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6話 初戦闘とお小遣い

タイトル通りの初戦闘!




SIDE 千代子



 私の名前は飛間ひま千代子ちよこ

 私立赤伊野(あかいの)高校2年3組でクラス委員長を務めていたけど、今はいろいろあって「勇者」をやっている。


 私たちが「勇者」として訓練を始めてから3日が過ぎた。

 訓練の内容は人によって違っていて、それぞれの「称号」に合わせたものが行われている。


 私の場合は、スキル「空間魔法Lv」と「瞬間移動Lv」を鍛えるために毎日、城の周りを転移だけで周回している。

 そしてMPが切れたら筋力トレーニング、昼食を食べてからは座学、その後は模擬戦闘。


 ここ3日間は毎日それを繰り返している。


 他のみんなはネットやスマホなどの娯楽が無いことを嘆いていたが、私はこの生活が結構気に入っている。


 毎日毎日、テストのためだけに単語と公式を暗記し、ハッキリとした将来の進路も無いのに睡眠時間を削って勉強をし、高校生をやっていた頃に比べれば、しっかりした目標があってとてもやりがいがあるだろう。


 ただ、気がかりがあるとすれば他のクラスメイトの所在だ。


 私たちの前に20人の勇者が召喚されたらしいが、私はこの世界に来てからまだその誰とも会っていない。

 いったいどんな人たちなんだろうか。


 また、いっしょに召喚されたのに王城を追い出された人たちもいる。

 エイベル公爵というこの国でもトップクラスの権力を持つ貴族が引き取ってくれたらしいが、その安否は分からない。


 この世界には元の世界では、ゲームぐらいでしか聞いたことがない「ステータス」や「スキル」が当たり前に存在して、人の生活に溶け込んでいる。

 超能力のような力を持っている人も私含めて勇者の中だとザラにいる。

 何が起こっても不思議じゃない。


 せめて連絡手段があればいいのだが、この世界の文化レベルは、元の世界でいう中世から近世のヨーロッパくらいだ。

 スマホはおろか電話も存在していない。


 あと、同じ王城にいても全然会わない勇者もいる。


 みんなのことが心配だ。


「大丈夫かな…………ゆーくん」




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




SIDE ユウ



 王都を脱出してから2日が過ぎた。

 俺たちはこの2日で3つの町を越えることに成功した。


 2日間を馬車での移動に使ったからだ。


 王都を出た後、ショコラは邪猪パイアの牙をさっさと売り払い、その金で馬車を雇った。

 有り金のほとんどは馬車に使ってしまった。


 何故かと聞くと、


「王都周辺は物価が高いから、ここで売ると1番実入りがいいのよ」


 そして、


「それに、王都の周りには魔物は駆除されていてほとんどいないから、魔物狩りじゃ稼げないわ。

 魔物狩りで稼ぐためにもさっさと移動してしまいたいわね」


 なるほど、納得だ。


「追手が来る前にできるだけ王都から離れておきたいしね」


 俺たちが脱走したという情報も王都では回りきっていることだろう。

 だが、この世界には情報通信技術なんてものは無い。

 全速力で逃げれば、情報が渡るよりも速く逃げることも十分可能なはずだ。


 そういうわけで2日間、馬車便を飛ばして来たのだ。

 資金はほとんど使い切ってしまったので、改めて稼がなくてはならない。


「お、あれか」


 そこそこ栄えた町、キカナーの南東、そこにある草原に俺たちは来ている。


「ゴブリンが8匹、まあまあね」


 草原の背の高い草に隠れるように緑色の肌をし、奇形の顔をした人型の生き物がうごめいている。

