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第二章 23、龍にまたがる少女

 姫子が戻った翌日、舟に乗って栞菜が意気揚々(いきようよう)と帰って来た。

 軍司も姫子もだが、一番喜んだのはやはりまことであり、栞菜もまことの無事を知ると胸を撫で下ろして安心した。

 栞菜は残るメンバーは咲良だけと知ると茜を心配したが、前日の揉め事を聞くと一目だけ会って、その後はそっとしておくことに決めた。


 この相変わらずのサバサバした性格に一同は安心感を得た。

 これまで(せわ)しなかった分、しばらくは静養ということで、束の間の自由な時間を雑談混じりに心行くまで過ごす。



「んでよぉ、ずっと気になってたんすけど、その大風呂敷はなんなんすか? カンナム先輩」

「よくぞ聞いてくれたわチャンバラくん! これはね、私が飛ばされた先で知り合った不思議な大人な女性、千恵さんから(こしら)えてもらった()()()()()よ! どうせみんな汚れたり破れたりしてるんでしょ!?」


 帰ったばかりの栞菜と一旦家に戻った姫子以外はボロボロの制服を脱ぎ、助さん・格さんの世話好きにより粗末だが天文時代の着物を着ていた。見かねた鬼小島は影虎様と対等の同盟者らに失礼だぞと2人を叱ったが、まことは充分だと主張し、有り難く着させてもらっている。


 姫子に合った色合いの小袖はより一層姫子を可愛くしたし、地味だが大人用の柄の着物はまことをより大人びてみせていた。

 それに胴着姿の凛々しい軍司はさながら天文の若者然としていたか。

 3人は車座になり、和気あいあいと栞菜を囲んで話し込んでいく。


「マジ!? 楽しみだぜ! へへ」

「姫子にもあるんですか!?」

「栞菜らしいわね。飛ばされた先で服を作る人と知り合うなんて!」

「フフフ、全員揃ったら着替えましょ! あっ……チャンバラくんのはないからね!」

「なっ…………なんでだよぉ!?」

「この服の素材はねぇ貴重で物凄く珍しい物らしいのよ! あんたみたいな無駄にデカイ図体したヤツの服なんてどれだけ素材を使うと思ってんのよ! それに秘めたる力も持ってない()()なんだから!」

「ぐぐっ…………ひでぇ。未来から来た仲間なのに…………」


 助け船を出すように昨晩遅くに帰還した山吉が話し出す。


「軍司殿は稽古着を着ているではないか! そのままの方が稽古もしやすかろう!」

「えっ? 稽古?」

「左様! そなたに剣の手解きをすると約束したではないか」

「マジっすか!? よっしゃあ! いっちょ頼んますわ!」


 軍司は除外された一件は無かったことのように張り切った。その後、お互いの帰還までの話を詳細に、驚きと感動を混じえて語り合った。

 栞菜は咲良の無事を確認したら、もう一度千恵に会いに行こうと決め、その時はお揃いの服でと密かに思っていた。


「後は咲良さんですね…………」

「それに殿じゃ」


 一同は肝心の司令塔がまだ帰っていないことに一抹の不安を感じたが、誰も口には出さなかった。


 そしてそれはちょうど咲良と影虎が盛大に喧嘩していた頃であった。



 翌朝、鍛冶ガールと長尾家臣団とで会議を行った。無論議題はなかなか戻らない影虎と咲良を探し出すために、捜索隊を出すか(いな)かであった。強硬派は柿崎と鬼小島らで、今すぐにでも一団をして捜索隊を出すと言い張った。



 かたや穏健派は鍛冶ガールと山吉であった。鍛冶ガールの面々はそれぞれが神様と出会って戻ったのだ。きっと咲良も神様の協力を得るために行動しているはずだと譲らず、山吉も散り散りになっていた兵が続々と帰還し、元の軍勢に戻りつつある時に数を()いてしまっては、いざ影虎が帰還し様々な指示があった時に即座に対応できないと主張した。


