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2話 スキル「吐血」と「【血】の勇者」

今日は4話まで投稿予定です




〈名前〉チワキ・ユウ

〈Lv〉1

〈ステータス〉

HP 978/978

MP 957/957

攻撃力 484

防御力 510

魔出力 572

素早さ 603

〈スキル〉残100spt

「HP自動回復Lv1」「MP自動回復Lv1」「鑑定Lv3」「血盟」「止血Lv5」「吐血」「魔血Lv10」

〈称号〉

「【血】の勇者」




 いや何だよこの「祝福」……。


 まずは「ステータス」。

 全体的に凹凸が少なく、バランスがとれている。

 だが逆に言うと尖ったものがない。

 鶴城つるぎは攻撃力と素早さ、まもるは防御力が突き抜けて高かった。

 ゲームだと能力値が安定したキャラってのはだいたい弱い。

 これは器用きよう貧乏びんぼうというやつだろう。


 そして「スキル」だ。

 1つツッコミを入れさせてほしい。

 

「『吐血』って何だよォ!」


 周りが一斉にこちらを向く。

 ヤバい、声に出てしまった。


「ほう、『吐血』とは?」


 白ずくめが興味深そうに俺を見つめながら歩いて来る。


「ふむ、初めて見ますね」


 白ずくめが俺の鑑定画面を操作する。

 こいつ、白い手袋まで着けてるのか。

 肌が一切見えない。




「吐血」

・吐血する。吐血する血液を生成する。

・吐血速度は魔出力に依存する。




 いやほんと何だよこのスキル。

 名前のまんまじゃねえか。


「はっはっは! 役立たずだな!」


 王様が大声で笑っている。

 うるせえよ……俺が1番分かってるよ……。


「はははははは! 千脇ちわき、クソスキルじゃねえか!」

「『吐血』ってさすがにねえ(笑)」


 クラスメイトもそれに追随ついずいして笑っている。

 うるせえなあ。


「お、これは面白い『スキル』ですねえ」


 操作を続けていた白ずくめがつぶやく。

 白ずくめの後ろからみんなが画面をのぞき込む。




「血盟」

・任意の対象と“血盟”を結ぶ。

・“血盟”発動時、発動者全員のHPとMPは共有される。

・“血盟”発動時、発動者全員のHPとMP以外のステータスを上昇させる(最大+150%)。

・同時発動可能人数は自分含め6人。




 貴族たちも白装束も、さっきまで笑っていた王様もクラスメイトも息を呑むのがわかる。

 仕方ないだろう。

 このスキルは、強い。


「なんだよあれ……チートじゃん」

「ほう……」


 貴族たちの俺を見る視線が急に変わる。

 さっきまでは視界にも入れようとしていなかったが、今は俺を狙う肉食獣を連想させるような視線だ。


 ステータスを最大+150%上昇。

 凄まじいスキルだ。

 ステータスの効果が凄いことはさっき見せられたばかり。

 ステータスを2倍以上に上昇させるこのスキルはこの世界において、まさしくチートだろう。


 大当たりだ。

 全く戦闘系ではなく支援型だが悪くない。

 俺はこのスキルで無双す────


「いや、このスキルは少し使い勝手が悪いかも知れませんね」

「へ?」


 降ってきた幸運に酔っていた俺を正気に戻す白ずくめの声。


「スキルの発動条件が厳しいです」


 白ずくめが画面を操作して見せてくる。




「“血盟”発動条件」

・肉体接触または体液摂取と、発動者の任意が“血盟”を結ぶ条件。

・肉体接触が濃厚であればあるほど“血盟”発動時のステータス上昇値が上がる。

・“血盟”発動条件は、初めて“血盟”を結んだ際に確定する。




 肉体接触とか濃厚とか……もっと他の書き方は無かったのか……?

 ほれ見ろ、女子が引いてる。


 しかし問題なんて特に無いんじゃないか?


