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1話 俺の「祝福」、詰んでない?

処女作です。

楽しんでいただけると嬉しいです。




「いらっしゃいませ! 『勇者』様!」


 気付くと見知らぬ大広間にいた。


「よく来た! 『勇者』諸君!」


 そこにいたのは王様だ。

 大きな真っ赤なマントを引きずり、顔にはちょびひげ、重そうな王冠をつけている。

 絵本に出てくるような、王様のイメージそのものな王様だ。


 なんだ。この状況は?


「すいません」


 少し隣の方から声がした。

 クラス委員長、鶴城つるぎ瑛介えいすけだ。


 そう、そこにいたのは俺だけじゃなかった。

 20人ほどだろうか。クラスメイトたちだ。

 みんな不安そうにキョロキョロとあたりを見渡している。


「俺たちはさっきまで教室にいたはずなんですが、ここはどこですか?」

「ここは我が城、ロアルド王城だ」


 そしてやはりここは王城か。

 ファンタジー映画などに出てくる西洋風の城のイメージそのままだ。


 壁際には豪奢ごうしゃな服装に身を包んだ貴族らしき人達が並び、吟味ぎんみするように俺たちのことを睨んでいる。


 だが一番目に付くのは白だ。

 俺たち生徒を囲むように立っている白装束しろしょうぞくたち。

 服には金の糸で刺繍が入っていて、高い身分であることが予想できる。

 白装束が1人、歩み出る。


「貴方たちは私たち『神官』による召喚魔法によって喚び出されたのです」


 1歩前に出た白装束が大きな声で説明してくれる。


 こいつだけ白い帽子のようなもので顔まで隠していて、全身白一色だ。

 身に付けている宝石も特に多い。おそらく神官たちのリーダーだろう。

 仮に「白ずくめ」と呼ぼう。


 オドオドと生徒の中から手が挙がった。


「しょ、『召喚』って……どういうことですか?」


 おどおどした声で疑問を口にしたのは女子のクラス委員長、飛間ひま千代子ちよこ

 黒髪を肩くらいの長さに揃え、制服は全然気崩していない。

 眉目秀麗、成績優秀な特進科の星だ。まさに委員長。


「召喚は召喚です。

 遠方から目的のものを引き寄せる魔法……そういえば皆様の世界には無いのでしたね」

「あ、はい……」


 飛間さんは理解が追いつかないといった様子で手を下ろした。


「何のために、俺たちを?」


 イケメン委員長、鶴城がストレートに疑問をぶつける。


「『勇者』として戦い、魔族、そしてその王である『魔王』を打ち倒して頂くためです」


 ゲームのような返答が返ってきた。


「みなさんは別宇宙より召喚され、強大な力を持つ『勇者』です」

「俺たちはただの高校生ですよ? 戦う力なんてありません!」


 そうだ。

 俺たちはただの高校生、「勇者」だなんだのと言われても困る。


「実際に見てもらった方が良いでしょうね」


 白ずくめがパチンと指を弾く。

 すると、いつの間にかいなくなっていた白装束たちがぞろぞろと入って来た。

 全員、手には石でできた箱のようなものを持っており、それを生徒たちの前にそれぞれ1つずつ置いていく。


「これは?」

「一般市場で『鑑定石』と呼ばれるもの、その中でも特に高い品質のものです」

「はあ……?」


 箱は白色の石でできており、表面はサラサラと触り心地がいい。

 上の面にだけ手形が描かれていて青く発光している。


「そこに手を置いてみてください」


 みんな不安そうに顔を見合わせるが、白ずくめにうながされるように手を置く。


 体を青い光が走る。

 まるでコピー機やスキャナーの光のようだ。

 そして目の前に緑の画面が表示された。


 「わ!」「何これ!?」と、みんなが警戒をあらわにした声を上げる。


 対照的に王や貴族、白装束たちはじーっとこちらを値踏ねぶみするかのように静かに見つめている。


「そこに表示されているのはみなさんが神からたまわった力、『祝福しゅくふく』です」


 急に神とかが出てきた。

 そう言えば、この白装束たちの不自然なまでに統一された衣装は、何かの宗教のものなのだろうか。


「この世界には個々人に『Lvレベル』があり、それを伸ばすことで様々な力を得ることができます」

 

 画面を見ると確かに、「〈Lv〉1」と書かれている。


「得られる力は主に2つ。『ステータス』と『スキル』です」


 また画面を見ると確かに〈ステータス〉と〈スキル〉の表示がある。

 

 しかしなんだ、ステータスとかスキルとか。

 まるでゲームみたいじゃないか。


 それにこの画面だって謎だ。

 中空に緑の画面のみが映っており、横からのぞき込んでみても、その厚さはない。

 少なくとも地球には無かったものだ。

 地球とは別の世界に来たというのは本当らしい。


「なんですかこの『ステータス』とか『スキル』とか。ゲームですか?

