終章4、パートナーと愛を語り合うか、はたまた断金の交わりか (後)
茜達のところで初の御用聞きを果たした四季彩神無は意気揚々とその場を去った。
もっとも御用聞きと言っても天子相手の野菜売りの配役であったのだが。
勢いに乗じて四季彩は次のターゲットを求めて、さして広くはない屋敷内を勝手に徘徊しだした。
すると一度は全員が集まった囲炉裏部屋にまことと天狗がいるのを見付け、四季彩はまたもやその場に静かに控えた。
静かに控えず堂々としていればあるいは邪険に扱われることもないような気もするのだが。
「なるほど。やはり初代・巌鉄斉様とその黒龍・無縁は何か因縁があるんですね」
「そうじゃ。しかし肝心な所はいつもはぐらかしおる! 友ではあるが腹が読めぬ奴じゃ」
「誰がですか!?」
さもずっといたかのように話に割り込んでくる四季彩を苦虫を噛み潰したような顔をして天狗は睨んだ。
いや、もともと皺だらけの面だったが、さらに上をいくと付け足しておこう。
「これ、人の話に割り込んでくる者があるか! そなたは何をしておるか」
天狗の糾弾にも天然の四季彩はたじろぐ訳はなく、再会を待ち望んでいたイチオシアイドルとの束の間の会談は破棄された。
「い、今ね、巌鉄斉様と無縁のことについて話していたの。何か深い因縁があるんじゃないかって」
「なるほど。元々は八龍神を束ねてらした御二人でしたものね」
「おっほん! そうじゃ! しかしじゃ。いまいちその因縁がわからん」
悠久の神々の因縁など知るよしもないといった風情で四季彩は首を傾げた。
「そうじゃ、まこと。おぬし風の力を使ってなんぞ新たな能力でも引き出したか?」
天狗はこの際、四季彩は居ないものとしてとらえ、惚れ込んだまことと一対一の会話を決め込んだ。
「空を飛ぶことと、技を1つ」
「ほほう。流石はそなたじゃ! どれワシのとっておきも伝授してやろうかの!」
張り切った天狗は外へ愛弟子でも誘うかのように恭しく連れ立って出ていき、取り残された四季彩は入り込む余地のない断金の交わりをここでも体現したことになるか。
(残るは影虎様と咲良さんのみ!)
しかしめげることを知らない四季彩は、立ち上がると揺らぐことのない冒険譚の主人公のような希望の眼差しで最後の牙城を探す旅に出た。
旅人も板についてきた四季彩であるかのように。
「なぁんでプンプンしてんのよ!」
咲良はまるで中学生がヤキモチを焼いてそっぽを向くような姿勢の影虎に詰め寄ると、影虎は吐息の音が聞こえる程に距離を詰めた咲良をチラッと見るとまたそっぽを向いた。
「なんでもないっ! ベタベタと引っ付くでない! 無礼者がっ」
「なによっ! あたしはずっとあんたと会いたかったのに……」
「な、なんだとっ!?」
なんだこれは。
この物語は世界を救う美少女物語ではなかったのか。
いやいやきちんと恋愛もありなのだ。
「ワ、ワシだって同じじゃ! しかしすべてが終わった後のことを考えるとそなたとどう接していいかわからぬのだっ」
やはり全員が別れの時を望んではいなかった。
しかし目的は全会一致であり、その先を生きるのもまたそれぞれなのだ。
「あぁそのことか……大丈夫だよ! いつでもこっちにこれるし!」
数回経験したタイムスリップをまるで近所のコンビニにでも行く感覚で話す咲良。
なんとか落ち着きを取り戻した影虎は、恋人同士のように接近していた咲良と少し距離をおく。
少しといっても5ミリくらいだったが、それでも影虎の精一杯だったに違いない。
「それはいかん! よくわからんが、そんなことを何度もやってはいかん!」
「何でよぉ? 減るもんじゃないっしょ」
「と、とにかくいかん! 今までは仕方なかっただけで、そう何度もやってはいけないこととわからぬかっ!」
「じゃあもう会えなくなるってこと……?」
(だからワシは困っておるのだっ)
そう心の中で叫んだ影虎は山吉から言われた事を思い出していた。
「殿。この山吉が愚考致しますに、あの時を駆ける力はそう何回も使ってよい芸当のものにあらず! ですからいずれは会えなくなることも考えておかねばなりませぬ」
それを聞いた影虎は呆然としたものだが、頭脳明晰な彼は即座に理解すると、遠くを見詰めた。
たまりかねて山吉は自身の考えを重ねて言った。
「殿。今後も何も気にせずに会瀬を重ねる方法がござります!」
「なっなんだ!? その方法は」
「咲良殿を嫁に貰うのです!」
影虎はギュッと咲良の柔らかい手を握ると、大戦前の総督のような難しい顔で言った。
「咲良、そなたワシの嫁にならんか?」
(ヨメ?! 女に家と書いてヨメの嫁!? 話が飛び過ぎだってば!)
咲良は驚きつつも心中そう叫んだ。
恋人すら出来たことのない、なんだったら初恋の相手が景虎なんじゃないかと自分ですら思っていたのに、いきなり結婚を申し込まれたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
しかしその次の言葉が見つからなかった。
「嫌か」
「嫌とかじゃなくってぇぇ……」
長い沈黙が続いたが、握った手だけは離さなかった。
そのうちハイエナのように屋敷内を歩き回っていた四季彩に見つかり、ここでも今までと同様に空気を読むことをせず、むず痒い2人の後ろにちゃっかり居座った。
影虎はそれに気付くとチッと軽く舌打ちをした。
「まぁよい。まだ少し時間はある。そなたも令和での生き方があろうほどに……。熟慮致せ」
まるで部下に申し付けるような口調で去っていった。
(もう! 四季彩さんが来たからって急に態度を変えちゃって……ウフ、可愛いヤツ)
咲良は不思議で仕方なかった。傲慢にすら見える影虎が何故か愛おしく、もっと一緒にいたいと思うようになっていたからだ。
影虎が退散し、一人で笑顔を作る咲良を見続けていた四季彩はそれでもその場に居続けた。
一重に世話係という任務を遂行しようとする真面目で実直な彼女の姿であった。
「ねぇ四季彩さん。恋って甘酸っぱいんだね! 本当に」
急に色恋について同意を求められた四季彩もまた恋愛未経験の少女である。
不意に懐から帳面と筆を取り出すと、なにごとか一筆認めはじめた。
「なに? なに? 何を書いてるの??」
興味を持った咲良は四季彩の傍らに寄ると、一筆書きの落書きのような文字を解読するように眉間に皺をよせた。
「恋をする 相談される 世話係」
「はぁ?」
達筆な文字と四季彩の顔を交互に見た咲良は頓狂な声でそう言った。
「ですから今の感情を認めて句にしたんですよ!」
自信満々の得意顔を見せる四季彩に苦笑いで相づちを打った咲良は、間違いなく心の中でこう呟いたことであろう。
(季語ないとダメっしょ!?)
そんな中、一人見回りと称して外出した巌鉄斉は。
「決戦前に今一度話がしてみたくなっての」
深遠なる邪悪な気が蔓延る震源地へと到着していたのであった。
次回 終5、罪深きはそなただけにあらず、ワシもまた罰を受けよう




