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 第三章 16、萬屋すーさんの憂鬱

日はどっぷりと沈み、地震の影響だろう、そこここの街灯が明滅していた。

ザッザッザッ。

柊一はすーさんに従い、東三条駅近くのとある喫茶店の前まで来ると、立ち止まっていた。


すーさんは先程の猛進振りとは打って変わって眉毛はハの字を描き、大小様々な溜め息を吐き続けた。

まさに憂鬱そのものだ。



「あのぉ…………すーさん? 中に入らないんですか?」 


立ち止まって数分が経過した頃、柊一が覗き込むようにすーさんの顔を見て質問した。

意を決したかのようにすーさんはコーヒー屋と記されたネオンが眩しい扉を開けると、誰しも一度は聞いたことのあるであろうカランコロンと鈴だかを鳴らした。


奥いきばった店内は薄暗く、遠い昭和を連想させるレトロな雰囲気で2人を迎えた。


「あら、すーさん。いらっしゃい! 皆さんお待ちかねですよ」


と、店員だか店長だか30代位の女性が最奥の一角を指差して言った。


「皆さんを待たせてるじゃないですか! 早く行きましょうよ」


急かす柊一にゴクリと生唾(なまつば)を飲み込んだすーさんは、理解し難いことを述べた。


「わざと時間を遅らせて来たからね」

「なんでわざわざそんなことを!」

「まぁみんなに会えばわかるよ…………」


遅刻をしたすーさんの到着に気付いた萬屋の面々を見たすーさんは不自然な笑顔を浮かべてこう言った。


「やぁ! 久しぶり!」


しかし(いか)つい集団は一斉に立ち上がると怒号を振り撒いた。


「てめぇ今何時だと思ってんだよ!」

「くだらねぇことだったらただじゃすまさねぇからなぁ」

「どうせまた頼みたいことでもあるんだろ? こっちも暇じゃねんだよ今はよう!」


(ヒィーーー)


柊一はガラが悪過ぎる集団にたじろんだが、すーさんは困り顔でなだめる。


「まぁまぁ! まぁ! まずはみんな座って座って! カツ、いつ頃来た?」

「ついさっきだな。久しぶりに遅刻しないですんだなぁ」


ガラの悪い集団の中でカツと呼ばれた際立つイケメンは呑気に答え、それを聞いたすーさんは柊一を見ると言った。


「そゆこと」

(なにがっ!? なに? この恐い()()()()逹は…………)



「えーー、我らが三条も空前のピンチに陥っています! 我ら萬屋もこの危急存亡を乗り越える為に一肌脱ぎましょう!」


突然のすーさんの前もって決めてきたかのようなセリフを聞いた一団は黙り込み、一番奥に静かに座っていた男性が呟いた。


「相変わらず突然だなぁすーさんは」

「そう。相変わらずなんです。ゴッツくん」


そんなやり取りが済むのを待っていたかのように先程の店員だかが注文を聞きにやって来た。


「すーさんはいつものやつでいいの?」

「はい、いつものやつを。今日はブルーハワイで」

「かしこまりましたぁ。そちらさんは?」

「えっ? じゃあ僕も同じやつで」


柊一は強面集団の隅で小さくなり、気配を消すよう勤めた。


「んで? 今日はなによ?」


髭面のいかにも乱暴そうなお兄さんが訪ねる。


「ヒーさん、いよいよですよ」

「なに!? 遂にか?」

「そゆこと」


なんだかわからないが、この会話で髭面のヒーさんは黙りを決め込んだ。


「はぁ? 俺らにはさっぱりなんだよ! 説明してもらおうか」


いきり立つ巨漢のお兄さんにすーさんは言ってすごんだ。


「はい、説明します。その前になんか食べたら? ムッチくん」

「あん? そりゃおめーの奢りってことか?」

「う、うん…………」


「よっしゃ! そうこなくちゃーよぉ。すいません! とりあえず焼きカレーひとつ!」


(とりあえず?)


ムッチくんと呼ばれた巨漢のお兄さんは相好(そうごう)を崩すと、にこやかに焼きカレー到着を待ち続けた。


「そういうことなら俺は生ひとつ!」

「俺も俺もー!」


「あっナオは今日はチャリ??」

「そうそう。だっけ俺もヒーさんと飲もうかな。あっすいませーん! 軽くおつまみも!」


(ただの飲み会!?)


「タァクはなんもいらんのん?」

「じゃあ俺はバナナフロート!」

「わかってますねぇ! 流石タァク」

「俺はナポリタン!」

「俺もそれだな」


タァクとゴッツとカツが矢継ぎ早に注文し、暇そうにしていた厨房が一気にヒートアップしたように活気が出てきた。


「はいっ、お待ちどうさま!」


すーさんの注文した品がドテーブルにンと置かれた。


(えっ?)

「はい、そちらさんも!」


ドン。


(えっ? なにこれ?)


「柊一くんもお上がりなさい。やみつきになるよぉ」


そう言って目の前に置かれたブルーハワイフロートを無邪気に頬張るすーさんに、焼きカレーの到着と同時にガッツ食いを始めていたムッチが睨むような視線ですーさんに呟いた。



「おめぇの奢りとは明日は雪か? 槍か?」


すーさんはブルーハワイフロートを食し終えるとブルーハワイのように青ざめた表情で柊一を見た。

そして柊一はハッとしたように息を飲んだ。


(ま、まさかすーさん、お金もってない!?)



憂鬱なすーさんはなおもズズズっと空の容器を吸い続け、打ち合わせ後、暴動が起きたことはいうまでもないわけなのであった。



次回 17、三場三様


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