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KOTOED -コトエド-  作者: 川輝
部活編
8/182

目覚めの良すぎる朝

風呂からでてしばらく暇になった俺は、居間でテレビを見ていた。

そんな暇な俺に、オッサンが話しかけてきた。


「小僧、お前はいつも何時くらいに寝るんだ?」

「いつもバラバラだな。十時くらいに寝る時もあれば、十二時くらいになる時もある。気まぐれだな」

「そうか」

「そういえば、疑問なんだが俺は今日どこで寝ればいいんだ?」


そう言うと、オッサンの顔が少しニヤけた。

よく分からないが悪い予感がする。


「そうだなぁ。今日は俺様のベッドを使うと良い」

「じゃあオッサンはどこで寝るんだ?」

「まあ仕方ないから。娘と同じベッドで寝ることにするさ。あぁ仕方ない。ベッドがないんだからな!」


わざとらしく困った感じを出しながらチラチラと真波の方を見る。

藤也からすると予想通りすぎる回答である。

だがいくら真波でも年頃の女の子である。

限度というものがあるのだ。


「いくらお父さんでももう一緒に寝るような歳ではありませんっ」


一生懸命に真波は拒否する。


「へっ、これだから子供っていうのは…中学生までは一緒に寝てたくせによ」

「そっ、そうなのか!?」


ギョッとしながら思わず反射的に答える。


「ああ。いきなりよ。もうお父さんとは一緒に寝れませんっ。このままではお父さんに惚れてしまいます。なんて言い出すんだからよぉ。困ったもんだ」

「そ、そんなこと言うわけ無いじゃないですか!」


顔を赤くしながら慌てて首を左右にブンブンと振って否定する。

そんな一連の会話をすぐそばから聞いていた香奈さんがようやく口を開く。


「亮さん…私という人がいるのに…娘に手を出すなんて……」


香奈さんもわざとらしく涙を拭う仕草をして悲しい声を出す。

さて、香奈さんも話に入ってきたのでいよいよ話がややこしくなってきた。


「亮さんのばかーー!」


そのまま勢いよく立ち上がり走りだすのでオッサンも慌てて追いかける。


「俺は娘に手はだしてねぇぞーーー!」

「ガキかアンタらはっ!」


思わず香奈さんのことを『アンタ』なんていってしまうし……まさか、この家族わざとやってるのか?

いや、だとしたらこの夫婦どっかで夫婦漫才でもやっていたのか?