 からかわないでください!」


 少し感情的になって白ずくめに話しかける鶴城。


「分かりました。実演いたしましょうか、『【剣】の勇者』様」


 【剣】の勇者様と呼ばれた鶴城は、あからさまに警戒した目で白ずくめを睨む。


「ではスキルを発動してみましょう。

 勇者様、『創造剣そうぞうけん』と言ってみてください」


 白ずくめは鶴城の鋭い視線はまるで気にせずに冷たくそう言い放つ。

 生徒たちは訳が分からないといった顔。貴族や白装束たちは「もったいぶるな」と顔に出ているかのようだ。


「…………『創造剣』」


 鶴城がボソリと呟くと鶴城の手が突然光に包まれた。

 謎の光は次第に十字に伸び、剣を形づくる。光が止むと鶴城の手には両刃剣が握られていた。


「これこそが『祝福』、神から与えられた異能、『スキル』です!」


 俺は人混みから身を乗り出し、鶴城の前に表示されていた画面を覗く。




〈名前〉ツルギ・エイスケ

〈Lv〉1

〈ステータス〉

HP 1082/1082

MP 1165/1165

攻撃力 701

防御力 582

魔出力 530

素早さ 720

〈スキル〉残100spt

「一刀流Lv5」「HP自動回復Lv1」「MP自動回復Lv1」「鑑定Lv3」「剣豪Lv1」「剣才Lv10」「創造剣」「斬鉄Lv5」「二刀流Lv5」

〈称号〉

「【剣】の勇者」




 確かに“創造剣”というスキルがある。

 名前から察するに剣を作るスキルだろうが……マジなのか。


 超常現象を目の当たりにして驚きが隠せない。

 鶴城自身も戸惑っている。


「『スキル』についてはこれで分かってもらえたかと思います。

 では『ステータス』について説明いたしましょう。

 『【護】の勇者』様、前へお願いします」


 白ずくめの呼び掛けにビクッと体を震わせ、城島じょうしままもるが前に出る。

 城島衛はうちのクラスでも特に大柄で少し太り気味の男子だ。気は弱いが優しく、みんなから好かれている。


 そうやって考えている間に衛はちょこちょこと歩いていき、白ずくめの前まで来る。

 白ずくめは白装束を1人手招きし、何やら耳打ちしている。


 するといきなり、その白装束が走り出した!

 ひらひらした服の下から走りながら木刀を取り出し、真っ直ぐに衛へ向かう。


 ヤバい、められた!


「危ない!」


 咄嗟とっさに叫ぶがもう遅い。

 視界の端に鶴城が走り出しているのが見えるが間に合わない。

 白装束は衛に真正面から接近し、思いっ切り木刀を振り下ろす。


「うわぁ!」


 衛の情けない悲鳴。

 そしてバキッという乾いた音が響いた。

 木刀が折れた音だ。


 折れた木刀が宙を舞う。

 駆け付けた鶴城が目を見開き、衛を殴った白装束を思いっ切り殴り飛ばす。


「大丈夫か城島くん!!」


 鶴城が衛に駆け寄る。

 委員長のチョ────飛間さんも慌てて駆け寄ろうとするが、救急セットを持っていないことに気付いて青くなる。


 衛が鶴城の顔を覗き込む。


「あれ? あんまり痛くない?」


 衛が開口一番にそう口にする。


「そんなわけないだろ!

