第二章 終、新生! 鍛冶ガール 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 とはよう申したものじゃ!
茜に向かって走る咲良と、咲良に向かってびっこを引く茜。
その2人は大書院へと続く廊下で出会った。2人共、瞳には涙を溜めていたが、心が通じ合ったかのような満面の笑みを浮かべていた。
抱き合い、そして謝り合った。
まこと、栞菜、そして姫子は黄金の柱に引き寄せられるようにそんな2人に合流し、白夜、影虎がそれに続いた。
5人はそれぞれが視線を交わすと何度も何度も頷いては微笑み合った。
軍司はどうしたのか気になった栞菜ではあったが、あえてそれを無視し、待ちに待ったお揃いの作業着のお披露目の準備を始めた。
「オッホン! それでは無事、仲直りも出来たことだし、いよいよ核心に迫ってきた今日この頃! ボロボロの制服を脱ぎ捨て、鍛冶ガールが新たな進化をする時が到来したわけです!」
久々に熱弁を振るう栞菜スタイルをニコニコしながら拝聴する面々。
「今日はなんだか演説めいてるわね! あの子」
「ほんとほんと! ねぇ茜」
「だねー。早く手製の衣装をお披露目したいのよ! きっと」
「姫子、楽しみです!」
「レディースエーンジェントルメン! エーンド、ディーアティー」
「ディタティンてなんですか!?」
「さ、さぁ? 何? 茜」
「神様って意味じゃない?」
「茜、正解! 女性と男性と神様がいるからでしょ。たぶん。如才ないわね。相変わらず」
そんな雑談を栞菜はものともせず続ける。
「ご照覧あれ!」
そういって大きな風呂敷包みを紐解いて広げた。
カラシ色の5着の作務衣を前に少女逹は色めき立った。
「カッコいい! メッチャ鍛冶ガールって感じ!!」
「咲良、見てよ見てよ! 下はフレア付きのキュロットパンツよ! おっしゃれぇ!!」
「姫子も可愛いと思います!」
「うん! 素材もしっかりしていていいじゃない!」
満面の笑みの栞菜は仁王立ちに腕を組み、興奮しきりで言葉をつづる。
「さすが茜はオシャレさんね! そうよ、ただの作務衣じゃ物足りないと思ってお千恵さんに提案したのよ! だって今をときめく乙女なんだから! それに、それぞれのサイズに合わせてあるし、少しずつ丈なんかも違うのよ。私のセンスを信じて、ささっ! 着替えて着替えて!」
咲良逹は言われるがままに白夜と影虎を廊下に追い出すと、キャッキャッ言いながら着替え始めた。
廊下に追いやられた影虎と白夜は庭の松の古木を眺めながら言葉を交わす。
「いつの時代も女性は元気で溌剌としているに限りますね。影虎殿」
「ウム…………ワシらが鎧や兜に拘るようなものだろうか?」
「ですかね。というか軍司さんは何処へ?」
「知らぬなぁ。助作はおらぬか!? 格兵衛は何処じゃ! 急ぎ、すけべの軍司を見つけて参れっ!」
軍司は居ないところで影虎にまでスケベ扱いをされてしまったが、不意に障子が勢いよく開け放たれ、栞菜のアナウンスによる即席のファッションショーが開始となった。
「1人目は天真爛漫なクレイジーガール、咲良ぁ・一ノ門!」
横から歩いて出て来た咲良は、袖を捲り上げた作務衣に例のフレアキュロットパンツを履き、溢れんばかりの笑顔で敬礼し、形の良いお尻が際立つようにポージングした。
特に色気はないはずだったが、影虎は何故か真っ赤になり鼻を抑えて息を荒げた。
「2人目は蘇った不死鳥!! 跳躍美人、スタイルのよさが際立つあなたはなんなんですか!? 茜ぇ・大町ぃ!!」
茜はゆっくりと歩いて登場すると、隠し通せないバストが強調され、しなやかなウエストからヒップにかけての線が人目を惹き付けた。
キュロットパンツから延びる脚は細過ぎず、しかし太過ぎず、健康的な脚線美だった。
そしてフレンチスリーブの袖から張りのある肌をした腕を伸ばしてポージングした。
「3人目は時を越える美少女! ぶりっ子とは、この子の為にあるんですね!? 姫小百合のかぐや姫、姫子ぉ・中浦ぁ!!」
ちょこんと現れた姫子はカラシ色の作務衣の上に透き通るような水色の小袖を羽織り、ぶりっ子な素振りで腰を動かして、キュロットパンツに付けた火花のイヤリングをカラカラっと鳴らしてエヘヘと笑った。
特に色気はないはずだったが、可愛げのある姫子を見て白夜は生真面目な表情で小さく拍手をしている。
(それだよ! 姫子、最高! 可愛い過ぎる!)
