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 第三章 5、叛乱党の女部隊長・四季彩

 三条城から東の果て、鬱蒼(うっそう)と杉が繁る山間部のとある()(でら)に例の叛乱党の一味が潜伏していた。


 叛乱党・越後進行隊の本隊が破れ寺を囲むように身を潜め、他に分隊を3つに分け、それぞれが拠点を見つけ、距離をおいて陣を構えていた。


 そしてその破れ寺の中に、この進行隊の部隊長が単座(たんざ)し、何事か思案していた。

 部隊長といっても、うら若い女性で、その見た目は気品に満ち、着流しの小袖(こそで)から覗かせる武装具は綺羅(きら)びやかに装飾がなされていた。

 名は四季彩(しきさい)という。


 整った顔立ちから、その辺の農民出身者とは思えず、どこか武家の風格を醸し出すその(たたず)まいは凛として美しかった。

 切れ長の瞳からは不安と苛立ちが見え隠れし、何度も艶のある長い髪をかき揚げる仕草もまた美しかった。



(どういうことだ。我らは越前(現在の福井県)で宗門と朝倉の戦いに巻き込まれ、領地から何から何までを奪われ、流浪の末、やっと叛乱党なる組織に加わり、ここ越後(現在の新潟県)くんだりまで進行してきたというに…………)


 彼女の苛立ちは2つの事実からなっていた。

 1つ目は、越後の地は新鋭の長尾影虎が一応は治めてはいるが、まだ若く、奇襲を持ってすれば領地を奪うことは容易いという情報が誤りであったこと。

 2つ目は、なんの情報も報告にもない、見たことも聞いたこともない巨大な蛇がいたり、数多の異形(いぎょう)の妖怪等が跋扈(ばっこ)しているという事実であった。



(こんな土地を切り取ったとて我ら一党の安寧(あんねい)などあろうはずがない! それに長尾の影虎だ。確かに若造だが、その軍略・統率力は群を抜いている。あんな武将は越前にはいなかった、一本筋の通った英邁(えいまい)な守護代ではないかっ!)


 女部隊長・四季彩は歯軋(はぎし)りして悔しがった。


  (()()()私を(たばか)ったな! 現に出兵以来、なんの音沙汰もない…………)


 一軍の将の感情の乱れはそのまま兵に伝染していく。今や叛乱党・越後進行隊は下知(げち)のないまま、幾日も待機し、士気は下がりつつあった。

 それに幾度となく、そして絶え間なく長尾の斥候(せっこう)(偵察隊)に陣地・陣形を調べ尽くされ、丸裸同然だった。


(姫小百合(ひめさゆり)軒猿衆(のきざるしゅう)あんな忍者部隊も聞いてはいないっ!)


 四季彩の焦りは募るばかりであった。


 そんな彼女が苦悩する一室へ近付く者の気配が。


「何事じゃ!?」


 苛立ちを隠せない一喝(いっかつ)に配下の者がたじろんだが、畏まって要件を述べたか。


「はっ! 黒ずくめの妖しい男が部隊長殿に話があると参っておりますが、いかがいたしましょう」


 女部隊長の顔は一気に喜色(きしょく)を取り戻し、その者を引き入れよと即刻命じた。


 黒ずくめの男は陰湿な気をまとい、入室するや室内を一度に気だるく染めた。


「フッフッフッ。どうも首尾は思わしくないようで」

「何を言う! そなたの情報がでたらめだっただけであろうがっ! こちらは遥か越前から流れてきておるのだ」

「まぁ落ち着きなされ、確かに情報が錯綜(さくそう)しているようで。しかしまだあなた様の望みは叶うものと、こちらは確信しております」


「くっ、私の願いは安住の地を得て、一族を迎えたいだけだ! それが叶うと申したな? 言うてみよ!」

「これは相当なお怒りようですな。これを片時も離さずにお持ち下さいますよう。さすればあなた様の願いは必ずや叶うでありましょう」


 黒ずくめの男はそう言うと、邪悪な気をまとった腕輪を差し出した。見たもの全てを暗黒の闇に引き込みそうな、そんな妖しい光を帯びた腕輪を、四季彩は一瞬躊躇(あめら)ったが、受け取ると腕にはめてみた。


「な、なんだ!? この力は?」


 内から(みなぎ)るように力が沸き上がり、四季彩の容貌(ようぼう)までも塗り替えていった。


 艶のあった黒い髪は灰色に、切れ長の瞳は光を失い、薄化粧に妖気に満ちた濃い紫の紅を口にひいたその見た目は、今までとまったく違い、威圧的で禍々(まがまが)しい妖気に満ち満ちていた。


「なんだこの沸き出るような力は! ハッハッハッ。この力さえあれば長尾軍など八つ()きに出来そうだ! ハッハッハッ」


 四季彩は立ち上がると諸手を挙げてこの妖しい力に感嘆し、すぐに幹部の召集の下知を降していった。


「その力を使い、私の言う通りに行動して頂けたら、願いは叶うと約束いたしましょう」


 黒ずくめの男はそれだけ言って、闇のなかに溶け込むように消えていったが、邪悪に魅せられた四季彩には聞こえてはいなかった。



「見ておれよ、必ずや豊かな土地を奪い、妖怪どもを退治し、越中に止めおく一族郎党を迎え入れてみせる! この私、四季彩がっ! 待っていておくれ…………」



 杉の大木に身を潜め、息を殺してその一連の様子を伺っていた軒猿嵐蔵(らんぞう)は、そこまで確認すると、無音のまま疾風(はやて)の如く三条城目指して駆けていくのであった。


(これは大変なことになった! 影虎様、事はそう簡単には参りませぬぞっ!)



 嵐蔵はなおも疾駆(しっく)し続け、そう呟くのであった。

 そして破れ寺の上空に暗雲が立ち込めるのであった。



 次回 6、叛乱党の曰くと神々の対話


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