 あんなに強く殴られたんだ、すぐに病院に────」


 そう言いながら衛が殴られた後頭部を見る鶴城。

 いきなり、その真剣な顔から緊張が抜けた。


「傷どころか、たんこぶもない?」


 鶴城は驚いた顔で立ち尽くす。

 衛は本当に平気そうな顔で立っている。

 本人も信じられないといった様子だ。


「『【護】の勇者』様の『祝福』をご覧下さい」


 白ずくめの言葉で全員が一斉に衛の“鑑定石”を覗く。




〈名前〉ジョウシマ・マモル

〈Lv〉1

〈ステータス〉

HP 1227/1227

MP 1061/1061

攻撃力 494

防御力 1007

魔出力 510

素早さ 478

〈スキル〉残100spt

「HP自動回復Lv1」「MP自動回復Lv1」「頑丈Lv10」「強靭Lv5」「堅牢Lv10」「堅牢堅固Lv10」「攻撃結界Lv10」「庇護Lv10」「防刃Lv5」「魔撃結界Lv10」

〈称号〉

「【護】の勇者」




 鶴城とは全然違ったステータスにスキル。

 特に目を引くのは4桁に達した「防御力」だ。


「彼には皆様に『ステータス』を伝えるために協力してもらいました。

 『【護】の勇者』ジョウシマ様、御無礼をお許し下さい」


 白ずくめが1歩前に出て頭を下げる。


「あ、はい。まぁ、怪我もしてないし……」


 衛の許しを得ると、白ずくめは俺たちに向かって手を広げて語り出す。


「皆様もご覧になられたでしょう。

 『【護】の勇者』ジョウシマ様は高い防御力をお持ちですので、木刀で殴られたくらいでは傷一つ付かないのです!」


 白ずくめは起きたことがさも当然のことであるかのように説明する。


「スキル『強靭Lv5』のおかげで打撃は無効化されますしね。

 それよりも大変なのはあちらでしょう」


 白ずくめの隠れた視線の先を追うと、先ほど衛を殴った白装束が壁に叩きつけられた格好で横たわり、他の白装束たちに介抱されていた。


 鶴城に殴られて吹っ飛んだらしい。

 でも飛距離がおかしい。

 10メートル近く飛んでいる。


「彼は入団したばかりで〈Lv〉も1なんです。防御力はせいぜいが400といったところでしょう。

 攻撃力701のツルギ様に殴られたのですから、ああもなります。

 皆様、これが『ステータス』の力です」


 みんなが唾を飲み込む音が聞こえる。


「貴方たち『勇者』は常人をはるかにしのぐ『ステータス』、特別な『スキル』保有しています」


 みんなが自分の手元の画面を食い入るように覗き始める。


「皆様が人類の最高戦力、最後の希望です!

 どうか私たちをお助け下さい!」


 みんながそれぞれ顔を合わせる。

 さっきのような警戒や不安は少ない。

 その顔にあるのは自分の得た力に対する期待だ。


「言い忘れていましたが、『魔王』を打倒したあかつきには、皆様全員を元の世界に帰すことを約束(いた)します」


 タイミングを図っていたのだろう。

 その発言ひとつで生徒たちの緊張が緩んだ。


 「別にいいんじゃね」と誰のつぶやきか分からない声がこぼれた。

 「だって戦わないと帰れないらしいし」

 「まぁ負けないでしょ。あれ見たらねー」

 ひとりひとりの呟きが重なって全員の総意になっていく。


 見れば皆、満更でない顔をしている。


 白ずくめが1歩前に出てくる。


「協力して頂けるようで感謝致します『勇者』様方!」


 白ずくめと共に何人かの白装束が歩み出る。


「では皆さん、『祝福』のチェックを続けましょう」


 白ずくめの一言で生徒たちが一気に活気づく。

 近くの友達に話しかけ、お互いの“祝福”を見合う。

 あるところからは「これってチートじゃね? おっしゃあ!」、あるところからは「はぁ? なんだよこれ」と様々な声が聞こえてきた。

 ひとりは喜びの声を上げ、ひとりは残念そうに呟きをこぼす。


 誰もが“勇者”になった自分に期待している。

 これから来る非日常を待ち望んでいる。


 まるでマンガみたいな話だ。

 まるでゲームみたいな世界だ。


 この世界は日常に飽き飽きしていた俺たち高校生への特効薬だ。

 この世界なら自分も主人公になれると誰もが期待している。


 俺もそんな人間のひとりだ。

 俺の冒険はここからなのだ!


 ところで。




〈名前〉チワキ・ユウ

〈Lv〉1

〈ステータス〉

HP 978/978

MP 957/957

攻撃力 484

防御力 510

魔出力 572

素早さ 603

〈スキル〉残100spt

「HP自動回復Lv1」「MP自動回復Lv1」「鑑定Lv3」「血盟」「止血Lv5」「吐血」「魔血Lv10」

〈称号〉

「【血】の勇者」




 ……俺の「祝福」、詰んでない?




評価やレビュー、コメント貰えたら嬉しくてコサックダンスします(体が硬いからできない)。

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