と、心の中で叫んだ。
「4人目は呆れるほどに鍛冶が好き! ダイナマイトオールマイティー生徒会長! まことぉ・鍛冶町ぃぃ!!」
颯爽と現れたまことは茜より一層と豊満なバストを包みきれず胸元が広がって谷間が見えるほどだった。プルンプルンと胸を揺らしながら歩き、立ち止まると、七部袖の作務衣の片腕を腰に、もう一方の腕で黒鐵を持ち、前にシャキッと出すと目を細めてポージングした。まことだけはキュロットではなく、下も七部丈の作務衣だった。
まことが登場すると、一瞬そよりと風が吹いた。
白夜と影虎の背後に恐ろしく鼻の長い異形の者がいつの間にか姿を現していた。
「ほっほっほっ、やはりまことは凛としておる! よきかなよきかな」
扇をあおぎながら満足げな顔をして松の古木にふわりと飛び乗りまた笑った。
「天狗様! いらっしゃったんですね!」
「おおとも。そなた行ったっきりなかなかワシを迎えに来んでのぉ。自ら来てしもうたぞ!」
一同は白夜、影虎に続いて、突然の神様の来訪に驚いた。天狗の見た目について口々に囁き合ったが、天狗はそれを制止し、ショーの続きを促したか。
隠れている栞菜がこそっとまことにメモを渡して司会を委ねた。
「これを読めばいいの? てかいつ用意したのよ」
「いいから早くして!」
コクコクと頷いた栞菜は催促する。
「さ、最後を飾るのは鍛冶ガールきっての歴女! 鍛冶ガールの秘密兵器にしてミス知恵袋! 栞菜・五十嵐!」
はんなりと現れた栞菜は七部袖の下に黒い長袖を着込んで、長めのキュロットパンツを履いていた。
栞菜だけは腰に例の腰袋を巻いていて、長く紫がかった髪がさらりと揺れた。他の者とは違う独特の美しさを醸し出した佇まいに一同は息を飲んだ。
5人揃った美少女・鍛冶ガールはみんなうっすら笑うと、再度ポージングして、最後にウィンクした。
影虎は悶絶し、白夜は鼻血を出し、天狗はその長い鼻をヒクヒクさせてのたうち回った。
そこへ見つけ出された軍司が、助さん格さんと共に廊下を歩いて来る音が聞こえてくる。
庭に降り、狂喜乱舞する影虎逹を見ると怪訝そうに話し掛けた。
「なにしてんすか!? 影虎さんも白夜さんも! って、うぉお! て、天狗!? 八幡様の天狗!?」
「小僧、後にせぇ! お前もこっちへ来て中を見てみぃ! 早う早う」
天狗に手招きされた軍司は恐る恐る庭に降りて中を見ると奇声をあげて昇天してしまった。
「茜、あかね…………か、かわえぇなぁ…………」
そう言うと、鼻血を吹き出して、またしても卒倒してしまった。
助さん格さんも目を見張って美少女逹を順繰りと何回も何度も見比べていた。
「こらぁいとしげらぁ。のぉ格さん!」
「ほんだぁ。どうしょばぁ…………」
新生・鍛冶ガールの誕生の瞬間は男性を虜にし、各々が興奮さめやらぬ形でしばらく続いた。
そして一段落した頃、そんな一同の心にテレパシーで語り掛けるような声が聞こえてきた。
(むぉっほっほっ! これはまた美しい娘逹よのぉ。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とはよう申したもんじゃて)
「えっ!? 誰?」
まことが即座に声に出して質問した。
「あっ! じいちゃん!?」
「ちょっと咲良、この声のヌシが誰か知ってるの!?」
知ってる風な咲良に詰め寄る栞菜。
早速、治療をお願いしていた茜は姫子と顔を合わせると首を横に傾げた。
「おぉ、この声は巌鉄斉のじじぃだな!?」
「じゃな。あの助平じじぃの声じゃわい」
そう言った影虎と天狗を交互にまことは見た。
「えっ!? 巌鉄斉?! 初代・巌鉄斉様なの!? この声」
影虎と天狗は同時に頷いた。
(ほっほぅ。そなたら、そろそろワシの元へ参れ! 災いどんはそう待ってはくれぬでなぁ。会たら詳しく話すで、今すぐ来るべし!)
咲良逹は立ち上がって全員が庭に出た。まことは自身の風の力を使い、飛んで行こうとみんなに提案した。
「出来るのぉ? まこと、そんなこと!」
咲良は驚いて質問し、天狗をチラッと見て自信満々にまことは出来るわよと答えた。
「じゃあみんな、私の回りでそれぞれ手を繋いで! 方角は天狗様、お願いします!」
「御意!」
まことは目をつぶって集中しだすと、翠色の風が円となった一行を優しく包み込んでいく。
「なにこれぇ! 柔らかくて心地いい風ぇ!」
「ほんと! 癒されるようだわ」
「ですね!」
栞菜と茜、それに姫子はそう言い合うと、まことは咲良に静かに呟いた。
「咲良、掛け声を」
そう言われた咲良は張り切って元気に叫んだ。
「新生!! 鍛冶ッガール、出動!!」
浅緑の瞳を開いたまことは一言。
「飛べっ!」
と言うと、一同はフワッと浮かび上がり、勢いよく巌鉄斉がいる場所へと飛び立って行くのであった。
次回 第三章 0、巌鉄斉、采配! おぬしはあれで、おことはこれじゃ!




