第一章 8、ネオ栞菜、咆哮!
「まずは栞菜、どう思った?」
目を輝かせている栞菜を見て巌鉄斉は、火花に見える人物として、まことが最初に連れて来たのは栞菜であったことを巌鉄斉は沁々と思い出していた。
以前から何度となく遊びに来ていた孫娘の親友。
まことが巫女であると判明し、更にその親友までが選ばれし者であった。
巌鉄斉は何か因縁めいたものを感じずにはいられなかった。
栞菜はおもむろにメガネを外し、淡々と質問しだした。
姫子とヤマヨシはいつの時代からやって来たのか、そしてヤマヨシの本名を訊ねた。
ヤマヨシは天文十七年から来たと言い、自己紹介を始めた。
「おぉそう言われればきちんと名乗っておらなんだ……おっほん! ワシは三条城城主、山吉信濃守行盛と申す!」
「……ってことは正真正銘の戦国武将ってことですね??」
「せ、戦国武将? まぁ確かに時は戦国乱世、そう呼ばれるやもしれぬなぁ」
それを聞いた栞菜はプルプル震えて身悶えしはじめた。
「くるわ、ネオ栞菜!」
まことは目を閉じながら天井を向いた。
「…………なんてこったい! 夢にまで見た戦国武将と出会って、しかも会話までしているなんて!! これは夢か幻かっ! まこと! 私をツネってちょうだい! あぁいいえ、これは現実よ! 現よ! きゃーきゃーきゃー!!!!」
「よっしゃー!!」
最後にはいきなり立ち上がると、両手を高らかに上げ甲高い声で叫んでしまっていた。
細身の栞菜はキュッと締まった腰をくびらせて悩ましいポーズを取ると、山吉は困り顔でまことに救いを求めたし、姫子は二重人格よろしく栞菜を見上げて呆気にとられていた。
まことは、栞菜を大の歴史好きで特に戦国時代が好きなのだと伝え、興奮冷めやらぬ栞菜の腕を引っ張り、天文十七年とはいったいいつの時代なのかと問う。
「1548年に決まってるじゃない! 正に戦国真っ只中! 群雄割拠!! ちなみに、桶狭間の戦いの12年前ねっ。どう? 分かりやすいでしょ!?」
「どこがわかりやすいんだか…………」
と、まことは溜め息をつきながらも自身の豊満なそのバストを抱えるように腕組みして苦笑いした。
巌鉄斉はニタニタしながら栞菜を唆すように質問あらば問うがよいと催促する。
「行けるのね?! 私も戦国時代に!」
「そのはずです! 現に姫子と山吉様はミライに来ましたもん!」
眉を吊り上げて口をヘの字にしてガッツポーズで答える姫子の姿は、まるでメイドカフェのぶりっ子のようであった。
山吉に現存する三条城を直に観れるのだと確約を貰った栞菜は決心し宣誓した。
「行きます!! 私、行きます! 百聞は一見にしかず! 私で力になるのなら喜んで付いて行きます!」
「ワッハッハッ! ネオ栞菜は痛快じゃわい! よしよし、後は実際に行ってみて見聞を広げるがよい!」
大声で笑ったあと巌鉄斉が朗らかに言った。
そんな巌鉄斉に遠慮がちに、だがしかし依然としてもじもじしながらぶりっ子しつつ、口を挟んだのは姫子だ。
「あのぉついでに姫子も質問してもいいですか?」
「なぁに? 姫子ちゃん」
「あのぉそのぉ…………そこにおられる方はどちら様なのですか?」
この部屋に来てから一言も言葉を発しない柊一をチラッと見て姫子は尋ねた。
まことはその問いに答えるように、普段から無口で今は家業の鍛冶屋を手伝いながら何かの研究をしてる自分の兄であると紹介した。
「ねぇ? 柊兄」
スラッとした体型に端正な顔立の柊一は爽やかに笑い、そしてサラサラの髪が外から入ってくる風に少しなびくと、かき分けながら雑な妹の紹介に始めて口を開いた。
「その通りです。申し遅れました鍛冶町柊一といいます。まこと、何かの研究とはヒドイじゃないか、じいちゃんに頼まれて難しい本の解読をしたり、萬屋に出入りさせてもらって、この町の歴史を調べてるんだぞ」
「アハハハハハ、そうなんだ」
まことは笑ってごまかし、姫子は納得のいった表情を浮かべた。
「美男美女の兄妹じゃのぉ! 巌鉄斉殿も鼻高々ですな!」
巌鉄斉は自慢げに腕組みをして2度頷いた。
「今日は僕の研究が役に立つと思ったから呼んだんだろ? じいちゃん」
「そうじゃ。その前にまこと、お前はどう考えているのじゃ?」
柊一は自身の研究が役立つから呼ばれたのだと理解してしたし、巌鉄斉もそのつもりであった。
その研究の結果を披露する前に、まことの考えを引き出そうとする巌鉄斉。
少し間を置いてから、まことは難しい顔で話し出した。
「姫子ちゃんと山吉さんの話は大体わかりました。驚きでまだ混乱していますが、私でよければ栞菜と同様に天文十七年へ行きます。ですが私にも質問させて下さい。お祖父様は何故、姫子ちゃんと山吉さんが過去から来たことを知っていたのか。それに私に火花のイヤリングを作らせた経緯を教えて下さい!」
巌鉄斉と柊一は視線が合うと頷き合った。
柊一は持参した青貝で装飾された綺麗な文箱をそっとまことに差し出した。
「まことや、その文箱を開けてみなさい」
一同が固唾を飲んで見守る中、まことは青貝の文箱にそっと触れていくのであった。
ネオ栞菜、咆哮の図
次回 9、書!書!