ける男女の姿が確認できた。


「ねえ、ヒデくん、昼間からお酒飲み過ぎだよ…… もうやめとこうよ」


「うるせえ…… 飲まなきゃやってられるか! 俺は命を狙われてるんだぞ⁈ お前なんかに俺の焦りがわかるか⁉︎」


「ヒデくん……」


どうやら飲んだくれている男を女が嗜めているようだ。

太田たちが近づくと彼らは顔を上げ訝しげに見つめてきた。


「どうも、こんにちは。川島英明かわしまひであきさんだね? 警視庁の太田と小林だ。お話を聞かせてもらえるね?」



川島英明かわしまひであき

飲んだくれた男はダークキッドの元リーダーであり、国会議員の息子であり今回の事件の重要参考人でもある。

もちろん半グレ時代の悪行で沢山の恨みを買っていることだろう。

一応アポはとってあるのだが、川島は呑んだくれているようだ。

女は小林に一言二言、何かを告げられると心配そうに川島を見つめながら席を外した。

バーのオーナーである川島は不貞腐れた表情で目に隈が出来た顔で太田たちを睨んでくる。


「ふん。ちっとも犯人を捕まえられない無能な警察のお出ましかよ。こっちはウンザリしてんだよ! なあ、刑事さん! さっさと達夫をやった犯人を捕まえてくれよ!」


どうやら川島は相当焦燥して昼間から飲んだくれているようだ。

太田は落ち着いた声で嗜めるように川島を見つめる。


「それには君の協力が必要だ。まずは4月2日何をしていたか教えてほしい」


川島は馬鹿にしたように肩をすくめ椅子に深くもたれかかると机に足を乗せる。


「はっ! 警察に何度も聞かれたぜバカバカしい! 俺がダークキッドの元幹部を殺して何になるってんだ⁈ あぁ⁈ さっさと犯人見つけ出して捕まえてこいよ!」


太田はその川島の態度にため息をついて机の端に散乱するいかがわしい錠剤を指差す。


「……やれやれ ところでこれはドラッグかな? 警察署の方で落ち着いて話を聞いたほうがいいかな?」


川島は警察にドラッグの使用を疑われてもそんな事は手慣れているといった様子で答える。


「合法ドラッグだよ! なんだよ! しょっぴくならしょっぴけよ! その方が俺も安全だ!」


自暴自棄らしい川島を嗜めながら太田は淡々と話を続ける。


「そう自暴自棄にならないで。落ち着いて話を聞かせてほしい。君が殺されるほどの怨恨に心当たりはあるか? よーーく考えてほしい」


「……ふん! 俺は本半グレのリーダーで親父は国会議員だ。山ほど恨みを買ってて何がなんやらわかんねえよ」


それ程頭を使って出したわけではないらしい答えに太田は再考を促す。


「じゃあ、頭に思い浮かんだことでいい。過去の罪を責めてる訳じゃない。特に酷い目にあわせた者の顔を思い出してほしい。それが事件解決につながる」


太田の真剣な表情に川島は舌打ちしながらも今度は時間を置いて考え込み、やがて口を開く。


「……半グレ時代、相当の数の学生をシャブ漬けにした覚えがある どれだけの数の人間の恨みをかってるかわからねえ……」


「そうだな、それが君の犯した罪だ。その線でも今洗い出している。他にはないか?」


川島は苦しそうに考え込みながら言葉を必死で紡ぎ出す。


「つるんでいたヤクザの構成員…… 逮捕されてダークキッドが潰された時にオレや仲間が色々としゃべったので恨みをかってるかもしれねえ」


「ああ、もちろん捜査をすすめている。他にないか? 例えば君が未成年だった時に裁判で告白していない罪だ」


その言葉に川島は表情を消して一瞬太田を見つめやがて膝の上に視線を落とし青ざめたように考え込む。

たっぷり数十秒ほど待たされたのちに川島は絞り出すように言葉を発した。


「……伊藤麻里恵」


「ん?」


虚空を見つめるように青ざめた顔で川島は太田に視線を合わせた。

その声は震えている。


「ダークキッドは多くの高校の学生を構成員としていた。俺の通うS高校とは違うD高に通っていた小川太一おがわたいち…… 1人目の犠牲者の同級生の1人に伊藤麻里恵いとうまりえという女がいた」


伊藤麻里恵いとうまりえ…… 捜査線上には上がってない名前だ」


自嘲的な笑いを浮かべながら川島は酔いが覚めたと言う顔で続ける。


「そりゃそうだろう、もう死んでんだからよ」


「……なぜ死んだ? 君がやったのか? なぜいまその子の名を挙げた?」


邪魔くさそうに手を振りながら顔色悪く川島はグラスに手を伸ばすが、太田はその手を掴み黙って首を横に振る。

舌打ちをしながら川島は太田を睨む。


「特にひでえ事をした記憶を思い出せって言ったのはアンタだろ? 殺しちゃいねえよ。美人だったのに呆れるほどバカな女だったのと自殺したから覚えてるぜ」


……自殺?

そう言えばダークキッド摘発のきっかけになった事件があったはずだ。

太田は川島の手首を掴みながら真剣な表情で質問を続ける。


「なぜ自殺した? 君たち元ダークキッドとどういう関係がある」


川島は憮然としながら太田の手首を振り払った。


「普通の高校生だったのに太一とつるむうちにドラッグにハマってその内売春にもハマった典型的な堕落パターンだよ。故あって片親だって聞いたがな、遺族がオレたちを1人ずつ吊るしてる、とか? しっかり捜査してくれよ刑事さん!」


川島は投げやりに、吠えるように言い放った。

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