第二章 25、想い人よ! 大空を羽ばたきたまえよ
これまでにない大喧嘩をしてしまった咲良と茜はその場を去り、咲良は川原へ、茜は城の一番眺めがよい櫓へと場所を移していた。
取り残された形となった他のメンバーも姫子は咲良を支持し、栞菜は茜を慮って姫子に噛み付いていた。
唯一そんなメンバーを宥める立場にあったまことは深い溜め息を付くと咲良と茜が去った方角を見詰めたか。
影虎はそんな鍛冶ガールの揉め事には一切介入せず、これまでに熟考してきた今後の方針を柿崎・小島・山吉以下の長尾軍に打ち出し始めた。
まずは姫小百合・軒猿衆からの報告をまとめ上げ、早々に越後に進行してきている叛乱党の鎮圧を目的とした軍令であった。
それぞれの軍勢への指示が決まると、三将は忙しなげに行動を開始していき、柿崎と小島は軍を割いて影虎捜索隊を出さないで良かったと内心ホッとしていに違いない。
指示をし終わった影虎は厳しい瞳を、そこここに力なく座っているまことら残された鍛冶ガールへ向けると、淡々と話し始めた。
「お主らの内輪揉めはお主らで解決せよ。そなたらがもし、ワシの協力が欲しいと言うのならいつでも力を貸そうほどに。じゃがワシからも一言二言申しておこうか」
影虎はそう言って、用意された床几に腰を落ち着けると今度は目を細めてまこと、栞菜、姫子を順番に見て続ける。
「そち逹は思い違いをしておるようだ。友であろうがなかろうが、まずは目的を果たすことが先決な筈じゃ。あの茜と申す娘、始めに会うた時よりも明らかに魂が弱まっておる。このままでは使い物にならん。だが五つの力が必要な事実は少しも変わらぬ。わかるか? そなたらに」
それを聞いて項垂れていた栞菜が立ち上がり影虎を見据えて問い掛けた。
「じゃあどうすればいいのですか!? 影虎様ぁ!」
「じゃからそれはそなたら次第と申しておろうがっ」
影虎に強めに返されてまたぞろ栞菜はうつむいた。
姫子も影虎の謎かけに深く考え込んでいた。
そして長い沈黙が続いていく。
まこともどうしたらよいのか考えていたが、決心したかのように立ち上がると一言呟いた。
「私は2人を信じるわ。咲良も茜を心の中では信じてるはず! だったら私も信じて待つわ」
姫子も立ち上がると同調し小さく頷いた。
「姫子もお二人を信じてます!」
手に顎を乗せ物思いに耽っていた栞菜も2人の決意を聞くと、深呼吸なのか溜め息なのか、はぁ~っと息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。
「そうね、あの2人ならきっと仲直りしてくれるわよね。茜も殻を破って強くなれるわ! きっと。それに姫ちゃん、さっきは言い過ぎたわ、こめんね…………」
栞菜の言葉を聞いた姫子はまことと視線を合わせてニッコリ笑うと返事をした。
「栞菜さん、姫子は何も聞いてませんけど!?」
惚けた顔がまた可愛らしく、栞菜に笑ってみせた。
それを見てまことが吹き出して笑った。
栞菜は小柄な姫子をグイッと引っ張って首根っこを掴むと笑顔で言った。
「このぉ冗談まで言うようになったなんて生意気よっ!」
「か、栞菜さんやめて下さいよぉ」
これで咲良と茜以外は元通りに結束したことになる。
それを確認した影虎は隅っこで胡座をかいて空を見上げている軍司に言った。
「そちはどうする? 信じて待つか」
問われて軍司は意を決したかのように敢然と立ち上がると軍神と謳われた景虎をキリッと見詰めてキッパリと言い切った。
「俺も信じてます! けど、俺は待たないっす。咲良はきっと茜にトラウマを克服して、もう一度高跳びやって欲しいんすよ。きっと! それは俺も同じっす。茜の跳躍は大空を羽ばたくような、そんな跳躍なんだぁ! っていつも咲良は言ってた…………俺、茜んとこ行って来ますわ!」
そう言うと足早に茜を探して走って行った。
一同は信じると決めたら不思議と不安が消え、晴れ晴れとし、一連の会話を静かに聞いていた白夜がニタニタしながら影虎を見詰めている。
それは白夜にしては珍しい素振りだ。
「なんじゃ? 大蛇殿は。ワシに何かあるのか?」
「フフッ、そろそろ影虎様もご自分に正直にならせられては如何か?」
「なんじゃと!? どういうことじゃ」
姫子、まこと、それに栞菜は今をときめく乙女である。恋心の1つや2つ気付かぬ訳がなかった。
「姫子もそう思います。影虎様はずっと咲良さんと一緒だったのでしょ? だったら咲良さんが心配ですよね?」
「そうよ。さっきから咲良が向かった方角ばかり見ているし。ねっ栞菜!」
「まったくだわ。影虎様ぁ私達は影虎様のお陰で不安はなくなりました! ですので、さっさと影虎様もやりたいようになさってくださいまし!」
いきなり全員に口撃された影虎はタジタジになり真っ赤になって反論した。
「ぬしら生意気だぞっ! ワシはそなたらが不甲斐ないでなぁ…………見ておられなかっただけじゃ!」
歯切れの悪い影虎に栞菜がトドメを刺した。
「さっさと行きなさいよ、意気地無しね。私の知ってる上杉謙信はそんなんじゃないから」
「言わせておけば無礼な小娘どもめっ! そち逹は城内で寛いで待っておれ! 咲良はどこじゃ! 出合え! 出合えぃ!」
影虎は威勢よく叫びながらのっしのっしと川原へ向かったのでだった。
次回 26、想い人よ! 大空を羽ばたきたまえよ part2




