表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/12

4話 ファーストキスは美少女と




「ぱ、邪猪パイア!?

 あいつら、こんなものまで……!!」


 銀髪美少女が猪を睨む。

 何をしても絵になるなあ。


 猪が咆哮ほうこうを上げた。

 そして突っ込んで来る。


「ボサっとしない!!」


 美少女が俺を抱えて思いっきりジャンプする。

 猪はそのまま林へ突っ込んだ。

 木々が何本も折られ、猪が大木に刺さった牙を抜く。

 黒狼の死体は踏み潰されたのか跡形も無い。


「なんだアイツ……化物かよ」

「あれは邪猪パイア。上位の魔物よ。

 あいつは幼体みたいだけど……」


 俺の2倍ぐらいの高さがあるのだが、あれでも子どもらしい。

 嘘でしょ……。


 体勢を整えた邪猪が再びこちらに突進してくる。

 また美少女に抱えられて回避する。

 男として恥ずかしくないのかって?

 俺のステータスじゃ100%避けきれないから仕方ないんだよ!


 またもや邪猪パイアは牙を木に深く刺して止まっている。

 こんなに木が生えている森の中、そんな巨体で走っていれば当然そうなるだろう。


「あいつ今までどうやって生きてきたんだ……?」

「元々へ森で生息するような魔物じゃないもの、仕方ないわ」


 ほうほう。


「普通は荒野とか、山の上とか、開けた場所にしかいない魔物なんだけどね」

「なんでそんなのがここに?」

「人間のやってる人工魔物製造実験の試験体でしょうね。

 あなたここにいるのにそんなことも知らないの?」


 そう言われても今日来たばかりだからなぁ。

 というか人間は魔物の製造をやっていたらしい。

 王城で白ずくめが、


「『魔物』とは、人間と同じく『祝福』を持ち、人を害す獣の総称です」


 って言ってたんだが、害獣を自分たちで生もうとしているってことじゃないか。

 少なくとも良いことではないだろう。

 何か悪の作戦でもあるのだろうか。

 

 というかこの美少女はなんでそんな極秘事項っぽいことを知っているんだ。

 何かの陰謀に触れてしまったのかもしれない……。


 美少女は喋りながらも俺を抱えて同じように大猪の突進を何回も回避し、しばらくすると俺を近くの木の下に降ろした。

 体勢を低くし、俺の常識を超えた速度で走り出す。


「逃げるだけじゃキリが無いわね!」


 木に刺さった牙を抜こうとしている邪猪に美少女が勢いよく蹴りを入れる。

 ズガァンと自動車が衝突したかのような爆音。

 これは効いたんじゃないか!?




〈名前〉試作品A12

〈Lv〉34

〈ステータス〉

HP 5821/6470

MP 2590/2590




「嘘だろ!?」


 大猪のHPは150ほどしか減っていない。

 やっぱりあの巨体相手じゃ無理があるか。


「1回じゃ効かないわよね! でも!!」


 邪猪を蹴飛ばした反動で美少女は木の枝へと飛び移る。

 木の枝が大きくしなり、美少女が再び打ち出される。

 そのまま美少女が邪猪パイアに蹴りを入れた。

 邪猪パイアの体が傾く。

 確かに効いている。


 またもや美少女は別の木の枝へと移った。


「はああああああああっ!!!」


 そのまま美少女は木の枝の反動を利用して何回も邪猪パイアに蹴りを入れる。

 邪猪パイアの体にだんだんいくつも傷ができていく。

 あの美少女、何者か分からないがメチャ強い。

 このままこの化物を倒せるんじゃないだろうか。


 何もできずにサンドバッグにされていた邪猪パイアがいきなり咆哮を上げて走り出した。

 だがさっきまでのようなスピードは無い。

 俺を狙ってもいない。

 何をする気だ?


 邪猪パイアは右に体を倒し、円を描くように走る。

 片方の牙が木に引っかかるが、牙はそのまま木を切り裂いた。

 そのまま同心円状に走り続け、木を伐採していく。

 

 もしかして、足場になる木を全部切り倒す気か!?


 美少女もそれに気付いたようだ。

 妨害ぼうがいするべく邪猪パイアに攻撃を仕掛けるが、使える木がだんだん減っていってやりにくそうだ。

 俺は何もできずに逃げ回っている……くそ!


「あっ!」


 踏み込んだ枝が細すぎたのだろう。

 足場を減らされたせいだ。

 美少女が折れた枝とともに落下し、尻餅をつく。


 邪猪は待ってましたとばかりに走るのをやめて反転、美少女へ狙いを定める。


 ヤバい!