「発動条件とステータス上昇値の関係を見てください」


 白ずくめがさらに画面を操作する。

 ふむふむ。




「発動条件によるステータス上昇値と発動時間」

〈肉体接触〉

・粘膜接触 +15% 3分

・外皮接触 +5% 1分

〈体液摂取〉

・血液摂取 +15% 3分

・血液以外の体液摂取 +5% 1分




 うわぁ……。

 周りがドン引きするのを肌で感じる。


「何あれ……キモっ」

「願望漏れすぎだろ(笑)」


 うん確かにこれはキモいわ。

 体液とか粘膜とかさ。

 だとしても聞こえるように言うなって。

 いや、願望とかじゃないし……。

 俺の心が限界だから……。


「いささか発動時間が短すぎます」


 白ずくめの指摘。

 あ、そっち?


「幸い、連続発動は可能なようですが、戦場で何度も肉体接触を行うことは難しいです」


 言われてみれば確かにそうだ。

 戦いの中、呑気のんきにキスしたりなんだりはできないだろう。


「また、HPとMPが共有されることも問題です」


 ん?


「なぜですか? HP切れもMP切れも起こさないないのは利点だと思うんですが」


 あ、声に出してしまった。

 まあいいや。

 だがこれは聞いておきたかった。

 周りの何人かも俺と同じ疑問を持ったみたいだしな。


 白ずくめが分かりにくく、こっそりと溜息する。

 聞こえてんぞコラ。


「失礼ですが、チワキ様のステータスはお世辞せじにも高いとは言えません。

 『勇者』の称号で強化されてはいますが、高レベルの相手には太刀打ちできないでしょう」


 聞いたところによると、称号「勇者」には全ステータスを+30%するとかいうバケモノ効果があるらしい。

 俺はそれで強化されていても足りないステータスってことだな。

 ぐうの音も出ない。


「また、戦闘系のスキルも保持していません」


 ちなみに俺が称号「【血】の勇者」で獲得した残り2つのスキルの効果はこれだ。




「止血Lv5」

・出血を止血する。


「魔血Lv10」

・血液にMPの一部を含有させる。




 ……正直、戦闘力はゼロである。

 戦闘では完全に足手まといだろう。


「『血盟』を継続させるためにはチワキ様には前線に出ていてもらう必要があります」


 そうだな。「血盟」はすぐに切れてしまう。

 効果が切れそうになったらすぐに次の「血盟」を発動させるためにも前線でいっしょに戦うのが現実的だろう。


「しかし、チワキ様は戦闘には不向きです。

 敵兵と接触した場合、簡単に敗北することが予想されます」


 返す言葉もありません。


「問題はここからです。

 敵兵がチワキ様を執拗しつように攻撃した場合、HPを共有している者たちにもダメージが行きます」


 なるほどそういうことか……。

 つまり、


「チワキ様が皆の弱点になってしまうのです」


 俺1人が攻撃されただけで、6人まとめてやられるリスクがあるわけだ。

 というかその可能性の方が高い。


「ですから実戦ではそのスキルは使えないでしょう」


 白ずくめがそう締めくくった。

 空気が冷めるのがわかる。

 もう誰も俺には興味を持っていない。


 クソ、当たりだと思ったんだけどなぁ。

 ガッカリだ。

 まあ、俺みたいな普通なやつが活躍しようと思っても無理があるか……。


 うなだれていると歓声が聞こえて来た。


「素晴らしい……」

「うわ、すげえ!」


 目を向けると、騒ぎの中心にいるのは飛間ひまさんだった。

 大騒ぎされて焦っているみたいで、わたわたしている。

 可愛い。


 しかしあんな騒ぐとかどんな「祝福」なんだ?