「えへへっ」


そんな事を考えている時に横で一つ笑う声がした。

俺は初めて真波の笑う声を聞いた気がする。

そうか。こうして真波をあの二人はいつも笑わせているのか。

こうしているとどうしても思ってしまう。俺なんかがこんな所にいても良いのかと。

こんなにも幸せな空間に俺みたいな家族との幸せを知らないような奴がいても良いのだろうか……。

それは俺の考えすぎなのだろうか。今はよく分からなかった。


「どうしました? 坂野さん」


真波が俺に話しかけてきた。顔に出ていただろうか。


「いや、そろそろ寝ようかと思って」

「そうですね。でも坂野さんは本当にどこで寝るんですか?」

「まぁ、ここで寝るよ。流石にな」


俺が提案した場所は居間だ。寝る場所が無いのなら仕方がない。床でだって寝てやるさ。

オッサンの部屋で寝るのはなんか嫌だ。


「そんなのダメですっ。お母さん。余ったお布団ありませんでしたか?」


そう言うと走っていた香奈さんが止まった。

というか貴方達まだ走ってたのか。これはオッサンが遅いのか、それとも香奈さんが速いのかよく分からないな。


「確か来客用のお布団があったはずですよ」

「じゃあそれここにひいて寝ますね。どこにありますか?」

「はい。ではついて来てください」


俺は香奈さんについて行って布団を出すと居間にひいてすぐに横になった。


「じゃあ俺たちも寝るか」

「はい」


俺が横になるとオッサンたちも自室に向かった。


「では坂野さん、おやすみなさい」


最後に真波が俺の方に振り返って言ってきた。


「お、おやすみ……」


おやすみなんて言ったのは何年ぶりだろうか。

とても久しぶりな気がする。

そんな事を考えながら眠りについた。


朝。俺はオッサンの大声で目覚める。

こんな起こされ方をしたのは初めてかもしれない。


「テメェ、いつまで寝ているつもりだ。早く起きて朝食の準備をしやがれ!」


瞬間。布団を剥がされて身体中が冷たい空気に触れた。

すぐに起き上がる。


「そんな事しなくても俺は起きるわ!」


まさか朝からこんなに大声が出るとは思わなかった。


「へっ、どうだかなぁ。俺様は別に小僧がどれだけ寝てよいうが遅刻しようが一向に構わないがな。香奈に言われたから仕方なく起こしてやったんだ。香奈に感謝するんだな」


そう言うとオッサンはこの場を去って行った。

藤也もすぐに布団を片付ける。顔を洗うため洗面台に行く途中に真波と鉢合わせる。


「あ、坂野さん。おはようございます」

「お、おはよう」


朝に真波に会うなんてとても違和感があるが、その前にあってまだ数日しか経っていない人の家に泊まるってのもすごいことだな。


顔を洗い終えると食事を済ませて学校へ二人で向かった。

学校に着き教室に入ると、いきなり話しかけられた。


「おい、テメェ、坂野! お前はどれだけ最低な奴なんだ!」

「春樹、お前何言ってんだ?」

「昨日言ってたじゃないか。あの可愛い子以外にも手を出してるって! くそっ、どうしたらそんなに女の子にちやほやされるんだよ!」


春樹は悔し泣きしながらも、拳をプルプル震えさせて俺の胸ぐらを掴んだ。


「そんなわけねぇだろっ!」

「じゃあなんだよ、昨日のことは嘘だって言うのか?」

「嘘も何もお前が勝手に勘違いしただけだろ」


呆れた顔で言ってやった。

その瞬間手を離した。


「そんなバカなっ! なぁ、沙夜ちゃんもそう思うよね」


ちょうど教室に入ってきた沙夜にも問いかけていた。


「えっ、え? な、なんの事を言っているんですか?」

「たしかに動揺する気持ちはよく分かるよ。でも沙夜ちゃんも坂野に言ってやってくれよ、頼む!」

「え、えぇーーー?!」


沙夜はどう見ても困っていた。

しかし春樹。お前は運が悪かった。

と言うか、ちゃんと周りを見ておくべきだったな。

背後には殺気を放ちながらポキポキと指を鳴らす葵が立っていた。


「はーるーきー。アンタ何沙夜を困らせてんのよ。死にたいの?」

「へっ? い、いや、まだ生きてたいです」

「そう、じゃあ、いつもより強くしておいてあげる」


葵がにっこりと笑ってそう答えた。


「い、いやっ。せめて命だけは……」

「はあぁぁーーー!」


葵は拳を下から上に勢いよく上げ、春樹のみぞおちにぶつけた。


「ぐへぁっ!」


と、声を上げ、宙に上がり天井にぶつかると落ちて来た。


「ぐはっ」

「沙夜。大丈夫だった?」

「う、うん。でもあの人は大丈夫なの?」


沙夜は数少ない春樹を心配する人なのか。


「大丈夫よ、あのくらいで逝ってたらもう百回は死んでるわよ」

「ええっ!」

「だから心配することないわ」


沙夜が微笑みながら言った。

その発言を聞くともっと安心できないんですけど。


「じゃあ私はこれで。藤也もまたね」

「ああ。次回も頼むぜっ」

「あんたもああ言うことしたら同じことになるんだからね」

「こ、心しておく」


俺と葵が別れると、春樹が立ち上がっていた。


「くそっ、まさか背後に周りこんでいたとは……坂野。誤解して悪かったな。お前があんな可愛い子と一緒に登下校なんてできるわけないしましてや付き合えるわけないよな。ははっ」


多分誤解しているが面白そうだからこのままでいいか。

それに当初の目的の俺と真波が付き合っている誤解を解く事はできたしな。


「なにニヤニヤしてんだよ」

「なんでもねぇ」


こうして今日もめんどくさい学校が始まる。

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