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第二章  26、想い人よ! 大空を羽ばたきたまえよ part2

 咲良は川原に体育座りで(たたず)み、さわさわと流れる川面をボンヤリと眺めながら、昔のことを思い出していた。


 咲良と茜が初めて出会った場所。

 とっくの昔に廃館となった西中児童館のことを思い返してみる。

 集中力散漫な咲良を茜はよく注意し、そして2人で幾度となく絵を描いた。咲良はテレビで見たアニメのキャラクターをぐちゃぐちゃと描き、茜は見たこともない外国のお姫様をいつも描いていた。


(あの頃からオシャレな服とか小物が好きだったなぁ。茜ってば…………)


 

 咲良が目にする茜はいつも輝いていて、高跳びの選手となった時など、小学校の教室から見えたペガサスとダブって見えた。

 秋には紅葉、そして春には新緑。

 季節それぞれに違った輝きを放つペガサスを、いつのまにか咲良はそっくりそのまま茜に投影するようになっていった。



 勉強も出来たし、スタイルも良く綺麗だった。

 性格も良ければ運動神経も申し分ない。まさに非の打ち所がない茜に負けてはいられないと自分もバスケットボールを頑張った。

 しかし自分は競技に参加するよりは応援することの方が性に合っていると思った咲良は、その時から茜の一番の理解者となり、応援団長として励まし声援を送った。


 毎日、飽きずに茜を応援し続けた。

 しかし輝いていたはずの茜が、いつしか酷く()()()で見えるようになった。

 茜の努力と共に歩んできた咲良にはすぐにピンときた。それは()()と言うのではなかったか。

 誰にでも優しかった茜が時折、人を見下した瞳をしたり、準備に後片付けを後輩や大会に出場できない人達に任せっきりにするようになっていた。


 (うれ)いた。

 それに忠告もそれとなくしてきた。

 しかしそれは届かなかった。

 結果、大一番で最悪な結果を招いた。

 そして思わぬ罵声(ばせい)も浴びせられた。

 

 だが、咲良は落ち込んで自分の過ちを直視出来ないでいた茜を、信じ、許し、待ち続けようと心に決めて()()()の話を封印し、無かったかのように今までと同様に付き合って来た。

 ちょうどスクール☆ウォーズを観たばかりの咲良はそうやってきたのだ。


 しかし今回はそうは言ってはいられなかった。

 自分逹は選ばれた存在であり、過去を救う為に力を合わせると約束した同志であって、仲良しこよしのままでは到底自分の内なる力も神様の助力も得られないと感じていた。


 それは天文の時代を平和な世に戻せないことに直結している。

 なんとか茜に立ち直ってほしい。それは焦りとなり、今まで押さえてきた感情が(せき)を切って溢れ出てしまったのだ。


 後悔はしていないはずなのに酷く不安だった。

 そんなことを考えている最中、背後に人の気配を感じ、振り向く咲良。


「な、なんじゃ? おぬしも来ていたのかっ」


 わざとらしいかな、影虎が手持ち無沙汰で突っ立っていた。


「なんだぁ影虎か」

「なんだとはなんじゃ! 珍しく落ち込んでおるではないか」

「べ、別にぃ…………」


 咲良の脇に腰を落ち着けると影虎は続けた。


「これからどうするつもりじゃ。もしあの茜という娘が本当に帰ると言い出したら」


 顔を曇らせた咲良は膝を抱え角度によってはパンツが丸見えの悩ましい姿で深く考え込んでいく。


「そんなことわかんないよ。茜の選んだ道なら仕方ないじゃない」



 どれくらいの時が流れたであろう。

 中天を仰いだ影虎の視線に百舌鳥(もず)がヒュンヒュンと飛び交う姿が映し出され、飛行機雲のような妖怪が遥か彼方を目指して一直線に飛んでいた。


「そうか…………そうじゃ、まことら三人はの、おぬしらを信じて待つと決めたようだぞ。うんちく娘も姫小百合(ひめさゆり)の巫女も仲直りしたしの。ははは、決心した者の覚悟はなんとも(いさぎよ)いものじゃ」

「そっか…………」



 咲良のいつもの天真爛漫(てんしんらんまん)さは鳴りを潜め、驚くほど可憐(かれん)な少女になっていた。

 影虎はそんな今まで見たことのない咲良を見て、胸のざわめきを禁じ得なかった。

 それは守ってやりたいとも思わせる感情でもあり、酷く愛くるしいとも感じさせる、未だかつて影虎の経験したことのない、むず痒い感情であった。



「そちも今まで抑えていた気持ちを真っ直ぐに茜にぶつけたのであろう? 軍司だったか、彼奴(きゃつ)は二人を心配もしていたが、そなたの気持ちを察してもいたぞ。なんとも良き友を持ったものだ」


 それを聞いて咲良は顔を上げて驚くように影虎を見た。

 その表情がまたもや影虎の胸を熱くさせ、遂に爆発した。


「大丈夫じゃ! 必ず茜は復活する! ワシと対等に渡り合えるそなたの盟友ではないかっ! この炎龍(えんりゅう)・影虎が保証する。そなたは安心して茜を待てば良いのじゃ! それに…………そ、側にはいつもワシが着いておるわっ!」


 最後には(わめ)くように大声を張り上げた影虎を見詰め、咲良がうっすらと頬を赤く染めたその時だった。城の(やぐら)付近から神々しいばかりの黄金に輝く光の柱が突如として出現した。



「あれは、なにっ!?」


 ビックリして立ち上がった咲良を影虎は(しば)し見詰めてから会心の笑みで答えた。


「フフッ、そなたが待ち望んだ盟友の復活ではないか!」


 咲良はキョトンとして立ち尽くしていたが、その言葉の意味を理解すると満面の笑みを作り、輝く柱に向かって走り出した。


「やれやれ、この()()()仲を取り持とうとは…………」


 胸の高鳴りを抑えられず、高揚しきった影虎は呟くようにそう言うお、ゆっくりと咲良を追うように城へと戻って行くのであった。



「茜っ、あかねぇ!!」


 咲良は何度も叫ぶように茜の名前を呼び続け、溢れでる涙を懸命に拭って、(うる)む道のりをしっかりと見据えて、なおも走り続けるのであった。



 次回 27、想い人よ!大空を羽ばたきたまえよ part3

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