 頭が極端に大きく、身長は俺の腰ほど。

 筋肉も少なくヒョロヒョロで弱そうだ。


「狩るわよ」


 ショコラが姿勢を低くし、剣を片手に走り出す。

 反応の遅れた1匹のゴブリンが呆気なく首を叩き落とされる。


 他の7匹のゴブリンは危機を感じとったのか臨戦態勢を取る。

 そのうちの1匹が俺に向かって走り出す。


「武器を持ってるわ、気を付けて!」


 また他の1匹の首を切り落としながらショコラが叫ぶ。

 よく見ると、俺を狙うゴブリンの片手には石の棍棒が握られていた。

 小柄な魔物だからこその知恵だな。


 ゴブリンが棍棒を振り上げた。


 バックステップを踏みながらゴブリンに右手を向ける。


「『黒影』!」


 ゴブリンがまた棍棒を振り上げて走ってくる。

 分かりにくいがさっきよりも少し走るのが遅い。


 「黒影」は新しく獲得したスキル「黒魔法Lv1」によって使える魔法だ。

 相手のHPとMP以外のステータスを1項目だけ、スキルレベル×3%減少させる事ができる。


 つまり、今の俺のスキルレベルじゃゴブリン1匹の素早さを3%減らすので限界というわけだ。

 正直、効果は無い。


 仕方ないのでこのまま戦うしかない。

 学習せずに棍棒を振り下ろすゴブリンの攻撃を回避し、腰から剣を引き抜く。

 余った金で買った安物の剣だが、ゴブリン相手なら十分だ。

 振りかぶり、ゴブリンのがら空きの脳天へ振り下ろす。


「おりゃあああっ!」


 強い手応え。

 だが刃はゴブリンに刺さっていない。

 慌てて振ったせいで、ゴブリンを刃ではなく、剣の面の部分で殴ってしまった。

 よろめくゴブリン、だが致命傷には至っていない。


 生き物を全力で殴った感覚に嫌悪感を抱きつつも、ゴブリンを蹴り倒す。

 ゴブリンはあっさりと棍棒を手放した。


 横たわるゴブリンに馬乗りになって、両腕に膝を乗せて動きを封じる。

 そのまま剣先をゴブリンの顔に向けて振り上げる。


「『黒影』」


 完全にオーバーキルだろうが、念のためゴブリンの防御力を下げる。


 そのまま目を瞑り、ゴブリンの頭に剣先を深く突き刺した。


 顔にゴブリンの返り血がかかってほのかに温かい。

 気持ち悪い温かさだ。

 命に剣を突き刺した感覚が手に残っている。

 地球では感じることが無かったであろう、殺しの感覚が。


 初戦闘での初勝利。

 喜ばしいことのはずなのに素直によろこべない。

 だが喜んでいる暇も無い。


「ユウ! まだ来るわよ!」


 俺が1匹を倒す間に5匹殺したショコラが叫んで教えてくれる。

 見ると森の方からゴブリンが10匹ほど出て来ている。


「油断しないでよね!」

「わかってるよ!」


 今の俺がゴブリンごときに負けるわけがない。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




「あなた今、どんなスキルを持ってるの?」

「えっと……」


 移動中の馬車の中、ショコラが俺に話しかけてきた。


「『吐血』『血盟』『魔血Lv10』『止血Lv5』『聴覚強化Lv1』だな」


 スキル「HP自動回復Lv」と「MP自動回復Lv」は、この世界の住人なら誰でも持っているのでわざわざ言う必要は無い。


「ほんとに“血”のスキルばっかりね。

 さすが『【血】の勇者』」

「お前の食料以外の使い道が無いけどな」


 美少女に吸血してもらえるのは役得ではあるが、やっぱりもっと戦闘系の力が欲しかったという気持ちもある。


「スキルポイントはどれくらい余ってるの?」

「えっと、90sptだな」

「そんなにあまってるの!?

