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第一章 6、その名は巌鉄斉!

「ちょっと待って!」


 まことは突然、姫子の話を制止すると少し考え込むように腕組みをし始めた。


「ちょっとどうしたのよ? せっかく()()を打ち明けてくれるって言ってるのにっ」


 知りたがりのネオ栞菜は抗議でもするように口を(とが)らせてまことに向き合う。


「ちょっと黙ってちょうだい! いま考えをまとめているところなんだから!」

「ひぃっ……」


 栞菜を黙らせたまことは、それからもしばらく考え込んだ。腕組みをしたことにより谷間が前面に付き出し、その豊満なバストがシャツを締め付けついた。

 (しか)られた仔犬のようにしょんぼりした栞菜は、サラサラのロングヘアーに隠れる頭部をポリポリ掻いたが、姫子が背中をポンポンと優しく叩いてくれた。



 ヤマヨシも(まゆ)(くも)らせたが、考えがまとまったのか、まことは二人を交互に見て言葉を発し始めた。


「うん、やっぱりそうしよう。姫ちゃん、ヤマヨシさん、2人に会ってもらいたい人がいるの。一緒に来てもらえますか?」

 


 ヤマヨシも姫子も無論、異存などあるはずもなく、誰と会えばいいのかと逆に質問していた。


「わたしのお祖父様に会って下さい!」


 そう言い、敢然(かんぜん)と自宅へ向けて歩き出すまことに2人は付いていくしかなく、もちろん仔犬栞菜も後を追った。



 依然(いぜん)として太陽は晴天のど真ん中に居座り、アスファルトからの照り返しに玉のような汗をかいて歩き続けた。

 やっとの思いでまこと宅に到着したが、振り返りもせずに玄関を勢いよく開け、靴を脱いで行儀よく揃え、真っ直ぐ廊下を進んで行くまこと。


「遠慮なくどうぞ」


 まことに(いざな)われた3人は無言のまま進む。

 一番奥の一室がまことの祖父の居室である。


「お祖父様、ただいま帰りました」


 まことは3人を引き連れ、祖父の部屋の前まで来て一呼吸し、まずは挨拶(あいさつ)をした。


 静かな室内から、鍛冶道場での手伝いを終えた孫娘に労いの言葉と共に、何か用事でもあるのかとしわがれ声が聞こえてきた。


 まことは偶然出会った姫子とヤマヨシと是非とも会って直接話をしてもらいたいのだと要件を言い、少し間があった後、返事があった。


「わかった。入りなさい」


  失礼しますと言って入室するまことに続いたのは、栞菜、姫子、そして最後に巨体のヤマヨシの順番であったか。



「こちら中浦姫子さんとヤマヨシさんといいます。お2人さん、私のお祖父様です」



 まことはそれぞれに紹介をし、姫子とヤマヨシを順繰(じゅんぐ)見据(みす)えている老人の顔を見て2人はまたもや驚いてみせた。


「なっなんと! 巌鉄斉(がんてつさい)殿ではござらぬか! なにゆえ巌鉄斉殿がこの時代におられるのですか!?」


 姫子もまた驚きを隠せないまま、ヤマヨシの問いにうんうんと頷いている。


 睨むような視線が急に(ゆる)んだかと思うと、巌鉄斉は大笑いしだした。


「わぁはっはっはっー! わしは、ぬしらの知っている巌鉄斉にあらず。ぬしらの知っている巌鉄斉様は初代・巌鉄斉様じゃ。ワシは十八代目巌鉄斉じゃよ」


 と、言うとまた磊落(らいらく)に笑っていった。


(やっぱり連れて来て良かったわ! 巌鉄斉は云わば鍛冶名であり、それを初対面なのに言い当てるなんて……やっぱり何かあるわ! それにしても初代ってどういうことかしら…………)


 まことは内心そう思った。

 笑いを納めた巌鉄斉は、まことに冷たい麦茶でも出すように指示し、最後にこう付け加えた。


「それから柊一(しゅういち)も呼んで来てくれまいか」

 

 まことは一言返事をすると、キョロキョロと落ち着かない栞菜の腕を引いて、半ば強引に連れ出した。


「手伝いなさい!」

「えっーー……」


 と、眉を八の字にした栞菜であったが、渋々(しぶしぶ)付いていくしかなかったか。



「さて、皆が集まるまで少し(くつろ)いでおられよ。そして姫子さんとやら、その首に()げついる物をこの(じい)に見せてもらえぬか?」

 


 巌鉄斉の要望に姫子はハッとし、首に提げた飾りをギュッと(にぎ)ると、意を決したかのように巌鉄斉に手渡した。


 巌鉄斉は仔細(しさい)に首飾りを調べると真ん中に()め込まれた宝玉を見詰(みつ)めながら、鋭い目付きに戻ると、ゆっくりと姫子に視線を向け低い声で言った。



輪廻(りんね)の首飾り…………じゃな」


 まことは急ぎ麦茶を用意するとお盆にのせて栞菜に託し、兄である柊一を呼びに駆け回るのであった。

 


 

 次回 7、過去からの告白



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