第三章 17、三場三様
萬屋の全貌を目の当たりにした柊一は終始驚きっぱなしであった。
ムッチと呼ばれる巨漢のお兄さんは焼きカレーの後、ナポリタンとカルボナーラを腹に収め満足し、副代表的ポジションのゴッツと呼ばれる人物と参謀的役割のカツと呼ばれるイケメンがすーさんから受けた案件について細部に渡って作戦を練る。
また髭面のヒーさんとナオは最初から最後までアルコール摂取をしてのけ、タァクはバナナフロートうまいを連呼した。
先も書いたがこの後、小銭をじゃらつかせたすーさんの胸ぐらを掴んでムッチが暴れたことはもはや書くまい。
一同は副代表と参謀の練った創案に耳を傾け、一応は内諾しその日は解散となった。
その帰り道、柊一はすーさん、ナオ、ヒーさんと共に夜の三条を歩いていた。
「今日は驚きの連続でしたよ。でもすーさんがあそこまで考えていたとは思わなかったです」
「あぁ。あれね。スポッと思いついちゃうんだよね。けど絶対必要だと思わない!?」
「確かに! 円滑に事を運ぶためには必要ですね」
「だよねー!」
フゥーと深く息を吐いたナオが会話に割って入る。
「すーさんはいつも思いつきで行動すっからね。いっつも俺ら巻き込まれてんじゃね?」
「まぁまぁ!」
「ま、結局楽しいからいいけどね。みんなもそう思ってるっしょ」
「そう願いたいものです。はい」
「…………萬屋のメンバーは今日集まったので全員なんですか?」
「いや、他にもいるよー。忙しくて全員集まるなんてことめったにねぇよね? すーさん」
「だねー。リュウとヒデあたりにも誰か連絡しといてくれる??」
「それさっきカツが言ってたよ。すーさんは人の話もあんまりきかないよね」
そう言ってナオは端末を取り出し、届いたメールを開くと千鳥足で気分良さそうに歩いているヒーさんに言った。
「ヒーさん! ナカさんとサト掴まったよ。これから本寺(三条の飲み屋街)で落ち合おうだって」
「そっか! では我らは本寺に行く! さらば!」
「えー!? ナカさんとサト!? 俺も会いたいよ、それは!」
「一文無しはさっさと帰って寝な!」
「一応、アダモとガワには今日のこと伝えとくから! それとお富にまた苺大福買いに行くって伝えておいてー! じゃ」
そう言ってナオとヒーさんは夜の街に消えていった。
「いま名前が出た、ナカさんとかサトさんとか、アダモやらガワって人も萬屋なんですか!? ナオさんもお富さんを知ってるんですね」
「そうそう。忙しい忙しいって飲みの誘いは受けるのか…………俺の集合には来なかったのに。ていうか俺達とお富、同級生だから」
「えー!? それは知らなかったです。けどしかたないですよ! 皆さん家庭や事情があるでしょうし!」
「まぁねぇ」
「けどこれでほぼこっち(令和)の準備は出来たとみていんじゃないでしょうか?」
「そうね、市長も見つけたし、市役所の放送も使えるみたいだしね。あっ! あの妊婦さんどうなったかねぇ?」
「そうだ! 気になりますよね!」
そんな会話をして夜道を2人とぼとぼと歩いていった。
空には無数の星が瞬き、街灯のない道を照らしてくれているようであった。
「見つけたぞい!」
前後するが、その日二手に別れて市長を探していたのだが、姫子隊(権爺+茜)が下田の庁舎で市長を発見。
権爺はトイレで力むような形相で市長に駆け寄ると市内放送を借り受けた。
直ちに指令室へ連絡し、咲良、栞菜、お富は市役所の放送室を乗っ取りに行った。
そして栄庁舎に向かったまこと隊(村上館長+白石委員長)はというと。
別々に庁舎内をくまなく探し回って合流した3人は、どうやら栄庁舎には市長は居ないということで意見は一致し、とりあえず指令室たるまこと宅へ戻ろうと出入口付近まで来た時に、まことが気になる女性を発見した。
その女性はどうやら妊婦のようで酒樽のように前面に出たお腹を抱えるようによぼよぼと歩いていたのだが、体調がすぐれないのか近くにあったソファーに崩れるように持たれかかったので、まことは急ぎ足に妊婦に近付くと声をかけてみた。
「あの、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
いきなり話しかけられたその妊婦は、少し驚いた風な顔をしたが、すぐに真っ青な苦汁の表情に戻り、絞り出すように声を発した。
「だ、大丈夫です……ちょっと吐き気が。ハハ、気にしないで下さい。ありがとうございます…………」
そこまで言うとソファーに倒れ込んでしまった。
「全然大丈夫じゃないじゃないですか! 委員長! 館長! ちょっと来てー」
出入口付近で待っていた2人は妊婦が倒れ込んだのを見て向かって来る途中であった。
「おい! どうした!? むむっこれはいかん! すぐに救急車を! 委員長!」
「は、はい!」
そう言って端末を取り出しダイヤルする瞬間にその妊婦の顔を見てさらに驚いた白石委員長。
「ま、繭子? 繭子じゃない! どうしたのよ!?」
「委員長、知り合いですか!?」
「知り合いもなにも仲の良かった友達よぉ!」
館長はとっさに切り替え、職員を呼びつけ救急車の手配をした。
「繭子! わかる? わたくしよ! 紗南よ」
朦朧とする意識の中で繭子と呼ばれた妊婦は呂律の回らない口でそれでも何か言おうと必死だった。
「さ、なちゃ……ん……」
「いま救急車呼んでもらったからね! もう少しの辛抱よ!」
白石委員長は繭子の手を握り、まことは妊婦の手荷物を忘れないように持ち、館長は外に出て救急車の到着をいまや遅しと待ちわびるのであった。
(なにがあったのよ? 繭子…………)
次回 18、三条を離れられない理由