 なにかスキルは取らないの?」

「俺、どんなスキルが良いのかよく分からないし」


 スキルポイントはレベルアップで1ずつしか手に入らないのに消費は激しい。

 だから安易に使って、無駄にはしたくない


「じゃあ私が決めてあげるわ」




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




《「黒魔法Lv1」が「黒魔法Lv2」にレベルアップしました》


 黒魔法を使い続けているとレベルアップした。

 ステータスダウン効率が2倍になって6%になった。

 やっぱりすぐには強くならないよなあ。


 と油断しているとゴブリンが草むらから飛び出してきた。

 ギリギリ避けて「黒影」を撃ち、素早さを少し下げる。


 剣を上段に構えて振り下ろ────そうとしたら気付いた。

 よく見るとゴブリンは金属スクラップの板を曲げただけのかぶとを被っていた。

 一撃じゃ倒せないかもしれないから念のため。


「『白粉おしろい』」


 白い光が一瞬俺を包む。

 そのまま俺は剣を振り下ろし、剣はゴブリンの兜を大きく凹ませながらゴブリンの頭を強く叩いた。


 ゴブリンは昏倒していて起きそうにない。


「さすがに切れないか……」


 俺が使った魔法「白粉」はスキル「白魔法Lv1」で使える魔法だ。

 HPとMP以外のステータスを1項目だけ3%上げる。

 要するにスキル「黒魔法Lv1」の逆の効果だ。


 ショコラのおすすめで俺が獲得したスキルがこの2つ、「黒魔法Lv」と「白魔法Lv」だ。

 バフとデバフの完全にサポート型だな。

 だが俺たちの場合、ショコラの方が圧倒的に強いからこれで正しい。


 しかし獲得したばかりなのでやっぱりスキルレベルが低くて効果が薄い。

 今は試しに「白粉」で、俺の攻撃力を上げてみたけど、やっぱりあまり効果は無いな。

 鍛えればかなり強いらしいので頑張りたい。


「てやあっ!」


 そうこうしてる間にゴブリンは残り1匹になっていた。

 俺が倒したのは5体、ショコラは20くらいだろうか、差がすごい。


 残ったゴブリンは他のゴブリンよりもひと回り体が大きく、肉付きもいい。

 おそらく群れのボスなのだろう。

 部下は全員失った訳だが。


「あれはホブゴブリンね。

 ゴブリンの上位種よ。って言っても弱いけど」


 自暴自棄になったホブゴブリンが石の剣を構えて向かって来る。

 すぐさま「黒影」を発動、素早さを下げてやる。

 あれぐらいなら俺でも倒せそうだ。


「俺がやってもいいか?」


 1歩前に出て剣を構える。


 するとショコラが俺に肩に手を置いた。


「私がやるわ。ケガされたら困るし。白魔法だけ、よろしく」


 そして俺を後ろに軽く押して、自分が前に出た。


「『血盟』、やるか?」

「いい、白魔法で十分」


 バフなら「血盟」が1番強いのだが、断られてしまった。

 キスをするのが嫌なのだろうか。

 だったら悲しいが仕方ない。

 

 言われた通りに「白粉」をショコラに発動する。


 ショコラは駆け出し、剣を一閃。


 ホブゴブリンは逆袈裟に体を裂かれ、血を吹き上げながら倒れた。


「これで終わりね。戻るわよ」

「この後はどうするんだ?」

「報酬を貰って、すぐに隣町へ移動よ。昼食を食べたらまた魔物狩りね」


 え、それは休む暇が無いのでは。


「資金がギリギリだから仕方ないわ。

 じゃあさっさとゴブリンの耳取りするわよ」


 ゴブリンの討伐は現代での害獣駆除のようなものだ。

 ゴブリンは人里に来ると農作物を荒らしたりするので、討伐ギルドが常に討伐依頼を出している。

 特にホブゴブリンは群れのリーダーになっていることも多く、報奨金が良いそうだ。


 討伐の証拠はゴブリンの片耳だ。


 なので俺たちは黙々と、ゴブリンの死体から耳を切り取っている。

 うーん、気持ち悪い……。


「早くしないと血の匂いに釣られて他のゴブリンが来るわよ。

 そうなったらそいつらも倒すから」


 これ以上耳取りはしたくないですぅ!


 大急ぎで終わらせた。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




「はい、確認させて頂きました。

 ゴブリンが26匹、ホブゴブリンが1匹ですね!

