事情聴取 鈴木良美の話
会議の後、太田は小林の運転する車に乗り目的地へと向かう。
被害者である山岡達夫には同棲している彼女がいたので話を直接聞く必要があった。
古びたアパートの一室にたどり着き、チャイムを鳴らし扉が開くと太田は警察手帳を見せる。
「こんにちは、警視庁の太田と申します。鈴木良美さんですね? 山岡さんの件でお話お願いします」
疲れた目の女がうんざりしたように対応する。
「……また? もう何度も同じ話繰り返してるんだけど」
渋々と言った様子で鈴木は太田たちをリビングへと案内した。
着席し、太田は申し訳なさそうに鈴木に頭を下げる。
鈴木の言う通り、被害者の同棲相手である彼女は警察の聴取を何度も受けていた。
「申し訳ないですね。ですが殺人事件とはそういうものなんです。多くの刑事が捜査に関わっている以上それぞれの視点でお話を聞いた方が解決の道が広がるのです」
「……わかりましたよ アンタら警察なら達夫が昔どんなことをしてたかは知ってますよね?」
「ええ、もちろん」
鈴木良美は憂鬱そうに腕を組み話を始める。
山岡達夫の過去はとても褒められたものではないからだ。
「半グレ組織で麻薬を捌き、売春の斡旋までしていた犯罪者である事は私も知っていました。……でもこんなことになるなんて」
鈴木は山岡の働くバイト先の一つで知り合い数ヶ月前から付き合い始めたという。
「山岡さんは普段どのような人でしたか?」
「どんなって…… 朝起きてバイトに向かったりゴロゴロしてたりする普通の人でしたが……」
学生時代は優秀だった山岡達夫は逮捕されてから数年の保護観察を経て現在はアルバイトの掛け持ちで生計を立てるいわゆるフリーターであった。
太田は質問を続ける。
「ダークキッドのことについて語ることはありましたか」
「いえ、半グレ時代の詳細についてはほとんど…… 進学校に通っていたのにバカなことをした、とぼやいていることはありましたけど。麻薬密売で逮捕されて以来、両親からも見放されて寂しそうな人でした」
「……ふむそうですか」
ここまでの話は集めた確かな情報と一致する。
鈴木は相当堪えているようだったが太田は事件解決のために質問を続ける。
「山岡さんがいなくなった当日についてお尋ねしたいのですが、4月2日の午前11時まではあなたとこの部屋に居たのですね?」
鈴木良美は辛そうに眉根を寄せ考えながら口を開く。
「はい。いつものように朝起きてご飯を食べて…… バイトに行くと言って出て行きました」
「何か変わった様子は?」
鈴木は首を横に振る。
「いえ、特には」
そして記憶を整理するようにコツコツと机を軽く指で叩きながら太田と小林の顔を見比べた。
「午後10時くらいになってからも達夫は帰らず流石に遅いと思って何度も電話をかけ、LINEも送りましたが結局連絡もつかず……
翌朝から知り合いや近所を探し回ったのですが結局あんなことになって……」
話しているうちに涙ぐむ鈴木を気遣いなから太田はそろそろ、と話を打ち切ろうとする。
「分かりました。お話ありがとうございます。ご協力に感謝します。また思い出したことが有ればご連絡下さい」
鈴木良美はリビングを去ろうとする太田と小林をくたびれた様子で声を振り絞りながら尋ねた。
「ねえ、刑事さん。達夫は何であんな酷い殺され方をしたの? 誰に殺されたの?」
太田は隈のできた鈴木の目を見ながら気遣わしげに力強く応える。
「それを捜査するのが我々の仕事です。必ず犯人は捕まえますのでどうか気を落とさず」