第一章 5、橋上の悲喜交々
栞菜とまこと、そして姫子とヤマヨシは連れ立って嵐川橋を目指して歩いていた。
姫子とヤマヨシはキョロキョロと辺りを見渡しながら時々小声で何か話している。
そんな2人を横目に、まことは栞菜のことを考えていた。
さっきの怒り方はどうなんだろうと。普段の栞菜は、そうそう声を荒げたりする性格ではない、むしろ無口で物静かなタイプだとまことは知っている。
だとしたら先程の怒りはなんだったのか。長年の付き合いからか、まことには大体察しがついている。
そう思いながら、そっと横を歩く栞菜の表情を読み取ろうと、それとなく顔を覗いてみた。
そこには不敵な笑みを浮かべる栞菜がいた。
(やっぱり! 栞菜は内心ワクワクしている!)
そう確信したまことは素知らぬ体で、揺さぶりをかけてみた。
「ありもしないお城を観に行くなんて無駄かもねー」
「はぁ? 何を言ってんのよ! ひょっとするとひょっとするかもしれないじゃない! だいいち、三条城自体が何処に建っていたのかさえ、今現在は判明されていないのよ。それが、もしも……もしもよ? ここに存在してましたぁ! なんて証拠の何かでも見付けてみなさいよ!」
鼻息荒く、栞菜はまことに詰め寄る。
真夏の熱さと、メガネ女子の燃え盛る情熱は相乗効果抜群。
鬱陶しささえ感じるまこと。
だが、スイッチが入ったメガネ女子は止まらない。
「それはもう世紀の大発見よ!! 私は密かにあの謎の2人に賭けるわよ! このご時世にあのヤマヨシって人の言動。気が振れているか真実を語っているのかのどちらかよ! ひょっとするとひょっとするわよぉぉぉ」
最後には栞菜はキッパリとそう言ってのけた。
そしてまだまだ力説は止まらない。
こうなっては手がつけられないと知っているまことは小さく呟く。
「でたわ。ネオ栞奈……」
まことは何かの弾みで興奮状態となり、まるでトランスしたかのように猛り狂う栞菜をそう名付けているのだ。
そんな暑苦しい幼馴染みとのやり取りもそこそこに、ついに嵐川橋が見えてきた。
横断歩道を渡り、橋の中ほどまで来た時には絶句してしまっていた。
「な、何あれ蜃気楼? あんなもの今まであった!? 弥彦山が全然見えないじゃない……」
「いいえ、今までは絶対あんな建物はなかったはずよ?! やっぱりだわっ! 奇跡よ、これは奇跡よっっ」
「そ、そうね、なんだかドキドキしてきたわ!」
「ワクワクドキドキよッ!!」
まことと栞菜は世紀の大発見でもしたかのように驚き慌てふためいていた。
嵐川橋から合流点を眺めると、晴天の日には通常、弥彦山がよく見える情景のはずが、それを覆い隠すように巨大な建物が2人の目には聳えて見えていたのだ。
もちろん蜃気楼だからハッキリと見えるわけではない。
だが事前に三条城が合流点にあると言われて来てみた2人にとって、目の前の蜃気楼がハッキリと三条城として認識できたのだ。
「蜃気楼だけどありましたね、三条城!」
歓喜に沸き立つ栞菜は、姫子とヤマヨシに話し掛けたのだが、まことと栞菜の感動とは裏腹に、2人は愕然と肩を落とし、困惑の表情を浮かべていた。
「なんと……この時代に城は存在しないというのか?」
「未来には三条城がない……やっぱりあの災いを止めなければならないってことなのですね…………」
「なに、何? ナニ?! 災い? 未来? その辺の話をもっとプリーズッ!」
ネオ栞奈は止まらない。
しかし、落ち込み、なおも愕然とする2人は、まことと栞菜に礼を言うと静かに立ち去ろうとした。
「そうだ姫子殿、念のために、この町娘達にも見てもらってはどうか?」
ふと立ち止まったヤマヨシは姫子にそう言う。
「そうでした、知り合う人々には必ず見てもらえと言われていましたね」
そう言うと、姫子は懐から懐紙を取り出し、開いて2人に見せた。
「これ見たことありますか? いやりんぐとかって言うものらしいのですが」
懐紙の内側にはまことが鍛えて作った火花のイヤリングの絵が墨で書かれていた。
「あぁそれはまことが作った火花のイヤリングでしょ。私も貰ったから。ほら、これでしょ?」
と、栞奈は携帯のストラップ変わりに付けてあるイヤリングを見せた。
それを見た姫子とヤマヨシは仰々しい身振りで驚いてみせた。
「そ、そそそそなたら、それを何処で手に入れたのじっ!?」
「えっ? これは私が作ったんですけど? もちろん私も持ってますよ」
まこともポケットからチャリンと出して見せた。
「えっ? まことさんがお作りに? まぁ! なんて、なんて幸運でしょうか」
「姫子殿! これは瑞祥じゃ! しかも火花と言い当てるとは。そして一度に二人も見つかるとは、なんたる強運! やはり姫子殿に同行して頂いた甲斐がござりましたの! しかし、実物はただの鉄の塊にしか見えぬが…………」
「えっ? ちゃんと絵のとおり火花ですよ!」
絶望から一転しての2人の歓喜に、まことも栞菜も次々と疑問が降って湧いた。
「どういうことですか? 確かにその絵は私が作ったこのイヤリングのようですが、あなた方が何故そのイヤリングを知っているのですか?」
「そうね、確かそれって私とアンタと、ボランティアの子達の合計4人しか持ってないはずじゃなかったっけ? っていうか、姫子ちゃん火花に見えるの?」
「は、はい。姫子にはそう見えます!」
栞菜はまことをチラッと見る。
小さく頷いたまことは、呟いた。
「これで5人だわ……」
「どういうことじゃ? うーむ……だが作り主が目の前におられるのならば、経緯を少し話さぬ訳にいかぬなぁ姫子殿!」
コクリと頷いた姫子は、真剣な眼でまことと栞菜を交互に見て淡々と語り出すのであった。
「実は私達は………」
人物紹介3 姫子
次回 6、その名は巌鉄斉!