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とある錬金術師の渇望

裏話要素が強い話です。

 

 ──シルフェリアを殺すのはこの俺だ。彼女は自分の半身。誰にも渡すものか。


 ハンスの靴を握りしめながら、ライザードは叶えられない願いを抱き、この世から去った。



 ***


 ライザードの人生は、常に死と隣り合わせだった。


 赤目ではないという理由だけで産まれた瞬間から殺されかけ、匿ってくれた母親も父親に背中を剣で貫かれ死んだ。五歳の時だった。


「出来損ないのお前に価値を与えてやる。私の完璧な姫の(つがい)だ。姫を守り子を成せ」


 冷酷な言葉にライザードは蒼白になり、彼の剣が作った血だまりをずっと見ていた。


 赤の王宮で暮らしても、不出来と罵られ、鞭で打たれる日々が続いた。自分の背中は癒えない傷だらけになる。


 十二歳で戦場に出たときも、兵士百人の首を並べよ、と命令された。できなかったら、自分の首を差しだすしかない。身の丈に合わない剣をふり、いつも死にかけた。


 一方、シルフェリアは完璧な姫だった。


 白すぎる肌に大きな紅玉の瞳。赤い髪は燃える炎のようで、赤の王国に君臨する女性神のようだ。知性も豊かで、幼い頃から天文学、錬金術を学び、英雄──初代赤の王を支えた正妃(錬金術師)の再来とまで呼ばれた。


 彼女は王妃の器を持った人間。琥珀の瞳の自分とは違う。


 彼女を見ると劣等感に苛まれるというのに、眩しい笑顔に目が離せなかった。


「お兄様」と、呼ばれるたびに鼓動は早まり、名前のつけられない感情が駆け巡る。

 それは恐れともいえるし、慕情や、憎しみとも言えた。


 大事に守りたいとも思うし、バラバラに壊してやりたいとも思う。


 これは愛なのだろうか?


 彼女が大人になり、女の顔で自分を見るようになると思いは加速した。

 細い腕を捻り上げて押し倒し、彼女の全てを自分の支配下におきたくなる。清らかな体をぐちゃぐちゃに汚せたら、さぞかし快感だろう。


 だが、母の死が思いを踏みとどまらせた。



 彼女を妻にしても、先の未来は暗いままだ。

 子供ができても赤い瞳を持っていなかったら、その子は殺されるだろう。彼女に似た子供なら、惨い目にあわせたくない。だが、王から隠しきれるのか。


 微笑みを失くした母の姿が彼女と重なる。


 赤の王に彼女を奪われるくらいなら、ひとつに結ばれる瞬間に彼女と共に死にたい。


 それは甘美な願いだった。



 結婚式が迫るにつれ憂鬱になり、背中の傷がうずいた。だから、首まである服を着て、彼女の視線を遮った。



 そんな焦れた日々は唐突に終わる。

 青の騎士は全てを壊した。




(っ……まずいな……手に力が入らない)


 後方を任されていたライザードは肩の痛みに眉根を寄せた。出立前に赤の王に鞭を打たれた箇所がひどく痛んで、利き手の握力が落ちている。


 それなのに状況は絶望的だった。先陣をきった赤の王が倒され前線は崩壊していた。青の騎士は魔物の力を借りて、奇妙な透明の波を発動させているらしい。粒子が煌めく波に触れると、痛みはないが、休眠をとった騎士は次々と死んでいた。