 話は大いに平行線を辿り、そんな場を見回すと栞菜が1人呟く。


「まるで小田原評定(おだわらひょうじょう)ね」

「あん? 小田原の表情? なんだって? カンナム先輩」

「まるで小田原氷上の? なんですって?」


 軍司とまことが頓珍漢(とんちんかん)なことを言って尋ねると、久々の栞菜スタイルが炸裂する。



「小田原評定っていうのはね、天下統一に王手を掛けた豊臣秀吉が何十万とゆう大群で難攻不落(なんこうふらく)の北条氏の本拠地、小田原城を攻めた時の話よ。危機的立場の北条氏が豊臣に対して撃って出て戦うのか、それとも籠城して守るのか連日会議してたんだけど、何度何回やっても結論が出なかったわけね。そうこうしているうちに負けちゃったって話よ。チャンバラくんはともかく、まことまでどうしたのよ? おバカの仲間入りでもしたの!?」


「ちょっ、ちょっと忘れてただけよ! 軍司と一緒にしないでくれる?」

「なるほど。結論が出ないって言いたいんですね!」

「姫ちゃん、そういうこと!」

「何気に会長もヒデェ………やっぱ代表が2人して不在ってのがデカイよなぁ…………」


 軍司は高い天井を見上げて言った。


「まぁた訳の分からぬことを言っとるの」

「解せぬなぁ。豊臣とはなんぞや?」


 遥か先の天下取りなど、知る(よし)もない柿崎と小島は首を捻ったが誰も答えてくれなかった。


 結論が出ない会議にそれぞれが沈黙を始めてから、どれくらいの時間が流れただろうか。

 それまで静観していた白夜が何かを察知したように急に立ち上がると書院から廊下、廊下から広い訓練場に足早に向かった。

 物静かな青年に見えて重要な神様なのだ。その行動は誰もが気になるところであった。


 全員怪訝(けげん)そうに、姫子を先頭にゾロゾロと白夜に続いた。

 怪我の治りが(かんば)しくない茜は、軍司と助作に補助されて遅れてだが付いて行く。


「急にどうしたの? 白夜」


 姫子は胸を揺らして駆け寄ると心配そうに見詰めた。


「そろそろ来ますよ。代表者が。それも揃って」


 柿崎はそう言い放った白夜を更に怪訝そうに見詰めた。来ると言っておきながら視線は門ではなく空を見上げていたからだ。


「お二人が帰ると!? じゃが何故空を見上げてござっしゃるかっ!」


 苛立ちを隠せない柿崎を山吉が(なだ)める。尚も空を(にら)んでいた白夜が声音(こわね)を変えて言った。


「来ますよ。ほら、あの空を見て下さい」


 白夜が指した方角の空は例のオレンジ色のどんよりとした模様だったが、次第にメラメラと燃えるような色に変わっていき、(またた)く間に信濃川まで真っ赤に染め上げた。


「なっななな、なんじゃあれはっ!?」


 驚きおののいた鬼・小島がやっとの思いで言葉を発したか。



「まこと、あれは何!? 昔話的なヤツ??」

「そう見えちゃうわよねぇ!?」

「ドラゴンだ! 真っ赤な神龍(シェンロン)だっ! かっけぇ」

「ドラゴンって何ですか? しぇんろんて! 軍司さん?!」

「龍のことよ! ドラゴンボールよ!」

「どらんごぼーる? そ、そうなんですね茜さん!」


 それぞれは荘厳(そうごん)なる龍を食い入るように見詰め続けていた。

 するとどこからか聞き覚えのある素っ頓狂な声が耳に入ったか。


「お~い! みんなぁーーー!!」


「咲良ちゃん! あれ咲良ちゃんだわ! 龍に股がってるわよ! ほら、あれ!!」

「おぉあれはまさしく咲良殿じゃ! 無事だったか!」

「やっぱりマンガ日本昔話的な!?」

「いやいやスーバー神龍だろっ!」

「スーパーってなんですかっ!? 茜さん!」

「スッゴいってことよ! 姫子ちゃん」



 それぞれが口々に叫び、ここに久しぶりの鍛冶ガールが揃ったのであった。



 次回 24、決裂!?茜×咲良。分裂!鍛冶ガール

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