 美少女が急いで立ち上がろうとするが間に合いそうにない。

 美少女が衝撃を抑えようと無理矢理その場でジャンプする。

 邪猪が真っ直ぐそこへ走り出した。


 体が勝手に動いていた。


 美少女に体当たりし、邪猪の走路から無理矢理どかす。

 美少女は軽く、簡単に吹っ飛んだ。


「!?」


 驚く美少女。

 驚く顔も可愛いな。


 衝撃に備え、腕をクロスさせる。


 邪猪の牙が俺の脇腹をかすめて引き裂いた。

 邪猪の鼻先が俺の胴体をとらえ、吹き飛ばした。


「つっ!!」


 16年間生きてきて初めて感じるレベルの激痛。

 肺から全ての空気が抜け、喉がひゅっと乾いた音を立てる。

 そのまま俺の体は宙を舞う。


 美少女が吹き飛ぶ俺を受け止め、そのまま抱えて大きくジャンプする。

 

 邪猪パイアは……?


 見ると邪猪パイアは衝突した木が腐っていたらしく、倒木の中に埋まっている。

 倒木をどかそうとしているので死んではいないが、しばらくは身動きはとれないだろう。


 美少女はそのまま俺を抱えて真っ直ぐに逃げる。


 雲が出てきたらしく、月明かりが弱くなってきた。

 微かにゴロゴロという音も聞こえてきた。


 美少女はしばらく逃げていたが大木を見つけるとそこに空いた大きな洞の中に入った。


 美少女が俺を横にして置く。


「あなた、おなかっ、大丈夫っ!?」


 そしてものすごく慌てた様子で安否確認する美少女。


「お、思ったよりは……大丈夫……」


 これは強がりじゃない。

 美少女を前にして強がりたいのは男の性ではあるが。


 牙は腹を掠めただけで傷は浅い。

 衝突の衝撃も、空中に跳び出していたおかげか緩和され、まだ生きていられている。


 突如、喉に何かがせり上がる。


「ゲホッッ! ゲホッッ!!」


 咳と一緒に真っ赤な液体が口から吹き出した。


「あ、あなた! 血!」


 吐血は全く止まらず様子はなく、ビチャビチャと流れ続ける。

 そういえば、スキル「吐血」の効果でいくら吐血しても血が足りなくなることはなかったはずだ。


「だ、大丈夫だから……」


 まったく説得力が無いことはわかっているが一応言っておいた。

 足元にだんだん血溜まりが広がっていく。

 嫌がられていないといいのだが……。


「?」


 顔を上げると、そこでは銀髪美少女が恍惚こうこつとした表情でこちらを見ていた。

 俺を心配する目じゃない。

 何か美味しいものでも見ているかのような……。

 俺の口元……いや流れ出ている血をじっと見つめている。


「ねぇ……吸っていい?」

「へ?」


 血を吸う?

 吸血鬼でしょうか。


「私ね、吸血鬼なの……」


 当たってた。

 まぁ異世界だもんな。

 いてもおかしくはないかもしれない。


「血を吸えばHPもMPも回復できるの……だからお願い」


 美少女が前のめりになる。

 顔が近い。

 油断すると今にも唇が触れてしまいそうだ。


 なるほど、だから血を吸いたいわけか。


「ええ……そう言われても……」


 口から血を垂れ流しながら考える。

 この娘に血を吸ってもらうのはもしかしたら正解かもしれない。

 

 この美少女はとても強い。

 俺がまるで敵わなかった黒狼を一撃で屠り、あの巨岩のようないのしし邪猪パイアにもダメージを与えていた。

 正直血を吸われるのは怖いが、このままでは2人もろとも、あの大猪に殺されてしまう。

 彼女が俺の血を吸ってHPとMPが回復できるというなら提供するべきだろう。


「じゃ……どうぞ」


 吸血鬼といえば首だろうとホックを外して詰襟つめえりを倒す。



 ────唇に柔らかい感触。


 キスされた。

 脳の処理が追いつかない。

 人生で初めての感覚が、快感が俺の神経回路を混濁させる。


 美少女は体を寄せ、俺の両頬に両手を添えてさらに強く吸い付いてくる。

 彼女の腕に嵌められた銀の腕輪が時おり頬に当たり、熱くなった顔を冷やす。


 ジュルジュルという音が微かに聞こえ、口内の血がどんどん吸い上げられていく。


 スキル「吐血」のおかげで吐血は止まらない。

 その流れ出る血全てを吸おうとせんばかりに、美少女は舌まで入れて血を吸い続ける。


 血を飲むたびにゴクゴクと動く美少女の喉の振動が、ドクドクと脈打つ俺の心臓の鼓動とシンクロする。


 身動きが全然取れない。


 抵抗できない。したくない。



《粘膜接触、血液摂取を確認》

《スキル「血盟」を発動し、“血盟”を結びますか?》

《はい/いいえ》



 うるさいな。

 俺のファーストキスだぞ?