 眠ると死ぬという緊迫は、無敵を誇っていた赤の王国騎士団を脆く瓦解させた。


「青の騎士がこちらにくるぞ!」


 一人の騎士が叫びながら駆け寄ってきて、遠くに青い旗が見えた。


 ライザードは混乱する兵を率いて後方に下がったが状況は最悪だ。勢いづいた青の騎士に押されこのままでは全滅する。


「ハンナ! シルフェリアをあの塔へ連れていけ!」


 女官のハンナを呼び出し、ライザードは叫ぶ。


「あの波は高くは上がらない。塔の最上階に行けばシルフェリアは──」


 助かるかもしれない。だが、それは彼女の為になるのか。一人残され、屍の上で彼女は何を見るのか。


 守りきれないなら──いっそ、この手で。


 迷う自分にハンナが強く言う。


「わたしがシルフェリア様の身代わりになります」


 彼女は深い傷のはいった顔を上げて叫ぶ。


「こんなことで、崇高なる赤が滅びるわけございません! シルフェリア様がきっと、きっと! 生きて青に鉄槌を下します! あの方を赤のメシアに!」


 ハンナは自分の制止を振りきり駆け出す。止める暇もなく、青の騎士が押し寄せてきた。力の入らない手で応戦したが、長くは持たなかった。



「ぐっ……!」


 地面に叩きつけられ、兜を被った青の騎士に脇腹を刺される。苦痛に喘ぎながら顔をあげると、青い双眸と視線が絡んだ。


 その一瞬で察した。

 これは自分だ。

 彼女を渇望する自分の姿だ。


「あなたを倒して姫は救い出します。あの方は狂気に囚われてよい方ではない」


 ライザードは口の端を持ち上げる。


「……救う? はっ……そんな目をしてシルフェリアを救うというのか……」


 笑わせる話だ。


「殺して自分だけのものにしたいの間違いだろ?」


 そういうと兜の男は別の剣をだして、自分を貫いた。


「お前と私を同じにするな!!」


 叫びながら背中に剣がささる。急所をわざと外され苦痛が長引く。ライザードは男の靴を掴み渾身の力で握った。


「っ!!」

「……お前にシルフェリアを殺させるか……シルフェリアを殺すのは──」


「黙れ!!!」


 急所を貫かれて、びくんと体が跳ねた。




 後悔した。

 この男に奪われるくらいなら、さっさと彼女に手をかけておけばよかった。


 男はあの肌に唇を寄せ、彼女の体を我が物顔で支配するだろう。


(そんなこと……許せるか……)


