第1´話「日常の終わり」
「なんか変な夢見たな……」
――僕の名前は奏。残響奏という。僕は、何の変哲もなく、強いて言えば常人よりも、少しだけ不幸なくらいか。僕は今、僕の唯一の友人。越天楽和音の家へ向かっている。
彼――くすんだ緑色のパーカーに、ダメージジーンズを履き、覇気のない黒い眼をした黒髪の日本人男性。こんななりだが高卒のピチピチクリアなほぼ大人である。
そんな彼は、友人宅へと向かっていた。S市B町の商店街の裏口を回り、路地裏から石のブロック塀の上に這い上がり、大幅なショートカットをして、奏は和音の家に着いた。
和音の家は豪邸である。まるで城のように豪奢に飾られ、高級車で有名な車が3台程ある。これら全て和音の所有物なのだから笑えない。更にはインターホンなどなく、全てレーザー式で、しかもその日許可をした友人もしくは家族でないと入れない程の最強構造。最近は慣れたが、ちょっと前までは奏は動悸が激しくなっていた。
『オハイリクダサイ』
ふいにインターホンのような形をしたスピーカーからロボの声がする……否。
ロボの声を真似た声がする。
「ありがとうございます。……和音?」
騙されたと思われるのは癪なので普通にお礼した後名前を呼んで置いた。
『もーなんでバレるのよー』
と、スピーカー越しから声がする。奏は和音の声が好きだった。鈴のようだとかキザなセリフは口に出来ないが、そのレベルで綺麗な声だとは思っている。
ちなみに彼は、極度の人間不信&身内贔屓の為、もしかしたらそこまで綺麗では無いかもしれないが。
「おおう……」
奏は何度目かの驚嘆の声を上げた。
「何回目よ……お菓子いる?」
呆れながらも、にこやかにほほ笑んで聞いてきた。勿論甘党の奏は、
「ああ、おねげぇしまする。」
と、ちょっとよく分からない言い回しをして、
「何その言い方……」
と、完全に呆れられるのだった――
そこから30分後。
彼らは段々と、うとうとし始めて。
奏は、突如感じた強烈な痛みに飛び起きた。
「夢とおなじ……?」
と、奏は、朦朧とする頭でそんなことを考え、呟いた。
そして、夢と同じように脳に何かが刺突され――
なかった。
「だァっ!」
と、気合いの声をあげ、回転蹴りを放ち、得物を吹き飛ばす。
「体術勉強しといてよかったぁ」
と、安堵の声が一瞬漏れたが、その安堵は深い絶望によって塗りつぶされていった。
「嘘だろ……ぁ。いや……イヤだ、イヤだイヤだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!なんで……なんで!?和音ぇ……」
と、脳を打ち抜かれ、肺を潰されて呼吸すら出来ずに苦しみ続ける、変わり果てた友人の姿が隣にはあった。
「ごぼっ……」
奏も残された時間は短くない。何故ならば心臓部分をメッタ刺しにされ、流血しているのだから。叫びすぎた影響なのか吐血して倒れ込む奏。彼の顔に張り付いたのは。
「呪ってやる……お前だけは絶対許さない……殺して……や……」
最後までその人物の顔を睥睨して、血で声をくぐもらせながら言い放って、この周回は終わった。