監視カメラの映像
翌日、太田は刑事たちが集めてきた情報をPCのキーボードを叩きながら整理して推理を進める。
まず山岡達夫が失踪したのは4月2日。
4月3日は何が起こっていたかは分からないが死体の状況を見れば自ずと推察できる。
とりあえず2日の午後の時間帯最後に山岡に会っていた人物を特定する必要がある。
小林がある機材を片手に部屋に戻ってきた。
これには解析班が山岡の足取りの映像を追っていったデータが入っている。
太田は椅子に腰掛けながら小林の着席を促す。
「ご苦労、小林くん。では山岡の足取りを説明してくれ」
「はい」
太田たちは車両ナンバーから4月2日の山岡達夫の足取りを追っていくことにした。
早速自宅を出て都内の道路を走る山岡の車がスライドに映し出される。
「山岡はこの日アルバイトには向かわずこの後謎の人物と出会っています」
「なるほど。この日山岡に会っていたとなるとかなり事件に近い人物ということになるな」
「はい、私もそう思います」
そもそも山岡は4月2日のアルバイトのシフトには入っていなかったしもちろん職場に訪れてもいない。
同棲相手には嘘を言って自宅を出たわけだ。
山岡が数十分ほど車を走らせたと思うととあるファミレスで車が止まった。
ここで小林が映像を切り替えファミレスの中に設置してあった監視カメラのものに切り替えた。
「4月2日12時35分、山岡達夫は自宅から相当離れたファミレスで女性らしき人物と会っていました」
「……ふむ いかにもといった感じだな」
山岡がファミレスの席に座り向かい合う女は白い帽子を深く被りサングラスとマスクで顔を覆っていた。
容貌はよくわからない。
そうして数分ほど談笑していたかと思うとすぐに2人揃って店を出た。
小林は淡々と説明を続ける。
「女は電車、もしくは徒歩で店に来たようです。2人は山岡の車に乗りそのまま次の場所に向かいました。店の者に聞いても滞在時間が短かったためか2人のことは誰も覚えていなかったようです」
「そうか…… 続けてくれ」
再び山岡の車は都内の道を走る。
そして午後1時20分頃、郊外のビジネスホテルの地下駐車場へと入っていった。
そして小林は今度はカメラを地下駐車場のものへと切り替えた。
「昨夜、追跡過程で山岡のこの車が同場所の地下駐車場で発見されました。車種やナンバー、痕跡から間違いないようです」
「そうか、続けて」
顎に手を置き考えこみながら太田は小林に先をうながす。
小林は明度の悪い地下駐車場の映像を切り替えながら説明を続ける。
山岡がマスク女と自分の車を出ると地下駐車場を移動しカメラの死角へと入る。
「2人は監視カメラの死角にあった犯人の車に乗り込み、もしくは山岡が押し込まれるなども考えられますがとにかく犯人が用意してあった車に乗り込みそのまま監視カメラの少ない道路を走り西へ向かって足取りを消しました。
この車のナンバープレートは偽装。車種も15年ほど前の古いものです」
2人が乗り込んだと見られる黒塗りの車が駐車場を後にするのが確認された。
カメラの死角で何があったかは分からない。
しかし、犯人の手際の良さに太田は舌を巻く。
「……なるほど あれ程狂気のこもった殺害方法に関わらず相当練りに練られた犯行計画だったわけか」
「そうなりますね」
やがて車はある地点から足取りを追えなくなる。
太田はしばらく考え込み、やがて結論を出す。
「ローラー作戦しかないだろう…… 西へ向かったこの車を探すように部下たちには言ってくれ。私はこれから川島英明に会う」
「了解しました」
小林は頷き早速太田の指示通りの手配をする。
……川島英明
それは8年前に一斉摘発により解散した件のダークキッドのリーダーの名であり、恐らくは犯人の次のターゲットであった。