第三章 1、星を集める少女 ~いつか一緒に油揚げを食べましょう!~
サブタイトルを変更しました。
「暗くなってきたけんど、まだかいの? 栞菜さん」
深く考え事をしていた栞菜は、格兵衛にそう催促されてキョロキョロと両方の土手を見渡した。
栞菜・助作・格兵衛の一行は咲良逹と別れ、千恵が住む同心坂近くの掘っ建て小屋を目指して五十嵐川から遡上していた。
栞菜は出会った時から不思議な女性、千恵を神様ではないかと推察していた。身に覚えはいくらでもあった。
親切で大人びていて、それでいて妖艶な美しさを併せ持つその人は、栞菜が目指す服飾を生業としていた。
千恵に助けられ、瞬く間に意気投合した2人は、千恵の好意で貴重な反物を使わせてもらい、鍛冶ガールの作務衣を共に作製。
栞菜は心底そんな彼女を慕い、最後には姉のような存在となっていたのだ。
「あそこでねぇか!?」
と、舟の先頭に立ち夜目がきく助作が指差した。
どっぷりと日が暮れた空はオレンジ色を暗くし、土地勘のない栞菜にはもはや肉眼でそれを確認することはできなかった。
「どれどれ? 全然みえない!」
「あそこだよ、あそこ! ちっせぇ小屋が見えるてば」
栞菜は言われた方角を目を凝らして見たがやはり確認できなかった。すると視線の先が突然、目映いばかりの閃光に包まれ、白い光の中に人影が見えた。
「ひ、ひぃ~。バケモノだ! 妖怪だてばぁ!」
「ほんだぁ、なんだあの丸っこい光りはっ! まるでおら逹を誘うみてぇでねぇか…………」
助さん格さんは共に舟の上であることを忘れたかのように棒立ちになって、上昇していくその光をなおも見詰め続けた。
「お千恵さぁ~ん! 元気だったぁ??」
驚く2人を尻目に、栞菜は光に包まれた人影に何の躊躇いもなく、手を振って叫んだ。
小屋の近くの川原に舟を着け、颯爽と降り立った栞菜は、ゆっくりと下降してくる光から目を離さなかった。
神々しい光の中から例の涼やかな笑みを含んだ美女が出現。
千恵は紫の鮮やかな着物に、艶のある漆黒の長い髪をなびかせている。
そんな千恵を見詰める栞菜は違和感を覚え、千恵を上から下まで舐めるように観察した。
「なんかこの前と違うなぁ…………なんだろ??」
千恵は再び笑うと耳をヒクヒクさせた。
「あっ! えっ!? 耳が頭についてる! しかも三角だ! お千恵さん可愛い! んん!? モフモフの尻尾もある!」
「やっぱり来たわね、栞菜。待っていたわ」
しっとりと口を開いた千恵はクルリと一度回わると、淑やかに笑った。
「お千恵さん! 単刀直入に聞きます! あなたは神様ですか!?」
栞菜の直球の質問に、笑みを浮かべたまま一度だけコクンと頷いた。
「やっぱり! お千恵さんから不思議なオーラを感じてたんです!」
「ウフッ、実はあなたから色々な話を聞いているうちに、微力ながら私も協力しなきゃと思っていたのよ。それであの特別な反物も作務衣に設えたのよ」
「そうだったんだ! お千恵さんて狐!? 耳も尻尾も狐っぽいし! それに私の夢にも出てきてた??」
「えぇそうよ。気狐っていってね、狐の神様の端くれみたいなものよ」
「気狐? 聞いたことないな。だけど天文に来て1番信頼できる人が私のパートナーで安心した!」
お千恵は可愛い妹を見るような眼差しで両手を差し伸べ、栞菜の手を握った。
(感じて、栞菜。私とあなたの力を)
(えっ? テレパシー??)
(意識を集中するのよ。あなたは光の力、進むべき道を照らす明るい閃光となるのよ)
2人は少しずつ発光しだし、光の中に消えた。目をつぶっていた栞菜は真っ白な空間の中、一匹の銀色の狐を見た。
後光が照らす銀狐は目の前に端然としていた。
(さぁ自身の力を開放する時が来たわ、私と心をひとつに)
(…………はいっ!!)
お千恵を信じきっている栞菜は何の迷いもなく、再び目をつぶるり、全てを千恵に委ねるように光をイメージした。
フワフワした空間の中、1つだけハッキリと、そしてクッキリと感じることができる小さな白い玉を見つけた。
(!! これね!? これが私の力?!)
栞菜がその白い玉を握ったその時、無音の中、刹那のうちに大小様々な光が栞菜を目掛けて集まりだした。
それはさながら、空に輝く星々が瞬くように流星となり、栞菜と同体したかのように見えたか。
全ての光を吸収した栞菜は神々しいオーラを身にまとい、瞳は輝きを凝縮したようなうっすら紫がかった色をしていた。
他の誰よりもすんなりと力を得た瞬間であった。 そしてそれは一重に栞菜とお千恵との信頼関係が成せることでもあった。
「ふぅ~……あのね、お千恵さんと出会って、夢で狐を見た時からずっと思ってたことがあるんだけど…………」
「あら、なぁに? 栞菜」
「いつか一緒に油揚げを食べましょう!」
「油揚げ? なぁに、それ??」
(あっそうか。この時代ってまだ油揚げってないんだっけ?)
栞菜は苦笑いすると続けた。
「きっとお千恵さん大好物よ!」
「食べ物なのね? えぇ! 一緒に食べましょうね」
お千恵はそう言うとニッコリ笑い、その笑顔を見て一安心した栞菜はガッツポーズをしながら、星屑が煌めく大空に向かって大声で叫ぶのであった。
「よっしゃーーー!!!」
「各々が感じる地を指してもらいたい。よいか感じる場所じゃぞ!」
「なんじゃ!? 三条周辺の絵図面のようだが」
「感じるってなにを??」
「唐突ですね。初代様は!」
「姫子は何も感じません…………」
「やっかましぃ! うぬらに聞いておるのではない! そこにおわす神々に問うておるのじゃ!!」
栞菜がお千恵との邂逅の中で自らの力を得てガッツポーズをしていた頃、巌鉄斉の屋敷ではそんなやり取りが巻き起こっていた。
「なるほど。そういうことですか」
「ウム。そうか、相棒と力を合わせてのぉ」
「そうか。各個撃破というわけじゃな」
「はぁ~?? 全っ然、意味がわっかんない! なになにどういうことぉ~!?」
「やかましいわい咲良! ワシは神々に聞いておるのじゃ!」
それを聞いてまことは天狗を、姫子は白夜を見た。それぞれ理解したようで、難しい顔をして図面に見入っている。
「ねぇ影虎! なになに!?」
「だまらっしゃい!! 集中せんと見えぬのじゃ! 黙ってそこに座っておれい!」
頭を押さえつけられ座らせられた咲良はプンプンしたが、さしもの影虎も相手はしなかった。
「もう! なんなのよ! いったいぜんたい!!」
居並ぶ者全員がそれぞれの力を発揮する光景を腕を組んで眉間に皺を寄せる巌鉄斉であった。
次回 第三章 2、空を駆ける少女は幼女と出会うってか!?