 人混みを抜けて鑑定画面を覗く。




〈名前〉ヒマ・チヨコ

〈Lv〉1

〈ステータス〉

HP 1123/1123

MP 1175/1175

攻撃力 619

防御力 572

魔出力 588

素早さ 572




 ステータスはそんなにだな。

 どこも突出していない器用貧乏タイプだ。

 素早さ以外全部俺より高いけどな(笑)。


「どれどれ、スキルは────」


 人と人の隙間に上半身をねじ込む。

 ちょっときつい体勢だ。

 根性で顔を上げる。




〈スキル〉残100spt

「HP自動回復Lv1」「MP自動回復Lv1」「拡張」「空間魔法Lv5」「縮小」「瞬間移動Lv5」

〈称号〉

「【間】の勇者」




 ほえ?


「『【間】の勇者』……凄まじいですね」


 体を起こすと、ちょうど隣あたりに白ずくめがいた。

 にしても見るからに強そうなスキルだ。

 特に────


「まさか『空間魔法Lv』を獲得しているとは」


 聞くからに強そうだ。

 マンガならラスボスが使うようなやつだろう。


 飛間さんは何が凄いのか分からないといった顔をしてキョトンとしている。

 マンガとか見なさそうだもんなあ。

 可愛い。


 白ずくめが解説を始める。


「『空間魔法Lv』は空間や時空に作用する魔法スキルです。

 とても希少で1000人に1人しか適応者が存在しないと言われています」


 それを聞いて飛間さんの目が見開かれる。

 飛間さんだけでなく俺とクラスメイトも。

 貴族や白装束たちは当然だというように頷いている。


「そんな希少魔法を獲得しているだけでなく、スキルレベルが5!

 実戦で十分に扱える領域です」


 白ずくめが興奮しているのがわかる。


「あとの『瞬間移動Lv5』も素晴らしいです。

 こちらも希少スキルで、使い手の数が戦争の戦局を左右すると言われているくらいです」


 白ずくめが大きく深呼吸して呼吸を整える。


「今回の『勇者』の皆様には期待できそうですね」


 その視線の先に俺はいない。


「ひまっちスゴい!」

「委員長勝ち組じゃーん、いいなー」

「さすが飛間さんだね」


 歓声が聞こえ、だんだん離れていく。

 もういいや……。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 俺たちみんなの「祝福」のチェックが済んだ。


「トワちゃんスゴいねー!

 全部の『魔眼』を持ってるなんて!」

ひいらぎいいなー。

 『【冬】の勇者』とかかっk「黙って」」

「鶴城くんのステータス、すっごい高いんだね!

 さすが鶴城くん!」

「衛ぅ、お前防御力1000超えとか反則だろー!」

矢島やじまお前ほんとに弓矢とか使えんのか?

 集中力ないだろ」

「うっせぇ、『【弓】の勇者』だからなんとかなるんだよ!

 百発百中なんだし!」

「飛間ちゃんズルくないー?

 やっぱ天才は違うなー」

「そ、そんなことないよ……【熱】もすごいと思うよ!」


 俺は一応、俺みたいにハズレを掴まされたやつが結構いるのではないかと期待をしていた。


 結論を言おう。

 ……チートばっかだわ!


 見劣りするような者はいたが、俺レベルのハズレはいなかった。

 最悪だ……。

 地球では一応平均クラスだったのにここでは底辺か……。

 帰りたい……。


 ずっと黙っていた王が玉座から立ち上がって前に出てくる。


「『勇者』たちよ!

 我は諸君の絶大な力に大いに期待する!

