終10、誰よりも高く! 茜と天子の雷雲コンサート
異例の地殻変動に大地が悲鳴でも上げているようだった。
3つの大きな柱は既に地下に打たれ、うっすらと各色が立ち昇るだけとなった。
そして姫子から始まった光の直線は栞菜・茜と続き、託児所を設けていた茜はその時が来るのを固唾を飲んで見守っていたのだ。
茜にはわかっていた。
2人から届いた道標の光りには令和の人々の思いが詰まっていることを。
そして柱が地面に食い込む度に震源地たる黒龍・無縁の力を抑制してきていることを。
(私も頑張らなくちゃ!)
胸に秘めた闘志を滾らせるように可愛く佇む天子、それに引率者となった軍司を振り見て託児所の終わりを告げた。
「いよいよ茜ちゃんの出番ですよ~! 皆さ~ん!」
今日も変わらず呑気なお富の声に全力を上げて気を送っていた黄組の面々は目の前にパァっと花が咲いたかのように輝いた視線を茜に注いだ。
「おぉまるで女神のようじゃ!」
「長谷川先生、いよいよっすね」
萬屋のアルコール担当、ヒーさんは胴着を着込んで張り切っている老爺をニタニタしながら見るとそう言った。
「いかにも! ヒーよ、そなたの弟弟子もあそこにおるぞ」
「ほんだれぇ。なにやってんだ? あいつ」
その会話にボケッとしていたサトが間髪入れず突っ込みを入れた。
「えっちょっと待って! ヒーさん剣道やってたん?」
「今さらけ!? まぁな。ちなみにリュウもやってたぜ。俺達は古城館始まって以来の神童と呼ばれた腕の持ち主だすけん!」
ヒーさんの冗談とも本気とも取れないジェスチャーに長谷川先生は竹刀でポカリとヒーさんの頭を叩くと、
「お前は昔っから調子者であったが、その歳になっても変わらぬのかっ! まるで今の軍司のようだ」
と、溜め息を漏らした。
「さぁさぁ! 揉めてないでうちらも盛大に力を送りましょうねぇ」
結局、お富の音頭で黄組の連帯は高まり、それまでの組に負けず劣らず、気を送り続けた。
まるでイチオシアイドルへの声援のように。
実際、美人でスタイルも良かった茜はトップアイドルに見えた。張りのある胸は男性を虜にし、フレンチスリーブからの二の腕はきめ細かい肌の感触を思わせ、作務衣から伸びる美脚にどうしても目が行った。
そして色っぽい唇に吸い込まれそうだったが、誰もそれを口にはしなかった。
「きてるきてる~!! 茜のお家からスッゴい強い意志の力がじゃんじゃん届いてるよぉ」
天子は馬の嘶きのように鼻息を荒げて、地団駄を踏んだ。
「お家だぁ? まぁ故郷には変わりねぇか。俺も感じるぜ! 長谷川先生の気合いがよぉ!」
2人を見て、注意しなければわからないほどの小さな頷きをくれた茜は両手を広げ夜空を見上げた。
満月に星々と、済んだ空気。
満天の夜空は両想いの恋人達にとっては最上のデートスポットに違いない。
月が綺麗だね。なんてどこかで聞いた味わい深い台詞でも聞こえてきそうだが、闘志を燃やす茜にとってそれどころではなかった。
「天ちゃん! はじめましょ」
短めに言った茜に呼応するかのように、天子が提げる首飾りは恋人達がビックリしてデートを中断してしまうだろう勢いで発光すると、天にあまねく荘厳な天馬へと姿を変えた。
はためかせれば何でも吹き飛ばすが如き強くも丈夫な翼を駆使し、澄んだ夜空に躍り出ると体内からビリッビリッと雷を発生させた。
いつから沸いたのか夜空にはうっすらと雲がかかり、その雲からも自在に雷を集める仕草の天馬・天子は大きな電気の塊となり、放電するかのように声を上げた。
「いっくよー! 爆裂! 雷雲馬蹄!!」
さらに高くまで飛んだ天子は蓄電したエネルギーを後ろ脚二本に集中させると、柱の天辺部分を超高速で幾千万回と踏みつけた。
電気のビリビリという聞いただけで感電しそうな危険な音と鉄の塊のように固い蹄が柱にインパクトする文字通りの爆裂とで辺り一面は火災でも起きたかのように煙に巻かれた。
「ねぇちゃーん! もういいよぉ~」
まるでかくれんぼでもしているかのような元気で明るい声が聞こえた時、茜もまた例の雷の道を作って待ち構えていた。
「いくわよー! 軍司、下がっててね」
「お、おう!」
茜は言ったと同時にクラウチングスタートし、段々と連なる雷の道を見事な跳躍で駆け昇る。
最上段をこれまでの記録を破るかのように全霊で飛び跳ねた茜は、キリッと柱を見据えると叫んだ。
「いけぇー! 雷神矢!!」
何万ボルトもの電気を圧縮したかのようなその黄色い矢は放たれると一直線に柱へと特攻をかけるが如き勢いで直進し、見事に命中した。
柱はメリメリと音をたてて地表から地下へと押されていき、程よい所で天子がもう一度技を仕掛けた。
「雷雲馬蹄・極!!」
今度は電気を絡ませた4本の蹄を同時に落とした。
「いまだよっ!」
退いた天子の合図を知っていたかのように黒鐵を両手に、またも上空に跳躍していた茜は、その神器を巨大化させると大声で言った。
「わかってるわー!! えぇーいっ!」
茜が黒鐵を操って柱の悉くを地中へと押し込んだ。
2人の電撃の連打はハードロックバンドのコンサートツアー最終日のような大音量を上げ、今でも放電された電気がバチッバチッと音をたてていた。
うっすらとした黄色い光は上空へ、そして次なる目的地を差し示すように次に待つまことのいる緑の柱へと向かった。
力を使い果たした茜を地上で見事キャッチしたのは軍司であると言わずともお分かりであろうか。
3人は一仕事を終えたかのようにそれぞれの背にもたれかかり、何事か雑談でもするように笑い合うのであった。
「よく頑張ったわね……茜ちゃん」
お富は涙ぐみながらそう言い、ガッツポーズで喝采を送る自分の組の人々を見渡すのであった。
「いよいよじゃ。準備はいいな? まこと」
澄んだ瞳に言い表せない美貌の持ち主であるまことは、それぞれの成功を心の中で感謝し、我も続かん。
と決意するのであった。
次回 終11、魅力天使降臨! まことと天狗のウインドアンサンブル




