第二章 27、想い人よ! 大空を羽ばたきたまえよ part3
影虎が咲良が黄昏れる川原へと赴く少し前、息せき切った軍司は、やっとの思いで茜を探し出していた。
茜はどうやって登ったのか、櫓(城の攻防において有利に働かせる為の建物)から外周を見渡せる場所に座っていた。黄色く染まった陰湿な景色を見ていると気も滅入りそうだが、自分の気持ちを思いっきり咲良にぶつけたことで、存外スッキリしたような表情を浮かべていた。
「ここに居たのか。どうやって登ったんだよ、その足で」
軍司は呼吸を整えながらも質問せずにはいられなかった。
「…………わかんない。気付いたらここに居たわ。ごめんね。さっきは。鍛冶ガールやめて令和に帰るだなんて」
軍司はそれを聞いて胸を撫で下ろした。
どうやら勢いで言っただけで本当にやめて帰るつもりはないと分かったからだ。
「茜、俺達は大事な仲間だよなぁ? それにお前だからこそ、咲良が言ってることも頭では理解出来てるんじゃないのか?」
「…………そうかもね。なんだかんだ言って咲良はいつも私を優先してくれてた。甘えてたのよね。こっちが咲良を面倒見てるつもりが、それはいつの間にか逆の時もあるって気付いた時に、結果として報いたいって焦ってたのね、きっと…………中学の大会で怪我をした時、あんな咲良の顔を2度と見たくないって思って、勝手に競技を辞めて、咲良を罵ってしまって…………だけどあの子はその後も無かったことにしてくれて、私と今までと同じように付き合ってくれてたんだよね。自分の気持ちを我慢してさ…………」
軍司は滴る汗を拭うとドタッと胡座をかいて茜の話に必死に耳を傾けていた。
「はぁ~。いい友達じゃねーかよ!」
鈍った空を見上げて茜は音に出さず泣いた。その整った輪郭に光るものが絶えず溢れ、床を濡らした。
「ほんっとバカよね。私は……頭では理解出来ていても、行動がどうしても出来なかった………私はどうしたらいいの? 軍司」
振り向いた茜の表情は切なく、その美貌を更に際立たせていた。知り合ってから未だかつて見たこともない憔悴しきった茜を見ていると、軍司は突然立ち上がり、そんな茜を強く抱き締め、頭を撫でた。
「大丈夫だって! みんなお前を信じて待ってる! お前なら出来るさ! ゼッテー乗り越えられる。自分を信じろよ。俺が惚れた女、大町茜はそんなやわなヤツじゃねぇ! 間違ったことは直して、正しい道に戻ればいいだけだろ? この時代に来て高い壁にぶち当たった。それを飛び越える時が今なんじゃねーのか!? 茜!」
急な抱擁に滂沱の涙を流していた茜はヒックヒックと痙攣しながらも必至に涙を止めようとしていた。
「茜のジャンプはまるでペガサスなんだぁ! っていつも咲良は言ってたぜ!? そろそろお前が空を羽ばたいてる姿を見せてくれよ!」
(私がペガサス? そんな風に私を見ていてくれたの? 咲良……)
軍司に抱かれていた茜は、グッと鍛えられた軍司の双肩を押し返すと、ゆっくりと立ち上がった。
そしてグチャグチャだった顔は、キリッとした表情に変わっていた。
「私にだって選ばれた者の力があるはずよね! 意地を見せなきゃ! 信じてくれる仲間のためにも。そして大町茜を前に進ませなきゃ! 私、みんなに謝って、姫ちゃんに治療してもらって、もう一度あの天馬の祠へ行ってみるわ! そして、もう一度咲良と…………」
それは茜が壁を乗り越えた瞬間だった。耳に付けた火花のイヤリングと傍らに置いてあった黒鐵が光を集め出し、徐々に発光しだした。
「あ、茜っ! これは!」
「うん! 咲良やまことさん、それに姫子ちゃんと同じ強い力を感じるわ!」
「けど、どうするとどうなるんだ??」
「わからない! けど、今のこの強い想いをぶつけるだけよっ!」
そう言うと茜は全身に気を集中し、強く念じた。
(私はもう挫けない! みんなと一緒に、きっとこの世界を救ってみせる! いいえ、ぜったいよ!)
不思議な光は雷のように激しい輝きへと変わり、両手を黒鐵に向けた茜に引き寄せられるように吸収されていく。
(いけるっ!)
茜は両手をかざして大声で言った。
「輝く光の力よ! 私と1つになれっ!!」
その言葉に呼応するかのように茜を包み込んだ黄金色の光は辺り一面を目映いばかりの閃光で覆い尽くした。
バチッバチッと雷が迸るような、強いオーラでだった。
眩しい光の中でポツンと1人、少女が立っていた。
(?! あ、あなたは誰?)
(はは! やっと迷いを振り払ったんだね! 嬉しいよっ。祠で待ってる)
迸る閃光は茜に集中し、大きな光の柱となって天高く登っていく。
「なんだよこれ!? これが茜の力ってやつか!? すげぇ…………」
「見えたわ、軍司! 光の中で小さい女の子が私を待ってるって! 祠で待ってるって!!」
満面の笑みで言った茜は、後光が照らす聖女のように軍司の目には映った。それは天女と言っても過言ではないくらいの一枚絵のように、美しかった。
「お、おう! 行こうぜ! 天馬の祠へ!」
光は徐々に収まっていき、最後には茜の胸に凝縮され茜と一体となって消えた。
一息付いて腰を下ろした茜は、今度は静かな微笑みで軍司を見詰める。
「ありがとう、軍司。お陰で吹っ切れたよ」
そう言った茜は以前とは比べ物にならないくらい見目麗い女性へと変貌していた。軍司はドキドキして恥ずかしそうに顔を背けた。
「ウフッこれはお礼よ」
茜はそう言うと軍司の頬っぺたに触れるか触れないかの際どいタッチでキスをした。
足を引きずりながら咲良に、そしてみんなに早く会いたくて夢中で歩き出した茜を、呆然と見ていた軍司は大混乱と高揚感とが津波のように押し寄せ、その場に卒倒してしまったか。
「なっ!? おまっ、おまっ、えっえぇ〜!? き、気持ちえぇ感触ぅ~」
最後にはそう呟くと、緩みきっただらしない顔で意識を無くしていくのであった。
次回 終、新生!鍛冶ガール 立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花とはよう申したもんじゃ!