 どうか人類を救済してくれ!」


 カリスマと言えばいいのだろうか、身体も心も震え、奮えるような、そんな声だった。

 勝手にやる気が出てくる。

 伊達に王様やってるわけではないということか。

 いや、何かのスキルかもしれないな。


 王の少し後ろから白ずくめが出てくる。


「『勇者』様方にはしばらくの間、“祝福”を鍛えるべく、王城にて訓練を受けて頂きます。

 衣食住はこちらで揃えますのでお気になさらずに「お待ち下さい」」


 初めて聞く声が白ずくめの話の腰を折る。


「大司教殿、お話の途中に申し訳ない」

「構いません、宰相さいしょう殿」


 出てきた男は宰相だった。

 宰相ってことは政治のトップか。

 デスクワークばかりだろうに意外と筋肉が付いていてガタイが良い。

 茶のひげを濃く生やしており、渋い顔立ちだ。


 あとあの白ずくめ、大司教なのか。


「王国は度重なる魔族との戦によって疲弊ひへいしています。

 国庫にはここにいる全ての『勇者』様を養う備えはもはやありませぬ」


 ってことはまさか。


「先程の鑑定結果を元に『勇者』様の選別を行うことを請願せいがんします」


 え、それって────


「つまり役立たずな奴は除外するってことか」


 誰かの呟きが耳に届いた。

 待ってくれ。

 それはマズイ。


 周りの何人かが俺を見ているのがわかる。


「宰相の言う通りであるな」


 身体の芯から震わせる渋い低音。

 王が再び立ち上がった。


「選別は我の目から行おう。

 名前を呼ばれた者は返事をせよ」


 やめてくれ、やめてくれ。


「『【酔】の勇者』サカヤ・キミカズ

 『【柱】の勇者』カワヒト・ニエ

 『【脚】の勇者』ヒマル・シュン

 『【きのこ】の勇者』ホウライ・マユミ」


 知っている名前が連なっていく。

 やめてくれ、やめてくれ────


「そして、『【血】の勇者』チワキ・ユウ」


 あ、終わった。

 詰んだ。


 誰も返事はしなかった。

 王は軽く鼻を鳴らし、玉座へ座ろうと背を向ける。

 だが、その背へ発狂したような声がかかる。


「待ってください!」


 宝来ほうらい繭実まゆみ、俺と同じく外された勇者だ。


「選別ってどういうことですか!?

 勝手に連れて来て、勝手に選んで捨てて!

 私たちをどうするつもりなんですか!

 まさか放逐するつもりじゃないでしょうね!!」


 激情をあらわにして宝来が叫ぶ。


「そんなことするんだったら元の世界に返して下さい!

 この世界のことなんて知りません!!」


 宝来は大企業の社長の一人娘だ。

 そして箱入り娘。

 こんな扱いはとてもじゃないが耐えられないのだろう。


 ため息が響く。


 1人じゃない。

 その場にいる生徒以外の異世界人、その全員がため息をついた。


「残念ですが貴方たちを帰すことはできないのです」

「なんでですか!?」


 王に代わって白ずくめが返答する。

 そして宝来の問いに答える。


「貴方たちの召喚には実は幾人いくにんもの生贄いけにえを用いています」

「は?」

「『勇者』を召喚するには人の命を使うのですよ。

 貴族からは各家1人ずつ、教団からも30人強ほど差し出しましたかね。

 私の妹の命も使いました」


 は。


「人類の未来のためです。

 私も涙を呑んで妹を送り出しました。

 ですが召喚された『勇者』の何人かはとても扱えない性能の役立たず」

「っ」


 宝来が歯を食いしばって白ずくめの言葉に悔しがる。


「あまつさえ、自分たちを帰せと言い出す始末。

 帰るのにも同数の生贄を必要とするのに、です。

 怒りさえ感じますよ私は」

「わ、私は、帰るのに人の命を使うなんて知らなくて……」

「だからこそ『魔王』を討ち、その命を使うのです。

 ご理解頂けたか、『【茸】の勇者』」


 宝来が納得していない顔で下がった。


 まさか人の命が使われていたなんて知らなかったのだろう。

 俺もだ。

 そんなことを言われたら申し訳なくさえ感じてきた。


「お前たちを国で『勇者』として庇護することはできん。

 幾らかの路銀はやろう。

 どこへでも行くがいい。

 分かったか勇者たちよ」


 王がそう締めくくる。


 お金はくれるらしいが、知らない世界に、役に立たないスキル、そして俺はまだ高校生で経験も浅い。

 とても生きていけるとは思えない。


 ここまでか。


「お待ちください、王よ」


 救いの声が聞こえた。




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