 もっと楽しみたいから黙ってろ。

 勝手にしてろよ。



《肯定の意思を確認》

《スキル「血盟」を発動しました》

《“血盟”の初締結を確認》

《スキル「血盟」の発動条件、締結条件を「粘膜接触」「血液摂取」に確定しました》



 へいへい……。

 なんなんだよ、まったく……。


 快楽に溺れるようにそのままキスをし続ける。

 美少女の体は俺を完全に押し倒してしまっている。

 舌は今にも俺の喉まで入って来そうだ。

 ずっとこのままでいたい…………。

 

 突然の閃光。

 直後にゴロゴロという音。

 突然の刺激によって正気に戻った。


 そうだ、あの大猪はどこに────


 問いに答えるように倒木の音が鳴り響いた。

 かなり遠いが「聴覚強化Lv1」がある俺にはしっかりと聞こえる。

 その音は連続し、近づいてくる。


 アイツだ! まずい!!


 だが吸血少女は全然離れる様子はない。

 轟音ごうおんが近づき、その主がいよいよ姿を現した。

 降り被った木屑を体を震わせて払い、鼻をヒクヒクと動かしながら俺たちの姿をその目に映す。


 見つかった。


 逃げなくては。

 こんな木の中にいるのなんて、あいつのパワーの前には何の意味もない。

 突進を食らえば俺たちもこの大木も木っ端微塵だ。


 入口は1つ。

 邪猪パイアと目が合い、その体が走り出す構えをとる。

 もう逃げられない。


 邪猪が突進してくる。

 終わった────


「ありがとね」


 美少女が唇を離した。


 轟音。


 邪猪の巨岩のような体躯が宙を舞う。

 そのまま何本も木をなぎ倒して邪猪の体は落下した。


 何が起きたんだ。


 爆心地に目を向ける。

 脚を高々と上げ、邪猪パイアを蹴飛ばしたのは美少女だった。


「すごいわね……この力……!」


 小さな1人の少女が大猪を打ち飛ばしたことに脳が混乱し、理解できない。

 地球の常識とは完全に矛盾する。

 この世界に来てから理解の追いつかないことばかりだ。


 邪猪が体をゆっくりと起こす。

 少女に蹴られた鼻はひしゃげて曲がり、一部が陥没し、左の牙は根元から折れてしまっている。


 だが戦意はまったく失われていない。

 目に確かな怒気を宿し、殺気を美少女に向けた。

 そしてまたも突進の構えをとる。


「言い忘れてたわね、私の名前」


 邪猪が走り出す。

 少女の薄い体をつらぬかんと、1本になった牙が真っ直ぐに伸びている。


「私、『ショコラ』っていうの」


 少女は振り返って、美しい顔に天使のような笑みを浮かべながらそう言った。

 そして、いつの間にか振り上げていた腕を振り下ろして、邪猪パイアに人差し指を向ける。

 雷光が暗雲の中を走った。

 美少女の声が雷鳴を貫くかのようにとどろく。


「『誘雷針ライトニングロッド』!!」


 天から紫電しでんが真っ直ぐに落ち、ほこのように大猪の腹を貫く。

 痙攣けいれんした邪猪パイアの体は走力を失い、泥の中をそのまま滑る。

 滑ってきたそれを美少女は軽々と受け止めた。

 焦げ臭い匂いがあたりに立ち込める。

 雨が降り出した。


 あの雷撃は偶然じゃないだろう。

 あの美少女の力か? 強すぎる……


「あなた、大丈夫?」


 美少女がこちらに問いかける。


「う、うん、まぁ、なんとか……」


 呆気に取られてまともに喋れない。


「そっか、良かった。

 ところであなたの名前は?」


 美少女が微笑を浮かべながら尋ねてくる。

 泥にまみれた笑顔だ。

 だけど美しい。可愛い。


「俺の名前は千脇ちわきゆう……『【血】の』……『勇者』……」


 頭がうまく働かない。

 急に腹の傷が痛み出し、ドクドクと波打つ。

 体を支えていられない。

 美少女が慌てて駆け寄ってくるのが見える。


 あ、ヤバいかも…………。



 俺の意識は途切れた。




明日からも投稿続けるので、評価、コメント、レビューお願いしますm(_ _)m

コサックダンスさせてくださいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