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死神少女の生者殺し  作者: スモアmore
6/7

暮人には気づかれたかな……

 次の日から、死神は現れなかった。屋上に続く階段にも、頭の良さそうな坊主眼鏡の男子の机にも、体操服に着替えている男子の教室にも、どこにも死神は現れなかった。京弥達もそうだ。屋上前の踊り場に、いなかった。どこかに行った彼氏様も見当たらない。もう幽霊が見えなくなったのか、っというとそういうわけではない。架奈の姿はずっと見えている。

 暮人は何もしなかった。ただいつものように授業中に居眠りをして帰ったら1人ソファで寝っ転がってダラダラして……。暮人は頭を深く抱えると、意識を飛ばした。そして、1週間がたった。


     □ □ □


 チャイムが鳴り、生徒達は教室から出ていく。各々部活に行ったり、下校したり。その中に暮人も紛れる。いつものように、普通の、日常を送るために足を進める。

 あの日から暮人の胸にはドス黒い何かが突っ抱えていた。このまま死神のことを忘れていつもどおりの生活に戻るのか?あの、誰もいない暮らしに戻るのか?

 ……いや、違う。そうじゃない。俺はあいつらといるのが楽しかったんだ。俺は、あいつらと、死神といたいんだ。

 暮人は階段の途中で∪ターンをして降りてくる生徒達を掻き分け今来た廊下を戻る。そして屋上に続く踊り場に着く。そこには誰もいない。だが暮人はその階段を見つめ、決意を示した。


「死神、俺は俺のやり方でお前を助ける」


     □ □ □


 階段を降り、昇降口に行くとそこには架奈が待っていた。


「あ、あんたさっきはどうしたの?急に階段を逆走して。ついに頭でも逝った?」


 挨拶代わりの罵倒を無視して、暮人は下駄箱の靴を入れ替える。


「なあ、架奈。頼みたいことがあるんだけどいいか?」

「は?何?」

「ちょっと実験したいことがあるんだ。いいか?」


 予想打にしない暮人の言葉に架奈は驚く。


「実験て、何すんの?」


 暮人は爪先で地面を小突き、ローファーの履き心地を確かめた。


「今分かってねえことを1つずつ解明しようと思ってな」


 そう言って暮人は校門を出てからまっすぐに住宅街に向けて歩いた。その後ろを架奈が付いて行く。そして歩くこと20分弱。暮人は1つの家の前で止まった。モダン建築の2階建て一軒家。表札には「立花」っと書かれている。


「って、あんたの家!?」


 暮人は玄関の鍵を開けて中に入っていく。その後を架奈も付いて行く。中は、テレビなどの家電を除いては、殆ど何もなかった。生活臭も一切しない光景に架奈は軽く引く。


「うわ、あんた女連れ込む気まんまんじゃん。陰キャのクセしてキッモ」

「うるせえな。誰もいないんだよ当たり前だろ」

「え?あんた一人暮らしなの?」


 暮人はカバンをおろし、階段を上る。


「ああ、そうだよ」


 3つある扉の内、1番左の扉を開けて中に入る。そこには壁一面に写真や新聞の記事、ノートの切れ端などが画鋲がびょうで貼られ、床も侵食している。その紙を踏みつけて置かれた机の上には巨大なデスクトップや謎の実験器具が置かれていた。異様すぎる光景に、架奈は恐怖を覚えた。


「なに、これ……」

「俺の部屋」


 言葉を失う架奈を尻目に、暮人は上着を脱ぐ。


「いや、実験室の方が正しいか」

「実験室……?」

「ああ、消えた両親を探すためのな」

「消えた、両親……?」

「まあ今はいいよ。それよりも、試したいことを1つずつやろう」


 話を変え、暮人は架奈に向き直る。


「まず、あの鎌が何なのか、調べたい」


 暮人は机の引き出しから大きなノートを取り出すと、現時点での考察を書いた。


「あの鎌は幽霊である死神も、生きてる俺も触れられる」

「そうね、でかいクセして廊下でぶん回しても壁も透けて攻撃するし」

「そうなんだよな。だから、あの鎌は『怨霊』と同じ原理と考えられる」


 ノートに『鎌=怨霊』っと書く。


「んで、そう考えると、1つの仮説が生まれる」

「仮説?」

「そうだ。それは架奈でもあの鎌みたいなのが出せるんじゃないかってことだ」


 『他の幽霊でも鎌を出すこと可能』っと書く。それを横で眺めていた架奈は呆気に取られる。


「あんた、普通に頭いいじゃん。なんでテストの点あんなに悪いの?」

「習ってないことをやれって言われても無理だろ。ってかお前俺のテストの点何で知ってんだよ!」

「幽霊になって暇だったから職員室で見てきた〜。それで?私は何すればいいのよ?」


 悪びれずに言う架奈に話を変えられどうすることも出来ない暮人は、大人しく話を戻した。


「俺と会ったとき、お前、『怨霊』になりかけてただろ?あれを上手く途中で止めたりして半分幽霊半分『怨霊』みたいに出来ないかと思ってな」

「あーね。つまりこういうこと?」


 暮人話を聞いた架奈は右手から黒いモヤを出し、それを手のひらにまとわせる。すると、先程まで少しだけ透けていた架奈の体の内、右手だけが透けなくなった。


「そんなあっさりと!?」

「ん、なんか変な感触」


 架奈は右手をグーパーしたり、壁を触ったりして久しぶりのものを触る感覚を楽しんでいた。暮人はあっさりと実験が成功したことに開いた口が塞がらない。


「マジか……」

「触れるー!ほら暮人も殴れるー!」

「グハ!い、いきなり何すんだよ。痛えじゃねえか!」

「あ、ちょっと触んないでよ。キモさが伝染る(うつる)」


 架奈の右ブローをもろに受け痛む暮人を見下ろす架奈は実に楽しそうだ。もう一発お見舞いしてやろうとする架奈の手を咄嗟に握るが、そのときになって気付いた。幽霊とはいえ1人の女子を家に連れ込んでいる事実に、今更気がついた。

手を握って硬直した暮人を「な、何よ……」っと眺めていた架奈も、今更ながらに男子の手を握っていることに気付き、こちらも赤面して硬直する。そして出来たどうしようもない時間を、2人はお腹の虫がなるまで味わうことになった。

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