第三章 9、少数精鋭! ワシが長尾の影虎じゃ
深まる緑は晩夏の模様を残しつつも、迎える秋のため少しずつ葉の色を変え初めていた。
そんな山間部の獣道を急ぐ一団。
額から滴る汗を拭きつつ、そんな険阻な道のりをひたすら進んでいくのは長尾の精鋭部隊である。
それを指揮する影虎。叛乱党の女部隊長、四季彩に会うために絶賛行軍中だ。
しかし人数は少なく、合わせて15名ほどであった。
だが影虎が指揮する選りすぐりの、精鋭中の精鋭部隊であり、気力も体力も漲る若者逹だ。
汗はかいても疲労の色はなかった。
そんな一団は嵐蔵を先頭に、影虎、その次に輿に乗せた老人、それを守るように精鋭が続いたか。
時折、影虎は独り言のように何事か声を発していたが、一団は素知らぬ程で嵐蔵の案内する道をひたすら進む。主君である景虎を万事理解しているかのように。
「じじぃ! 貴様の助けはいらぬぞ! 何度言うたらわかるのじゃ」
(そうはいうてものぉ…………その四季彩とかいう女、黒龍・無縁の息の掛かった者であろうが! どんな罠をはっておるかもわからぬぞ)
「フンッ! 見くびるな。必ず口説き落としてみせるわ」
不適な笑みを浮かべる影虎はどうやら巌鉄斉とテレパシーのようなもので会話しているようだ。
「こんな便利な方法があるのなら早く使えばよかったぞ!」
(ふふふ、そなたとワシは同族じゃからのぉ。おそらくは鍛冶ガールらも与した神々と疎通できるはずじゃて)
(そ、そうなのか……ではワシも咲良と…………)
(これこれ、聞こえておるぞ。まったくうぶな男よなぁそなたは。それでいてこれから敵を口説き落としにいくとは)
「か、勝手に聞くでないわ! まぁこちらはワシに任せて、そっちはゆっくり休んでおれよ! まだ皆動けぬのであろうが?」
鎮地盤の完成をみた現在、天文の神々が成すことは叛乱党の鎮圧を残すのみとなった。
しかし、神々もまた鎮地盤を築くために、これまでに使ったことのないほどの膨大な霊力を使い果たし、ただ今は昏睡状態に陥っていた。
かくいう白龍たる巌鉄斉もまた五度も特殊な能力を使ったことにより、衰弱しきっていた。
それを見越した影虎は助力をつんけんと断ったわけだ。
(しっかし、そなたは頑健じゃのぉ。次の日にはピンピンとして動き回っとるとわ。他の神々はまだ目覚めぬ者も多いというに)
「フンッそなたらとは心身ともに鍛え方が違うのだ! まぁそこでじっとして養生しておれ。必ず皆々無事に戻ろうほどに」
(ま、そなたのことじゃ心配には及ばぬか…………美尻の咲良の事ばかり考えて遅れを取るでないぞ!)
「ぬ、ぬかせ! エロじじぃ!」
普段は英邁な影虎も話題が咲良のこととなると一端の青年の顔に戻る。そこが巌鉄斉には可笑しくてしようがなかったのだ。
獣道をかなり行進した時、先頭の嵐蔵の足が止まった。
「影虎様、ここより先は叛乱党の見張りなども現れ始めるかと。用心なさって下さい」
「まどろっこしぃことを!」
影虎はそう言うと、息をいっぱいに吸い込んで吐き出すような大声で叫んだ。
「我が名は長尾影虎! 越後・守護代(越後を治める守護の補佐)である! そなたらの首領と話があって参った! 早々に案内せよっ! 敵意をみせれば即刻、長尾全軍を持って取り囲む! 返答せぃ!!」
嵐蔵は度肝をぬかれ、驚いた。
(この方には常識は通じぬ。が、なんと効率的なことだ)
すると草むらや大木の枝などがカサカサと鳴り、叛乱党の見張りの者逹が数人姿を現した。
「ほう、聞き分けがよいではないか! さぁ、さっさと四季彩なる部隊長のところへ連れて行け!」
初めて会う影虎にまるで家来のように命令された見張りの者逹は、顔を合わせて困惑したが、そそくさと案内を始めた。
「よしよし、それでよい。素直に従ってさえくれればその方らの生きる場所もまた変わってこようでな」
影虎は初めの威圧的な発声とは裏腹に今度は優しく微笑みかける。
(なんという広いお心と強い求心力をお持ちのお方であろうか……たった数名の配下の者しか従えておらぬのなに、数倍の数の叛乱党を一挙に掌握しなさった…………)
そんな影虎の裁量を間近で見ていた四季彩一族の長は輿の中でそう思った。
いつのまにか案内役となった見張りはなおも突き進み、遂に影虎一行は例の破れ寺まで辿り着いた。
寺全体を灰色の妖気が包み込んでいた。
「ほほう。ここが四季彩の根城というわけか」
そう言うと影虎は寺の内部を見ようとはせず、何故か寺の上空を見上げて声高らかに発声。
「そちが叛乱党・越後進行隊の女部隊長、四季彩神無か!」
次回 10、四季彩の苦悩と長の願いと