 報酬の640ラナーです! どうぞ!」


 討伐ギルドの受付嬢さんが笑顔で硬貨を差し出す。

 落ち着いた雰囲気だけど元気いっぱいな美人だ。


 この世界でも受付というのは美人にさせるものらしい。

 魔物討伐を専門とするギルドだから、職員は筋骨隆々の男ばかりなのかと思っていた。


 まあ、魔物と戦った後にむさ苦しい男と対面したくは無いけどな。

 この世界には「祝福」があるから男女の力の差が少ないことも理由の1つだろう。


 ちなみに「ラナー」は人間の国で広く使われている貨幣だ。

 1ラナーで10円くらいの感覚らしい。

 今回の稼ぎは6400円ぐらいだ。悪くない。


「ありがとうございます」


 日本の硬貨よりも作りの荒いコインが手のひらに載せられる。


 俺は元の世界でアルバイトをしたことが無い。

 親から定期的にお小遣いは貰えるし、それプラスでお年玉をやりくりしてれば、なんとかなるもんだ。


 働いてお金を貰うのはこれが初めてだ。


 コインはずっしりと重く、それが金を稼いだということを実感させてくれる。


 なんか……感動だ。

 仕事の喜びってやつだろうか。


「はい、回収するわよー」


 手から一瞬でコインが奪われた。


「あっ」


 ショコラがコインの枚数を確かめながら、何やら計算している。


 人が感動してる時に!

 こいつ、子供のお年玉を「将来のために」って言って預かっておいて、忘れた頃に家計にあてるタイプだな!


「貴方が倒したのは5匹だっけ? はい」


 真っ白な手が1枚のコインを差し出した。


「これは?」

「100ラナー硬貨だけど」

「いやそうじゃなくて……」

「貴方の分け前よ」


 コインをおそるおそる受け取る。


「よく頑張ってくれたわ。ありがとね」


 ショコラは反則級の美少女スマイルでそう言った。


 コインを証明にかざすとキラキラと光を反射した。

 俺が自分で稼いだお金……。


 日本でぬくぬくと高校生をしていたらこんな気持ちになることは無かっただろう。


 俺は確かにこの世界に来て1歩踏み出せたのだと、そう実感できた。


 この1枚の100ラナー硬貨のおかげで。



 …………ん? 100ラナー?


 俺たちの今回の稼ぎは確か────


「じゃあ行きましょうか、ユウ」

「ちょっと待て」


 さっさと討伐ギルドを出て行こうとするショコラを呼び止める。


「残りの540ラナーはどうした?」


 俺がそう言うとショコラは一瞬苦そうな顔をして笑顔に戻り、


「もちろん私のおかn……2人の共同資金よ」

「それで通ると思ってんのか」

「いや、ホブゴブリンを倒したのは私だし────」

「譲ってやったからノーカンだ」


 こいつの方がゴブリンを倒したのは認めるがあまりにも不公平だ。

 というかこいつ、笑顔で誤魔化そうとしてたな?

 可愛いからって騙されないぞ。


「わかったわ、ちゃんと渡すわよ……とでも言うと思ったかぁっ!」


 ショコラは背を向けて走り出した。


 ……って、おい!


「待てやああああああああっ!」


 全力でショコラを追いかける。

 受付嬢に笑われている気がするが知るか。絶対捕まえる。


「隣町でも頑張ってくださいねー!」


 受付嬢の応援の声が聞こえる。

 そういえばこっちの方向は次の目的地か。

 くそ、誘導されてる!


「……まあ、いいか」


 ショコラが笑顔でこちらを振り返る。

 イタズラを成功させた子どものような笑顔、可愛い。


「次は俺の方が狩ってやるっ!!!」


 ショコラを追いかける。

 この世界は休めそうにないな、まったく!


 というわけで、俺たちは初めての討伐依頼を見事に成功させたのだった。




面白かったらブクマ、ポイント、感想をお願いしますm(_ _)m

くれたら元気100倍になります

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