 ライザードの眼から渇望の涙がでる。頬に伝った涙は額から出た血とまじり、赤い液体となった。




 兜の男は忌々しげに足を振ると「姫を探せ!」と声を出した。「死んだなんて、嘘をつくな! 探せ! 探すんだ!」との声もする。


 兜の男がいってしまうと、勝利に酔いしれた青の騎士が死体の山を作った。


「狂王信者どもを一掃してやったな。支配されることに慣れきった愚かな連中だ」

「赤の王子の死体を頂上にしようぜ。勝利の旗印になる」


 動かなくなった体は兵士に運ばれ、見せしめにされた。










「それほどの執念をもっていながら果てるなんてね。まさに悲劇だ……」


 ライザードのそばに一人の少年が近づく。彼はフラスコを頬にあて、赤い涙を中に入れた。


「真っ赤だ。完成された賢者の石みたい」


 声は静かに言った。


「君の一番の願いを叶えてあげるよ。きっと、彼女もそれを深く望んでいる」


 哀愁を帯びた声は空気にとけ、誰もいなくなった。



 ──────……




 泣きつかれて眠るシルフェリアの頭を撫でながら、ライザードはこれまでのことを振り返っていた。


 白い髪を見ると、内に秘めた黒い力がゾワゾワとでてくる。黒いものは彼女の服の中に入り、心臓の辺りまでくると、パックリと口を開いた。


 ──食らいつきたい。欲がよだれを足らして、彼女の鼓動を止めようとする。


 ライザードはしばらくその状態で彼女を見つめた後、黒い力を引っ込めて泣きそうな顔をした。


「お前を見ると殺したくてたまらない。だけど、お前の心からの笑顔も俺はみたいんだ」


 矛盾した思いに名前をつけるとしたら、何になるだろうか。わかるのは、きっと自分は彼女を殺せないということだけ。


 なぜ、自分達は別の肉体に分かれてしまったんだろう。魂ごとひとつになれば、渇望は満たされるというのに。


 そんな思いがあるからか、自分の魂は天上へ行かずフラスコの中に留まったのだが──飢えは満たされなかった。


 彼女の体を青の騎士が抱くたびに、彼女の心が彼に傾くたびに、肉体がないのが口惜しくて力を欲した。



「だから、フラスコの色が黒くなっていたのか」


 不意に声をかけられ顔をあげると、腕組みをしたカミサマがふよふよ浮いていた。彼は不満そうに眉をつり上げる。


「ったく、すっかり騙された。……まさかシルフェリアにあげた黒い力をフラスコに張り付けて、記憶を戻すタイミングでそれを吸収するなんてね……執念深い奴だ……」


 トゲのある言葉に肩をすくめる。


「意識したわけではない。ただ、無性に力が欲しかっただけだ。英雄や精霊。神さえ殺す力を」

「……そう。君が得た力は、彼らを生み出した作者と同じもの。だからある意味、世界最強だ。作者が文字を消せば、彼らは簡単に消えちゃう存在だからね」


 カミサマは悲劇で終わったシルフェリアとライザードの恋物語の続きを書いた人だ。その世界のあり方をライザードは理解していた。


 そして、付け加えられた物語は二人に立ちはだかったものに、死と腐敗を与えて、終わりを迎えようとしている。


 カミサマはぽんっと手のひらにペンと白い紙をだした。坩堝(るつぼ)と混ぜ棒まで出して、そこに紙とペンを投げ入れ、棒でかき混ぜる。坩堝の中には七色の液体だけが残り、それをフラスコに注いだ。液体はフラスコの中でぐるぐるうねり、にっと笑った。


 カミサマはフラスコを差し出す。


「僕の力のすべてをあげる。ここから先の話は自分達で決めなよ」


 驚いていると、カミサマはふっと笑った。


「嫌なやつはみんな滅ぼして、二人だけになるのもいい。魂を同化させることだって叶うかもしれない」


「子供を持って、親になるのだって可能だよ?」


 にっと笑った顔をみて、ライザードの目が見開いた。


「君は賢者の石(願いを叶える力)を手にいれた錬金術師だ」


「悲劇を笑い飛ばして、幸せになりなよ。君は自由になったんだ」


 自分を後押しする言葉にライザードは口の端をあげる。ひとつの覚悟を胸に秘め、彼は一気にフラスコの中身を飲み干した。













 ────……



「赤の王子様が死んで、赤毛のお姫様は死んじゃったの?」

「そうじゃよ。これは悲劇の物語だからな」


 老人の言ったことに、黒髪、黒目の少年は神妙な顔をする。


「可哀想だよ……死んじゃうなんて」

「なら、お前さんなりの結末を書けばいい。赤毛のお姫様はどうすれば幸せになれるかな?」


 少年は顔をあげて頷いた。原稿用紙に鉛筆で物語を書いていく。

 黒い力(もじ)をつかって、彼女が幸せになる方法を探した。


 そして、できた物語は。

 白髪の魔女と赤毛の錬金術師が、よりそいながら永遠に愛し合う話だった。






お読みくださり、ありがとうございます。

作者が作中に出てチートを付与するのは、反則技なような気もしていますが、これが私なりの最強スキルの与えかただったので、お許しください。


三万字以下におさめるために、展開は駆け足で、シルフェリア以外のキャラの動きは分かりにくいと思います。すみません。


後日、活動報告に設定を出すので、ぶっ飛んでますが興味のある方は覗きにきてください。


参考文献

『図解 錬金術』 草野 巧著 新紀元社


他にもギリシャ神話、シェークスピアの『リチャード三世』ダークファンタジーと呼ばれる漫画の影響を受けています。


この話は二人のなろう作家様の力添えがないと完成できませんでした。お二人に下読みして頂き、わからない所をあげてもらい、設定を一緒に考えてくださいました。二人には感謝しかないです。この場を借りて御礼、申し上げます。

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[一言] サトム様の二次創作を読ませていただく前に、そうだ!元ネタのりすこ様の原作(?)を読まなくちゃと勇んで拝読いたしました。 読みながらどうしようどうしようきっとこれはこちらが期待するめでたしめ…
[良い点] ゆっくり読ませていただくつもりが、途中から引き込まれて一気に読んでしまいました! 割烹の方のお知らせから、もっと、暗い情念!血!狂気!……みたいな、おどろおどろしいのを想像していたのです…
[良い点] 一気に話に引き込まれました。 黒髪の少年が作者=カミサマだったのですね。 [一言] 読んでいてとーっても楽しかったです! 黒髪少年萌えました。w
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